フォトグラファー・小野友暉さんの“自分らしい写真”を見つけるまで
カメラが⼿に馴染むようになってくるころ、おそらく多くの⼈が考えるのは“⾃分らしさをどう表現するか”ということではないでしょうか。現在プロとして活躍されているフォトグラファーの⽅々も、きっと「これだ!」という形に出会うまでは紆余曲折があったはず。そこでIRODORI では、Xシリーズを愛用しているフォトグラファーの皆さんに“⾃分らしい写真”を見つけるまでのストーリーやそれを叶える機材・設定などを詳しく綴っていただきます。第5回目は、『関西写真部SHARE』の代表を務めるフォトグラファーの小野友暉さんです。
Vol.5:小野友暉
1992年生まれ鹿児島県出身。大阪府で活動しているフォトグラファーの小野友暉です。
過去には年鑑書籍『プロカメラマン File』2018〜2020年にて3年間掲載していただいたり、写真の祭典『関西御苗場2018』ではレビュアー賞を受賞しました。
現在は広告写真のお仕事や写真教室講師などの活動をはじめ、作家としても個展やグループ展、トークショーなどの活動をしています。
また、『関西写真部SHARE』という写真コミュニティ&メディアも運営していて、写ルンですを使った撮影会なども企画しています。
面白いものがあったらすぐにシャッターを切っていた
カメラ始めたての頃は、とにかくがむしゃらに目に入るものは全て写真に収めていました。当時は「写真を撮ること」が単純に楽しくて、ジャンルにとらわれずひたすら写真を撮っていたんです。
カバンやポケットには写ルンですを忍ばせていて、何か面白いものを見つけたらすぐにシャッターを切る……をひたすらに繰り返していました。
カメラはずっと独学で勉強していたのですが、数字を使う難しいことは苦手で教本を読んだり、教室に通ったりするタイプでもなかったので、撮りながら感覚でカメラの扱いを身につけていきました。
様々なジャンルに一通り手を出した結果、僕の場合は最終的に“人物写真を撮るのが一番おもしろい”と感じました。
人と話すのはそんなに得意ではないんですが人の話を聞くのは好きで、特にその人が今までどんな人生を送ってきて、今どんなことを考えて生きているのかに興味を持っていました。
そうしてカメラをはじめた当初はただ“写真を撮ること”を楽しんでいたのが、だんだんと“人との関わりを写真として形に残していくこと”を楽しむようになっていました。
新たな挑戦をする度に写真の楽しみ方が広がった
“人との関わりを写真として形に残していくこと”に楽しみを感じるようになってからは、写真集制作や展示活動を積極的に行っていました。
その頃に2年間かけて1人の少女のありのままを撮り続けた作品『She is…』という作品集を作りました。
モデルの子は僕が今まで出会った人の中で育った環境や考え方が自分によく似ていました。まるで昔の自分を見ているようで、様々な感情が湧いてきて“作品として残したい”と強く思ったのを覚えています。
この作品は『関西御苗場』という写真展示のコンテストでレビュアー賞も受賞しました。レビュアーの方には、「被写体との距離感の近さ、愛おしさをすごくよく写している」というコメントもいただき、それが僕の撮る写真の自分らしさなんだと自覚しました。
写真家として一つの代表作ができ、賞を獲った翌年には『She is…』の個展まで開催させていただきました。それが自分の中で一つの区切りとなります。
それから写真の腕を磨くためにだんだんと商業写真の方にシフトしていきました。
プライベートでも人物写真を撮影することが多かったことからアパレルの広告写真、ファッションフォトなどを中心に撮影するようになります。
仕事の撮影の現場で、メイクさんやスタイリストさん、アートディレクターさんとも関わる機会が増え、チームで一つの作品を創り上げる新しい楽しみを知りました。
そしてプライベートでも本格的な作品制作をしたいと思い『Rouges』という関西を中心に活動するクリエイターたちのアート写真作品創作・発信していくチームを立ち上げました。
現在はアパレルなどの広告写真を撮りながら、プライベートでは人物写真を撮ったり、月に数回メイクさんや、スタイリストさんと一緒にクリエイティブな作品制作をする、そんな撮影スタイルに落ち着きました。
自分の撮影スタイルに合うのがXシリーズだった
僕の初めてのXシリーズは『X-T2』でした。クラシックなデザインに一目惚れし、その後『X-T3』、ラージフォーマットデジタルカメラ『GFX 50R』と愛用させてもらっています。
富士フイルムのカメラといえばフィルムの色味を再現したフィルムシミュレーション。高クオリティで、とても気に入っている機能の一つです。
フィルムシミュレーションは『クラシッククローム』、『PRO Neg.Hi』をよく使います。
レンズは35mm判換算で35mm〜50mm相当の『XF23mmF2 R WR』『XF35mmF2 R WR』、GFXでは『GF63mmF2.8 R WR』をよく使っています。
一番よく使うレンズはXF23mmF2 R WRです。焦点距離が絶妙で、街撮りポートレートでは寄っても撮れるし、引きでロケーション含めたポートレートも撮ることができます。
富士フイルムのミラーレスをずっと愛用しているのはフィルムシミュレーションが気に入っているのも理由の一つなんですが、一番は僕の撮影スタイルにXシリーズのカメラがよくあっていたからです。
現在はX-T3をよく持ち歩くのですが、Xシリーズならではの軽量・コンパクトなボディは長時間カメラを持って街歩きするのに向いています。
X-T3は描写力や色表現も優れていて、特に人物の肌の色表現はとても美しいです。
屋外で自然光での撮影はもちろん、スタジオでのライティングまで幅広く対応できます。デザイン性も操作性も携帯性も兼ね揃えたバランス型の万能なカメラです。
また、僕は撮影した写真をプリントする機会も多いのですが、Xシリーズで撮った写真をプリントしてみると、フィルムシミュレーションがいかに優れているかがよくわかります。立体感や、色の階調など、出力した写真を見ると感動します。
“撮る”だけでなく“見る・表現する”ことも同じくらい大切
写真を撮り続けることも大事ですが、それ以上に写真で伝えたい、残したい“想い”が大事だと思っています。
カメラを手にしたらどうしても“写真を撮る時間”が多くなってしまいがちですが、写真集や展示などの“写真を見る時間”や、レタッチ、プリント、額装、写真集制作などの“写真で表現する時間”も同じくらい大切です。
自分らしさの表現方法がわからないという方とも過去にたくさんお話ししてきましたが、よくよく話を聞いてみたらわからないのではなく経験がないだけでした。
そんな方には評価されているカメラマンや写真家の展示を見て、できれば直接会って、その人の想いやその人にとって写真とはどんなものなのか、といった“考え方”を聞くのをおすすめします。
僕も実際にたくさんの著名な写真家と直接お話しさせていただきましたが、みなさんそれぞれ伝えたい強い想いを持っていて、写真を撮ること以上に、表現にかける情熱がすごいです。
会うのが難しいなら写真集を見るのが良いと思います。今はスマホやPCのデバイスで簡単に写真は見られますが、プリント方法や用紙、見せ方を含め、作家の想いがこめられた紙の写真集で見るのがおすすめです。
写真を“撮る・見る・表現する”まで幅を広げられたら自分らしさも自ずと見えてくるのではないでしょうか。
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