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Special 2023.06.27

アートディレクター/フォトグラファー・前田景のライフスタイル 〜手に触れ、感動をなぞる。暮らしのなかに息づくものと風景〜

北海道・美瑛町を拠点に、アートディレクター/フォトグラファーとして活躍する前田景さん(@maedakei)。祖父・前田真三さんが立ち上げたギャラリー『拓真館』の再建をきっかけに移り住んだ美瑛という場所は、前田さんのライフスタイルや写真との向き合い方をよりシンプルにしてくれたのだといいます。今回は、前田さんに富士フイルムのプリント製品の公式オンラインストア『FUJIFILM Prints & Gifts』のFUJICOLOR PREMIUM PRINTで、美瑛で撮影した風景写真をプリントしていただきました。

ものや体験のデジタル化が進むこの時代に、直に触れ選択し所有するということ。そうして手にした写真やものが暮らしにもたらしてくれること。ひとつひとつが物語をもつものたちに囲まれたご自宅で伺う前田さんのお話には、自分自身の感性と向き合ううえで大切にしたい視点と、実際に写真をプリントすることでのみ得られる気づきがありました。

Interview:前田景

祖父ゆかりの地で紡ぐ生活とつながり

美しい白樺回廊が広がる窓のそばに、野生のリスが一匹。まるで絵本のような日常の光景に「父がクルミの木を植えたら遊びに来るようになったんですよ」と目を細める前田さんが東京から美瑛に移り住んだのは2020年春のこと。「丘のまち」とも呼ばれる美しい丘陵を望むこの地は、祖父である風景写真家・前田真三さんの撮影拠点であり、東京生まれ東京育ちの前田さん自身にとって田舎のような存在だったといいます。

▲前田景さん

▲『GFX50S II

「初めて美瑛に来たのは、小学2年生のときでした。夏休み、この家に何泊かして虫を捕ったり川遊びをしたり。ただ、中学生になったあたりから足が遠のいてしまって、次に美瑛を訪れたのが25歳のとき。当時は自分も写真を撮り始めたころで、父の撮影について真冬の美瑛に来たんです。初めて見た冬景色は、真っ白ですごくきれいで。そのとき自分で撮った写真は、のちに作品づくりをするようになってからも印象に残っています」

2015年、(株)丹溪への入社を機に、幼いころの記憶そのままに時が止まってしまっていた拓真館の再建を目指すようになった前田さん。その後、娘・季乃ちゃんの小学校入学のタイミングで美瑛へと移り住むことに。現在一家が暮らすのは、もともと祖父・真三さんが撮影の拠点として拓真館のすぐそばに構えた住まい兼アトリエ。移住するにあたり、懇意にしているセレクトショップの方の力を借り、現在の間取りに改装したそう。開放的なオープンキッチンに吹き抜けの天井、居間と仕事場がひとつづきになった空間の中心には大きな食卓。この住まいのかたちには、暮らしと仕事を綯い交ぜにして楽しむライフスタイルがそのまま表われています。

「見てのとおり、我が家は食器が非常に多いんです。妻(料理家たかはしよしこさん)の職業柄はもちろんですが、生活の中心にはつねに食がある。食事はなるべく家族みんなで食べることが大前提です。それに、食器そのものが好きなんですね。旅先で見つけたものもあれば、作家さんの展示で購入したものもあります。一昨年、初めてこの家で陶芸家・大園篤志さんの器展をやってみたら、いっぱい人が来てくださって。そこから、いろんな方とのつながりで度々自宅を使った展示会を開くようになりました」

 

暮らしと風景、人々が美瑛に惹かれる理由

「器のように暮らしで使うものを生活空間で見るというのは理に適っていると思うんです」と語る前田さん。そして、同じように写真の展示も自宅で出来ないかと考えているのだといいます。「気に入った作品や自分で撮った写真を生活のなかに飾ってみる、そういう気軽な写真の楽しみ方が伝わるようなことが出来れば」と話す背景には、アートディレクターとして、フォトグラファーとして、そして祖父の真三さんが写す風景写真に幼いころから触れてきたからこその視点がありました。

「たとえば心動く景色があったとして、それを撮影して、さらにそれを人に見せたいと感じるのは何故なのか。人が素敵だと感じる風景写真とはどんなものなのか。そんなことを祖父の写真をとおしてずっと考えてきました。滅多に撮れない壮大な絶景写真も家に飾るとなるとちょっと違うなって感じるのは何故なんだろう、とか。もちろん両立するものもあるとは思いますが、“その風景が暮らしの延長線上にあるか”というのは祖父の写真から得た気づきのように思います。美瑛というところは、その景色のほとんどが畑。人間の手が入った、暮らしとつながっている場所なんです。人の気配があるから感じられる安心感。美瑛の風景にみなさんが心惹かれる理由のひとつに、そこがあるんじゃないかなと思っています」

▲祖父・前田真三さん写真集『HILL TO HILL』

地元で農園を営む方が編んだ白樺のわっぱ、隣町の木工作家さんがつくった額、妻・よしこさんのお母さまが束ねたヴィヒタ――。前田さんのお住まいには、手仕事によって生まれたものがたくさん。そのどれもが居心地よさそうに空間を彩っています。そして、ものも選択肢も有り余るほどの東京から見渡す限り自然が広がる美瑛へ移り住んだことは、自身の価値観や視点にも大きく影響したといいます。

「ここで暮らすようになってからは、よりシンプルに人やモノとの出会いに集中できるようになりました。つくった人や生まれた背景、環境、思い出、哲学というところも含めて、そのものを持っておきたいか。食べものもそうですよね。今は欲しいと思えばオンラインでなんでも買えちゃいますけど、ちゃんと目で見て質感や重みを感じながら選ぶ面白さは、実際にモノを手にとらなければ得られないことだと思います。我が家で開く展示に足を運んでくださる方たちを見ていても、そんなところを求めているんじゃないかなと感じるんです」

 

写真がもたらす作用、追い求める“出合(であい)”

「最近ではインクジェットもずいぶんきれいに印刷されるようになりましたが、やっぱり印画紙に焼き付けた銀塩写真ならではの風合いと良さがありますよね。普段の展示用のプリントと比べても遜色ないと思います」と今回のプリント体験について感想を語った前田さん。「選ぶ楽しさ、所有する喜び。そして、手で触れ眺めることで得られる情緒的作用。そうした“ものを持つこと”の醍醐味を考えるとき、写真にも同じことが言えるのではないか」と、プリントを眺めつつこう続けます。

「写真って、パソコンに入っているだけではデータでしかないですよね。僕はずっと紙の仕事をしてきたこともあって、写真が紙に定着している状態に馴染みがあるし、安心感があるんです。そして、画面に映っている情報と額装された写真とでは、感じることや得られるものが変わってくる。風景写真がまさにそうで、装飾的な意味合い以上に鑑賞することで得られる感覚的な作用を求めているんだと思います。具体的に言葉では説明出来なくても写真を見ることによって受け取るなにかがある。だから僕らにとっては、プリントすることってすごく重要だし、“写真を使う”ってそういうことなんじゃないかなって思うんです」

▲『FUJICOLOR PREMIUM PRINT』

美瑛に暮らし、移り変わる四季を見つめる前田さん。春夏秋冬のグラデーションがこまかく、刻一刻と驚くほどの速さで移り変わるというその景色は、同じ場所だとしても二度と眺めることはできない一期一会のものなのだといいます。最後に、風景を撮影するうえでひとつの指針になっているという祖父・真三さんのお話を聴かせてくださいました。

「祖父が撮った『出合の瞬間』という写真集があるんですけど、出会いじゃなくて“出合”なんです。僕もその写真集がすごく好きで、どうしてそういう字を書くのかというと、出合って沢と沢が合流するところを指す山の用語なんだそうです。『出合った瞬間の感動、それを撮ることが風景写真のすべてだ』という祖父の言葉を、自分も写真を撮るようになって確かにそうだなと感じるようになりました。だから、そんな瞬間に出合うために、どんどん動いていく。その瞬間にしかない風景を撮る。そんなことを暮らしの延長線上でやっていけたらいいなと思っています」

text by 野中ミサキ(NaNo.works)
Photo by 大石隼土

今回活用したサービス

『FUJIFILM Prints & Gifts』



今回、前田さんに使用していただいたのは、富士フイルム公式プリント製品オンラインストア『FUJIFILM Prints&Gifts』。最高の銀塩技術で最高の写真プリントに仕上げるFUJICOLOR PREMIUM PRINTを使い、ご自身の作品をカタチにしていただきました。

『FUJIFILM Prints&Gifts』は、他にも様々なプリント製品をつくることができます。カタチにするこだわりを、体験してみてはいかがでしょうか。

【Event Information】

INTO THE NORTH

presented by FUJIFILM Prints & Gifts

期間:2023年7月7日(金)〜7月27日(木)
時間:10:00~19:00
  (最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで)
会場:フジフイルム スクエア内、富士フイルムフォトサロン 東京
住所:東京都港区赤坂9丁目7番3号(東京ミッドタウン・ウエスト)
入場料:無料
▶︎詳細はこちらから

Profile

前田 景

1980年東京都出身。広告代理店を経て、2015年より祖父であり風景写真家である前田真三のつくった(株)丹溪に入社。広告、書籍、ウェブなどのデザインを手がけながら、フォトグラファーとしての活動も開始。2017年に初の個展を国内4ヶ所で開催。2021年にBLUE BOTTLE COFFEE SHIBUYA、2023年に台北の小器藝廊にて個展を開催。
2020年に北海道美瑛に移住。前田真三写真ギャラリー「拓真館」の館長としてリニューアルを進めている。また、妻であり料理家のたかはしよしこのレストラン「SSAW BIEI」の共同オーナー兼クリエイティブディレクターも務めている。

Instagram:@maedakei
HP:https://maedakei.jp/
拓真館HP:https://www.takushinkan.shop/

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