フォトジェニックな旅に出よう~台湾篇~ 写真家・こばやしかをるvol.3
いつかは行ってみたいと思っていた台湾。
「何か撮りたいものでもあるの?」と聞かれたが意外に答えが見つからない。
どこへ行くのもそうだが、WEBが発達した便利な現代こそ旅先を選ぶ条件を強いて言うなら「自分で体験・体感したい場所へ行く。」ということに尽きる。
台湾は石垣島と並ぶあたりに位置するので、当然ながら湿気を伴った南国の暑さを覚悟していたが、とんでもない湿度と暑さだった。
初日は空港混雑による到着遅れ。加えて、現地の人に聞けば雨季もほぼ過ぎる頃の大雨だという。
不運とみるか、自然と向き合っていると見るかで心の余裕も違ってくるだろう。
そう思えるようになったら自分流の旅が板についてきたといってもいいものかもしれない。
到着時刻が大幅に遅れたその分、夜には雨が上がった。駆け足で訪れることになってしまったが夜市へ向かう。移動は混雑もなく、難なくスムーズで、雨上がりに反射する色鮮やかな光が魅力的だった。
閉店時間まで間もない士林市場では落ち着いて食事ができたので一安心する。初日はこうして終わっていったが数時間でも楽しむことができた。
二日目は新幹線とバスでの移動で台北から台中へ。
この旅には「X-T30」と「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」を選んだ。広角端での接写性能や、狭い場所や広がる風景など、幅広いシーンで活躍してくれるから旅との相性がとてもいい。
特に街を歩くならこの一本で身軽に行くのもいいだろう。
しかし、あそこにも、ここにも行ってみたいという気持ちに足かせをされるような土砂降りの雨に見舞われる。
台中市内に到着した直後から歩くことが阻まれるほどの雨降りで、しばしカフェで休憩をとった。いわゆる現地のチェーン店のカフェだが、ショーケースにスイーツが並んでいたのでオーダーしてみる。
「天使雪苺」とネーミングされたケーキは、卵白だけで作ったメレンゲのようなスポンジ生地。まさに見た目にも愛らしいその名の通りの姿をしていた。漢字文化圏では、一文字の意味がわかると理解度が深まり言葉のハードルも低くなるからおもしろい。
コーヒーを飲みながら店内で過ごす人たちを見ていると日々の一部分を垣間見ることができる。ゆったりとしたいつもと変わらない時間を過ごす人たちを眺めているのが好きだ。自分も少しリラックスしたことに気づく。
雨が上がったタイミングを見計らい、駆け足で市場へ向かうが、途中の路地にもフラッと迷い込む。
路地には時折心がワクワクするようなかわいらしいデザインや色づかい雑貨が置いてあったり、壁画にデザインが施されていたりする。南国のブーゲンビリアもアクセントに効いているし、皆が着ているレインコートも色とりどり。
各鉄道網に設置されている公衆電話も愛らしい。台湾では日常的なものがカラフルでかわいいのだ。
身近な場所を見逃せないのが台湾の魅力かも。と、街中を歩きながらそんなことに目が向くと楽しくなってくる。
夕方からは台北へ戻り、九份に行くと決めていた。
しかし、うんざりするほどの雨。萎える気持ちをさらに押しつぶしそうな重たい湿度。足取りは重たくなるが、ここまで来たら行くしかない。バスでもう一息。
台湾一の観光地となりSNSでよく目にするようになった九份の夜景は、自分なりにちょっと天の邪鬼な気持ちで写したいと思っていた。
閑散としたこの道も、鮮やかな色、反射の美しさも雨だからこそ。
帰りのバスを待つ間に見られたこの夜景も、雨でなければ混雑で見ることをはばかられたように思う。
やっぱりいいじゃん雨!と心の中でちょっと得意げになった。
三日目は地下鉄移動と徒歩で台北市内を散策。中山駅周辺の赤峰街とレトロモダンな迪化街へ向かう途中、目に飛び込んできたのは日本では見たことのない配色のビル。タクシーや歩く人たちの色がシンクロして思わずシャッターを切る。
かつての商業中心地であった迪化街は商店街であり問屋街。土産物店もひしめいているが、昔ながらの伝統的な建物がリノベーションされレトロモダンがうまく調和している。
布問屋が入る永楽市場周辺では日々の営みが垣間見えるし、屋外でB級グルメや冷たいフルーツやジュースを味わうのも台湾らしい楽しみ方だ。
路地や街中で見かけるアパートやマンションのルーフ、カフェ、使い古したドアやポスト、シャッターまで渋い味わいと色合いが絶妙なマッチング。
何気ないが、ちょっとしたところに台湾の人たちのセンスの良さを感じてしまう。
中山駅付近の赤峰街は、東京の中目黒や代官山の雰囲気を漂わせる小さなお店が多く、その佇まいから、ファッションや文化の発信地になっていることをすぐに感じ取れた。
「赤峰街」という文字がイラストでデザインされていて、そこに落とし物の鍵がちょっとしたアクセント。
最後の夜は台北のランドマーク「TAIPEI 101」で夜景を堪能したかった。
チケットを購入する際に「上階へ上がっても外が見える確率は10%」と言われてしまうが、不思議と「上がらないわけにはいかない。」という使命感が湧く。
展望室に着き、結果として10%という確率を勝ち得たと心の中でガッツポーズ。
雨雲を眼下に眺めつつ、自分の足元もふわふわしながら夜景を堪能する。
これも雨ならではの光景ではないだろうか。
アジアの夜はどこか魅惑的で人を惹きつけるのだ。
夜に始まり 夜に終わる。
雨に始まり 雨に終わる。
そんな旅だったが、間違いなくまた行くことになるであろう。
様々な場所を今度は青空の下歩きたい。
まるでいつもの街を歩くかのように。