イタリアンを美味しそうに撮るコツとは?〜神泉『AURELIO』〜
【フードフォトテクニックvol.1 〜神泉・イタリアン『AURELIO』 〜】
ミラーレス一眼カメラXシリーズで“料理写真を美味しそうに切り取る”撮り方テクニックを、都内の気になるお店の情報とともに紹介する連載企画『フードフォトテクニック』。スマホのカメラでも応用できる、構図のポイントや上手に撮るためのちょっとしたコツもご紹介します。今回は、渋谷にある予約が絶えないイタリア料理のお店『AURELIO(アウレリオ)』さんにお邪魔しました。
今回訪れたのは、神泉のイタリアン〜AURELIO〜
京王井の頭線・神泉駅から徒歩1分ほど。小さな路地を入った角にあるガラス張りのお店が『AURELIO(アウレリオ)』。平日も予約で席が埋まってしまう、イタリア各地の郷土料理とナチュラルワインをいただける人気店です。
迎え入れてくれたのは、オーナーの大本陽介さん。学生時代に飲食店でアルバイトを始め、『自分のお店を持ちたい』と考えるようになったのは25歳。もともと大好きだったイタリアンのお店を出すべく都内の人気店で修行を積み、本場の食とワインを学ぶため単身渡伊。「AURELIO」をオープンしたのは2016年7月、大本さんがイタリアから帰国して3年目のことでした。
「下北沢にある『Cuore forte(クオーレ・フォルテ)』というワインに強いお店で2年修行したあと、神宮前にある『EMILIA(エミリア)』・乃木坂『La Sfoglina(ラ スフォリーナ)』・下北沢『DANIELA(ダニエラ)』という手打ちパスタのお店を3店舗運営している会社に入りました。ただ、お店をやる前に現地には行かないとなあと思っていて。そこから1年間お金を貯めてイタリアへ行き、ローマとナポリのレストランで働きました。現地に身を置くと、そこにいる人たちがどんな食事を楽しんでいるか、どんなワインを飲んでいるのかが直接学べるんですよね。数年ほど前は、イタリア料理とワインを気軽に楽しめるお店って今ほどなかったんですけど、自分で店をやるなら現地のカジュアルな雰囲気を伝えられるお店にしたいなと考えていました」
1年間のイタリア滞在中、その土地に根づいた郷土料理と40以上のワイナリーでユニークなワインに出会った大本さん。本場で学んだ自慢のメニューを楽しんでもらうためのこだわりは、お店の立地や内装、接客にも表されています。
「神泉にお店を出したのは、独立前から自分を応援してくださっているお客さんが来やすい場所でやりたいなと思ったから。渋谷からも歩いて来られるし、仕事帰りの方から家族連れまでいろんな客層の人をフラットに受け入れているところが面白いんです。内装は、ほとんど自分で作りました。同じ目線でサービスがしたいのでカウンターを普通のお店より20cm高くしています。壁に書かれているサインは、イタリアにいるときに巡ったワイナリーの方々が来店してくれたときのもの。もちろん彼らが作ったワインも揃えています。どういう人がつくっているのかがわかると、お客様も喜んでくれるんじゃないかなって。『イケメンのワイン』って言われると、飲みたくなるじゃないですか(笑)。おいしいものは当たり前に作らなきゃいけないけど、それをどんな空間でどういうふうに楽しんでいただこうかなっていつも考えています」
〜イタリアンのフォトテクニック〜
この日いただいたのは、『冷前菜の盛り合わせ』と『ブラータとトマトのマリネ』。そして、150本ほどを取り揃えるワインの中からおすすめしてくれたのは、赤ワインと同じように皮を付けて作る『オレンジワイン』。店内壁面にある「レコステ」のサインを書いたジャン・マルコ、フレメンティーヌ夫妻のワインです。
『オレンジワイン』は、見た目のジューシーさに反して、甘みの少ないドライな味わい。白ワインの爽やかさと赤ワインの芳醇さも感じられるのにそのどちらとも違う、素朴で飾りっ気のない風味とこっくりと深い旨味が新鮮です。
まずいただいたのは、イタリアの各地の郷土料理を一挙に楽しめる『冷前菜の盛り合わせ』。
柔らかな鶏のテリーヌに、パルマ地方でよく食べられているイタリア風おでんのボリートとセロリのサラダ。エミリア・ロマーニャ州でポピュラーなフルーツ×ハムの組み合わせは、瑞々しい黒イチジクとスライスしたてのプロシュートで。レモンを絞ってさっぱりといただくタコとじゃがいものサラダは、ナポリの定番料理。カラスミのツブツブ感とほくほくした白インゲンの楽しい食感、トスカーナ地方で親しまれているパンと夏野菜のサラダ、ヴェネツィア流・鰯の南蛮漬けサルディンサオール――。彩りだけでなく、食材の組み合わせもバラエティ豊か!
普段なかなか口にすることのない味わいを楽しみつつ、料理ごとの調理法や素材使い、州ごとの特色まで知ることのできる、美味しいだけでなくちょっぴりイタリア通な気分にさせてくれるイイトコドリな一皿です。
数品の料理がバランスよく盛られた冷前菜は、彩りよく発色し、素材の質感を柔らかく映し出すフィルムシミュレーション『ASTIA/ソフト』で撮影。ポイントは、ピントの絞り方。ここではボードの余白を残しながら、奥をボカしすぎないようにしつつ料理の全体像が見えるよう、中心にピントを合わせています。絞りは、料理をどこまで見せるかによって調整しましょう。また、照明が控えめな店内では、明るい単焦点レンズで撮影を。ISO感度を1600くらいに設定しておくとベター。手ぶれせず、よりキレイな写真に仕上がります。『冷前菜の盛り合わせ』のように、一枚のお皿に数品盛られている料理は、バランスを確認しつつ、少し斜め横からお料理のボリュームを見せるアングルで撮るのがおすすめです。
次に出していただいたのは、『ブラータとトマトのマリネ』。もっちりツヤツヤのブラータは、薄く伸ばして袋状にしたモッツァレラチーズのなかに、生クリームとモッツァレラを混ぜて詰めた南イタリア・カンパーニャ発祥の逸品。鮮度管理がデリケートなため、新鮮なブラータを食べられるお店は多くないのだとか。弾力のある表面にプツッと切り込みを入れると、中からとろ〜りクリームが溢れ出します。ぶどうのように甘くてジューシーなトマトにクリーミーなチーズを絡めて口に運べば、その美味しさは言葉も出ないほど。シンプルな素材の掛け合わせでここまで料理は美味しくなる、イタリア料理の神髄を象徴するような一皿です。
宝石のように美しいトマトとブラータもフィルムシミュレーション『ASTIA/ソフト』で撮影。その目にも美味しいツヤ感をそのまま切り取れるよう、食材に強い光が当たらないようにお皿の位置を動かし、プラータの白さが自然な色味になるよう気をつけながら露出を意識して撮影しました。構図は、思い切り近づいてお皿の中にクローズアップ。カウンターの雰囲気を取り入れつつ、お皿の影を切ったことで写真全体の鮮やかさが強調される一枚に仕上がりました。
「イタリアにいるあいだ、いろんな土地のワイナリーを巡りました。生産者とつながると『近所にもあるから行こうよ』って連れていってくれるんです。ワイナリー同士みんな仲がよくて。訪ねると、手料理や自分が作ったワインを出してくれて。料理もおいしいし、フレンドリーなのがイタリアのいいところ。少し不器用で朴訥なところも好きです。かしこまったイタリアンにももちろん素晴らしさがあるんですけど、やっぱりイタリア料理の神髄はシンプルに料理とワインを楽しめるところだなと思っています(大本さん)」。イタリア語で「陽気な男」という意味の『AURELIO』。美味しい料理とワインで心を弾ませてくれる、“名は体を表す”という言葉がぴったりのお店です。
今回は、土地ごとに育まれた、食べてしまうにはもったいないほど目にも美味しいイタリアの食文化を「X-T20」で切り取ってみました。特別な日にはもちろん、ふらりと陽気においしいイタリアンを味わいたくなったら、ぜひ渋谷『AURELIO』へ。飲んべえな真実の口が描かれたドアが目印です。
【今回登場したテクニック】
・フレッシュな彩りを活かすにはフィルムシミュレーションを「ASTIA/ソフト」に設定
・照明が控えめな店内では、明るく写せる単焦点レンズでISO感度を1600程度に
・一皿に数種類が盛られている料理は斜め横から写してボリューム感を演出
・ツヤ感を出すには、直接強い光が当たらないようお皿の場所を調整
・料理にグッとフォーカスし、お皿の影を切ることで鮮やかさを強調
Spot Information
今回登場したカメラ
text by 野中ミサキ(NaNo.works)
photo by こばやしかをる