XシリーズとGFXシリーズの使い分けレクチャー〜コハラタケルvol.1:前編〜
「XシリーズとGFXシリーズの使い分けってどうしてるんだろう?」
「モデルさんとのコミュニケーションが難しい……」
「ポートレートでよく使うレンズを知りたいです!」
こんにちは。フォトグラファーのコハラタケルです。今回は事前に募集した質問に、僕が撮り下ろした写真とともに読者さんの質問に答えていくコラムの第1回目となっています!全部で3回に分けて話していきますよ。
第1回目のテーマは、XシリーズとGFXシリーズの使い分けとモデルさんとのコミュニケーションの2つを、前編・後編に分けて話していきます。
XシリーズとGFXシリーズの使い分けについて
そもそも画角が違うんです
今回、撮り比べを行ったカメラは以下の4台です。
<GFXシリーズ>
GFX50S II
それぞれのカメラの使い分けではなく、今回はXシリーズ代表としてX100V、X-E4、X-Pro3の3台を取り上げます。早速、使い分けの話を進めていきたいのですが、僕の使い分けの話の前にXシリーズとGFXシリーズでは画角、ひいてはアスペクト比が違います。初期設定のアスペクト比はXシリーズが『3:2』GFXが『4:3』です。
カメラの設定で画角を変えることは可能なのですが、Xシリーズの3台は4:3に設定できません。
<Xシリーズで設定可能なアスペクト比>
3:2、16:9、1:1
<GFXシリーズで設定可能なアスペクト比>
4:3、3:2、16:9、1:1、65:24、5:4、7:6
GFXシリーズは種類が豊富ですね。Xシリーズと同じく3:2に設定することも可能なのですが、「GFXシリーズじゃないと4:3は使えないから4:3を使おう」という割と単純な考えで、僕はGFX50S IIを使う場合は4:3に設定しています。あとは初期設定をそんなに変えたくないという理由もあります。最初に4:3に設定されているのであれば、それをそのまま使おうという考えです。
撮られる側の気持ちで変える
続いて、こちらの4枚の写真をご覧ください。
今回、モデルを担当してくれた、くわはらひなたさんに4台のカメラを持って構えてもらいました。ちなみにカメラを持っていない状態だと、このような感じです。
改めてカメラを構えている4枚の写真を見返して欲しいのですが、どうでしょうか? 想像以上に見え方が違うと感じてくれた方もいるのではないでしょうか。
カメラとレンズの大きさについては撮影者側の意見を聞くことが多いと思うのですが、僕は撮られる側の気持ちについても考えます。大きなカメラ、大きなレンズだと、どうしても「今から撮られるぞ」という気持ちになりやすいです。これは撮られ慣れていない人であればあるほど、強く感じるのではないかと思います。
最近、あった出来事ですが、ずっとコンパクトなカメラで撮影していたお子さんがいます。その日は入園記念の撮影ということもあって、中望遠レンズを使うことにしました。当然、カメラもレンズも大きくなります。
撮影日当日。中望遠レンズを装着したカメラを持って登場した僕を見て、ギョッとした表情になり、お母さんのうしろに隠れてしまいました。今までにはなかった反応です。これは大人にも同じことが言えると思っています。やはり大きなカメラで構えられたほうが緊張感が出やすいです。つまり、カメラとレンズの大きさは撮影する写真のイメージや雰囲気に影響するということです。
なるべく緊張感を無くしたい撮影 → Xシリーズ
緊張感があってもいい場合の撮影 → GFXシリーズ
使い分けに関してはこのあとも説明を続けますが、一旦、上記のような使い分けをしていると思ってください。
行動範囲で使い分ける
僕のなかではこれが使い分けの上での一番のポイントになります。それはフォトグラファー側の行動範囲による使い分けです。撮影中に移動する範囲が広く、機動力が必要となる場合はXシリーズ。逆に移動する範囲が狭くじっくり撮影したい場合はGFXシリーズを使います。
具体的に分けるとこのような感じです。
Xシリーズ …… ロケ(主に街)
GFXシリーズ …… スタジオ(室内・屋上など)・海・山・川
スタジオとロケはわかりやすいと思います。自分が今、住んでいる家でも良いのですが、カメラを持っていろんなところで撮ろうと思ったとしても、行動範囲は限られていますよね。対して、ロケ(街)は広い世界です。
「海と山も街と同じじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、街は数十メートル歩けば、周囲の構造物が変わっていきます。例えば海を仮に20メートル歩いたとしましょう。景色が大幅に変わるかというと、街に比べるとそんなことはないと思います。実際、僕は海での撮影の場合、撮影する場所を決めたらそこでしばらく撮影し、また移動というのを繰り返すようにしています。
しかし、街撮りは僕にとってスピードが命です。1箇所での時間をかけず、次々と背景を変えて撮影を進めていきます。
次から次へとロケーションを変えるなかで、機材の大きさは自分の機動力に影響します。改めてX100VとGFX50S IIをご覧ください。
今回はわかりやすいようにコンパクトカメラであるX100VとGFX50S II × GF45-100mmF4 R LM OIS WRを比較しましたが、GマウントにはGF50mmF3.5 R LM WRのようにレンズが小さいものもあります。それでもやはりカメラボディのことを考えると、基本的にXシリーズよりもカメラ・レンズは大きくなります。
ふとした瞬間にシャッターを切れるか否か
次の写真をご覧ください。
なんてことない写真に見える人もいると思いますが、僕はこの写真をGFXシリーズで撮るのは難しいです。このシーンは座ってから起きあがろうとしているときの写真なのですが、このような動作の途中の写真というのはカメラを構えてからシャッターを切るまでの瞬発力が求められます。ときにはノーファインダーで撮ることもあります。
先ほどの話と繋がるのですが、カメラを構えてからシャッターを切るまでの時間というのはカメラとレンズの大きさに影響すると考えています。とくにノーファインダーでの撮影はコンパクトなカメラの方が撮りやすいです。基準としては片手で持ちやすいかどうか。僕の場合は胸元あたりで構えることもあるのですが、カメラを右手に持った状態で腕を伸ばし、右太腿あたりでノーファインダー撮影をすることがあります。この場合、カメラとレンズが大きいGFXシリーズを片手で持って右太腿あたりで撮影するのは体勢的にも難しいため、しようとは思いません。
そもそもノーファインダーでの撮影はブレても良いという考えで撮影しています。僕はGFXシリーズでの撮影に関してはブラした写真ではなく、ピントを合わせてGFXシリーズの良さである質感・立体感を出したいです。
写真に緩急をつける
次にモデルさんに動きをつけたいかつけたくないかでも、使い分けるようにしています。
動きがある写真 … Xシリーズ
動きが少ない、もしくはない写真(しっかり狙って撮りたい場合) … GFXシリーズ
GFXシリーズと比べ、ボディとレンズが小さいXシリーズは、やはり動きがある写真を撮りたいときに向いています。
動きがある写真というのは例えば、走っているところをイメージする人も多いかもしれませんが、僕が求める動きがある写真というのはリアクションを写すことができるかどうかです。そのリアクションを写すのがXシリーズのほうが向いています。
例えばこのシーンなのですが、フジの花と一緒に撮ろうとしたのですが、思っていた以上に虫がたくさんいたので断念しました。そのときの「虫たくさんいたー!」というリアクションをしているときの写真です。
この写真は僕が「葉っぱをヒゲみたいにしたい!」と言ったのですが、最初は葉っぱを逆向きにしてしまい、モデルさんが「ヒゲってこっち向きじゃないですか?」と言っているときの写真です。
Xシリーズは動きの前後も撮りやすいです。
GFXシリーズの場合、どちらか一方の写真は撮れるかもしれませんが、両方の写真を残すのは僕にとって難しいです。このようにXシリーズのほうが写真に動きをつけやすいと思っています。
対して、GFXシリーズの場合、しっかり狙って撮ることが多いです。ロケ(街)よりも行動範囲が限られているスタジオ(室内・屋上など)が向いていると考えています。
また、1度の撮影でコンセプトの異なる写真を撮るといったシーンもありますが、同じ機材、同じモデルさんで雰囲気の全く違う写真を撮影をするのは意外と難しいもので、写真の流れに緩急をつけるためには機材で雰囲気を変えるのが効果的です。
「ロケ(街)はXシリーズで撮影して、スタジオはGFXシリーズだけで撮ろう」
このように機材を使い分けると自然と写真も変わっていきます。階調表現の豊かさはやはりGFXシリーズの方が素晴らしいです。
雲や周辺の建物のディテールはもちろんのこと、ハイライトの階調も良く、この日、見た雲の質感が綺麗に再現されています。
室内の淡い影や空の細かい表現などを活かしたい場合はGFXシリーズを使いたくなってしまいます。
まとめ
・撮られる側の気持ちを考えて機材を変更する
・自分が撮影する行動範囲で使い分ける
・1回の撮影でXシリーズとGFXシリーズの両方を使い、写真に緩急をつける
後編はモデルさんとのコミュニケーションについて話していきます!