モデルさんとのコミュニケーションについて〜コハラタケルvol.1:後編〜
XシリーズとGFXシリーズの使い分けについてお話しした前編に続き、後編ではモデルさんとのコミュニケーションについて話していきます。今回は、モデルを担当してくれた、くわはらひなたさんと会話形式で進めていきます。
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指示出しはなかったとしても「いいね!」の言葉で学習できる
コハラ「モデルさんとのコミュニケーションについて話していきたいんだけど、そもそも性格によって変わると思うんだ。ひなちゃんは自分の性格をどう思う?」
ひなた「そうですね、私は極度の人見知りなので、初対面の方とは本当にタジタジしちゃいます。最初は表情が硬くなってしまいがちです」
コハラ「そういう性格のひなちゃんがフォトグラファーにやって欲しい行動とかはあるかな?例えば撮影前はどう?カフェで打ち合わせや雑談をしてから撮影するという人といきなり撮影する人とで分かれると思うんだけど」
ひなた「そうですね。私は最初にカフェとかにいって、どういうことが好きで普段は何をしてるとか、雑談してからの撮影のほうが馴染みやすいというのはありますね」
僕も撮影ではカフェで打ち合わせ・雑談をしてから撮影する場合が多いです。ただ、これまでに聞いた話だとカフェでの雑談を良く思わないモデルさんもいます。あくまでケースバイケース。「撮影前にカフェで今回の撮影イメージを伝えたいのですが、どうでしょうか?」など事前に相談するのが◎
コハラ「指示出しについてはどう? ある方が良いか、なくても良いのか」
ひなた「指示出しに関してはなくても良いと思っていて、良い瞬間があったときにいいね! って言って貰えると、あ、今のよかったんだと学習することができますし、それをまた別の場所でやったり、応用したりできるので。これはよかった、あんまりだったというのを共有できると良いかもしれませんね」
会話ではなく行動でのコミュニケーション
ひなた「コハラさんは離れた場所から指示を出すんじゃなくて、自分がモデルの立ち位置に立って、こういうふうにやって欲しいと指示を出してくれるので分かりやすいです」
コハラ「確かにそうだね。自分はトーク力がないから、モデルさんにやって欲しいポージングを自分もやるというのがコミュニケーションになっているかもしれない」
ひなた「そうですね。それはすごくありがたいです。コハラさんがその位置(モデルさんに立って欲しい位置)にいることで、私もフォトグラファーの目線で見ることができるので」
コハラ「フォトグラファー目線!なるほどね。うんうん。確かに。一番そこが大事かもしれない。トークで和ませるというよりは自分がやって欲しいことを行動で伝える、そんな感じかな」
こちらの写真をご覧ください。
すべてのシーンではありませんが、僕は基本的にモデルさんにやって欲しいポージングは自分も実際にやって見せることが多いです。
モデルさんにやってもらいたいポージングなので、なかには可愛らしいポージングもあるわけですが、そんな可愛いポーズを今年で38歳になるおじさんの僕がやっているわけです。そこにおもしろさがあると思うんですよね。そして、コミュニケーションが生まれる。
あと街中での撮影となると通行人もいます。そのような状況で変わったポージングをするのは、やはり恥ずかしい場合もあるでしょう。でも、自分がイメージしている写真を撮るためには恥ずかしさを捨ててやらなければいけません。そういう恥ずかしさを共有するためにもやっています。
また、安全性の確認も行っています。僕がケガするのは良いのですが、モデルさんをケガさせるわけにはいきません。先ほどの写真に関しても、もしかしたら針金みたいなものが飛び出していて、壁に接近したらケガするかもしれません。ケガをさせないために安全確認をするなど、言葉でのコミュニケーションは難しいのですが、こういう身振り手振りのコミュニケーションを大切にするようにしています。
「この作品を本気で作りたいんだ!」という気持ちが大事
ひなた「撮影って撮影をして一緒に作品を残すことが目的じゃないですか? なのでそんなにトーク力がなくても、この作品を本気で作りたいんだ! っていう行動ができていれば良い気がします」
コハラ「うんうん。なんというか……精神論になってしまうんだけど、一生懸命やるのが大事だと思う。目の前にいる人が一生懸命にやっていたらモデルさんもそれに応えないとって思うはず」
ひなた「そうですね」
コハラ「でも、難しいのが一生懸命やると硬くなりすぎちゃうんだよね。表面上はやわらかい雰囲気を作りつつ、内側の熱量は高い状態というのがベストかな。そのバランスはいまだに難しいけどね」
初対面ではシャッターをテンポよく切り、場を盛り上げる
コハラ「初めましてのフォトグラファーに対して、撮影のときに意識していることとかあるかな?」
ひなた「常識かもしれないですけど、あんまり悪い感じにしないというか、尖ってる感じにしないようにしてますね。コハラさんはどうですか?」
コハラ「初めましての場合は自分が思い描く良い写真の基準をちょっと下げるかな。撮影スタートして間もないのに、あれも良くない、これも良くないって言ってしまうとテンション下がっちゃうじゃない?シャッターを切るテンポも早くして、いいね!っていう声かけも多くしてるかな」
ひなた「それはモデル側としても嬉しいです」
緊張してて良いと思えるか否かが重要
コハラ「(質問を読み上げる)モデルさんが緊張しないで撮影するコツは……か。なんなんだろうね。」
ひなた「難しいですね」
コハラ「うーん、そもそも自分は緊張してていいと思ってるんだよね。カメラって構えられると緊張するじゃない?でも、それって当たり前のことだから、むしろカメラの前では緊張するほうが自然という感じかな。だから、自分の場合は声かけちゃう。別に緊張してていいですよって」
ひなた「それはありがたいですね。1回目で初めましてだったら絶対に緊張しちゃいますよね。あと、その瞬間ってそのときにしかないわけで……」
コハラ「そうそう! 撮影回数を重ねちゃうと、お互いが緊張している写真ってもう撮れなくなっちゃうから、そういう意味でも緊張してて良いと思うんだよね」
さいごに
光、構図、立ち位置など、フォトグラファーはモデル・被写体さんに指示を出すことが多いです。そのため写真を撮り続けていて上手くなっていくと、立場まで上になってしまうような感覚に陥るときがあります。僕も過去を振り返ると、無意識のうちにそのような状態になっていた時期があるかもしれません。どんなに写真が上手くても写ってくれる人がいなければ人物撮影はできません。そのことをわかっていれば、自ずと対応すべきことは決まるはずです。
僕は自分のことをコミュニケーション能力が低い人だと思っています。ですので、おすすめの会話というのはありません。(むしろ僕が知りたいぐらい)
コミュニケーション能力が高い人であればまだしも、僕みたいに苦手なタイプの人が頑張って場を和ませようとしても、逆にギクシャクしちゃうと思うんですよね。緊張をさせない場づくりができる人というのは、持って生まれた性格なども影響すると考えています。なので、今からそこを変えようと思っても難しいと思っています。ただ“気遣い”は誰でもできます。
「休憩しなくて大丈夫ですか?」
「水、飲まなくて良いですか?」
「お手洗い大丈夫ですか?」
などなど、こういう気遣いが全体のコミュニケーションに繋がっているのではないかと思います。