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Special 2023.08.01

アートディレクター/フォトグラファー・前田景 × GFXシリーズ写真展「INTO THE NORTH」レポート 〜 美しき暮らしの風景と、プリントが拓く写真表現の醍醐味 〜

2023年7月7日(金)から7月27日(木)にかけて東京・六本木ミッドタウン『FUJIFILM SQUARE』で開催された、アートディレクター/フォトグラファー・前田景さん(@maedakei)の写真展「INTO THE NORTH」。本展では、『GFX50S II』『GFX100S』で撮影されたすべての作品を高品質・高技術の銀塩プリント『FUJICOLOR PREMIUM PRINT』で展示。前田さんが拠点をおく北海道・美瑛一帯の自然風景を収めた作品群は、写真表現だからこそ捉えられる瞬間的な美しさとともに、記録を作品に昇華するプリントの面白さを観覧に訪れた方々に伝えていました。今回は、本展の構想から展示に至るまでの前田さんのインタビューとともに写真展の様子をご紹介します。

大都会の中心で北海道・美瑛の風景を見つめる「INTO THE NORTH」

「INTO THE NORTH」と題された本写真展では、2020年に東京から北海道の美瑛町に移り住んだ前田さんが富士フイルムのラージフォーマットミラーレスデジタルカメラ『GFX50S II』『GFX100S』で撮りおろした全26点を展示。GFXシリーズが誇る圧倒的な描写力と解像感、豊かな色彩表現によってリアルな北海道の空気感を宿した作品は、体感的な心地よさと感動を誘います。

祖父である写真家・前田真三氏が数々の代表作を撮影した美瑛の地。その美しい風景をひと目見ようと、国内外からたくさんの人々が美瑛を訪れています。移住してからの3年間、前田真三氏の足跡を辿るように丘、山、森へと足を伸ばしてきた前田さん。「北に暮らしながら見えてきた風景は、まるでパズルのピースのように、都会の生活では見つけられなかった僕の中の空白を埋めていってくれている」と本展に寄せられた前田さんのメッセージは、大都会の中心で美瑛の風景を見つめる観覧者の感性にも重なるのではないでしょうか。

そして本展では、すべての作品を銀塩プリント『プレミアムプリント』で展示。インクジェットプリントとは一線を画す銀塩プリントならではのなめらかな階調表現とプレミアムプリントマイスターによる手仕事が描き出す、美しく雄大な北の風景。80年以上にわたり磨かれてきた富士フイルムが有する最高峰のプリント技術だからこそ為し得る精彩な色と光の美しさに触れられる機会となっています。

また今回は、全30種にもおよぶプリントサイズの豊富なラインナップを生かし、すべての作品を異なるサイズで展示するユニークな試みも。アートディレクターとしてのバランス感覚をもって形づくられた本写真展は、美瑛の魅力的な風景を伝えるとともに、プリントとしてかたちにすることで拓かれる写真表現の醍醐味が凝縮されています。


 

「INTO THE NORTH」について前田景さんにインタビュー!

前回のインタビューで自身のスタイルについて「すべてが暮らしと地続きである」と語ってくださった前田さん。今回の写真展に向けて撮り下ろされた作品には、北の雄大な自然、そしてそこに生きる人々の営みや入植の歴史によって生まれた景色が写し出されています。誰もが頭に浮かべるシンボリックな美瑛の風景とはまた違った、そこで生活する者の視点をもって切り取られる眺め。暮らしの息づかいが伝わってくる作品の撮影背景と本写真展について、前田さんにお話を伺いました。

ハイライトではない、日常と隣り合う美瑛の風景

━━今回の写真展でプリントした写真26点について、コンセプトや選んだ理由を聞かせてください。

美瑛の景色というと夏をイメージされる方も多いと思います。もちろん夏も素晴らしいですが、僕らが実際に住んでいてすごくいいなと感じる季節って意外にも春と秋なんです。寂しかった丘の景色が新緑に萌える時期やカラマツが色づいて冬に向かっていく時期。いわゆるハイライトではない、季節の合間に見られる美瑛の風景を伝えるという視点が、今回の写真展のひとつの核になっています。

▲前田景さん

展示したのは、どれも日常と隔たりのない暮らしの中のいち風景。山といっても車やバスで行ける場所ですし、森もあれば町もある。そして、写真が暮らしの中でどう機能するのかということも含めて“暮らしに根ざした風景”というコンセプトが自分の中にありました。レイアウトについても、山は山、丘は丘と場所ごとに括った展示にはせず、絶景ではなく誰でも行ける場所という点を意識して写真を選んでいます。

Photo by 前田景

Photo by 前田景

 

プリントによって拡張される写真表現のおもしろさ

━━今回は写真展を目的として、『プレミアムプリント』を活用いただきました。全26点をさまざまなサイズ、面種でプリントいただいた感想やこだわりは?

普段、拓真館の展示プリントもプロラボにお願いしていますが、今回の『プレミアムプリント』は一般の方が利用できるプリントサービスでありながら写真展用のものと遜色のないクオリティで、むしろ今後は拓真館の展示も『プレミアムプリント』でお願いしたほうがいいのではないかなと思ったほど。シンプルな写真ほど質感が重要になってくるものだと思いますし、柔らかさのある解像感や風合いが個人的にも大変好みです。

本展では、26点の写真をそれぞれ異なるサイズでプリントしています。一般的にプリントサイズというと、六切り、四つ切り、半切あたりだと思うのですが、『プレミアムプリント』はAサイズ、Bサイズ、ワイド、正方形と選択肢が非常に豊富。例えば六切りワイドなんかは、展示でなかなか見かけないサイズですよね。今回、“暮らしの中で写真がどう機能するか”というところに立ち返り、見栄えやスペースを基準に画一化した展示のための展示ではなく豊富な選択肢を生かしたいと考えました。

昔、祖父から聞いて面白いなと思った話があって。山のような風景はどんなに大きくプリントしても本物より大きくは出来ない。けれど、小さなものは本物よりずっと大きく出来る。それは写真のひとつのマジックなんだと。トリミングによって写真の良さが引き立てられることもあれば、その逆もあるというところにデザイナー的視点でおもしろさを感じています。さまざまなプリントサイズにしたことで、切り取り方次第で印象が変化する写真表現だからこその楽しさも伝わるような展示になったかなと思っています。


 

三世代にわたってカメラ越しに見つめ続けた景色

━━今回、撮り下ろされた作品は『GFX50S II』『GFX100S』で撮影されたとのこと。GFXシリーズの使用感や表現力、プリントの仕上がりはいかがでしたか?

画素数の大きなGFXシリーズで撮影したからこそ遠慮なくトリミング出来たという側面もあります。画面上で見ていても『まだ寄れるのか!』と驚いたほど。『GFX50S II』の軽快な使い心地、そして『GFX100S』の精細な描写力は素晴らしいと思います。GFXシリーズで撮影した写真にはデジタルでありながらフィルムのような心地よい粒状感もあり、8×10に通ずる世界観だと感じました。そうした写真を印画紙にプリントにすることで、アナログプリントにすごく近い表現になっているように思います。

Photo by 前田景

以前のインタビューでもお話したと思うのですが、人はなぜ風景写真を撮るのかと考えたとき、やっぱりそこに癒しを求めているからじゃないかなと。今の時代、SNS向きのクリアで鮮明な写真がたくさんあふれていますけど、こういった風景写真に求められているのは安堵感なのだと思います。僕自身、東京から美瑛に戻ると景色に癒されるところがありますし、それまで漠然と見ていたものがそこに暮らすことで細かいところまで見えてきたようにも感じています。草についた露の美しさのように素朴で牧歌的な美しさをどう伝えるのか。その方法として、写真やプリントがある。祖父、父、そして僕と三世代にわたって同じ場所の風景を撮り続けているというのは、なかなかないことだろうと思います。今後も暮らしの風景としての美瑛を撮り続けていけたらと思いますし、三代にわたって撮り続けてきた写真がいつかなにかのプロジェクトとしてかたちになれば面白いなと考えています。

text by 野中ミサキ(NaNo.works)
Photo by 大石隼土

Profile

前田 景

1980年東京都出身。広告代理店を経て、2015年より祖父であり風景写真家である前田真三のつくった(株)丹溪に入社。広告、書籍、ウェブなどのデザインを手がけながら、フォトグラファーとしての活動も開始。2017年に初の個展を国内4ヶ所で開催。2021年にBLUE BOTTLE COFFEE SHIBUYA、2023年に台北の小器藝廊にて個展を開催。
2020年に北海道美瑛に移住。前田真三写真ギャラリー「拓真館」の館長としてリニューアルを進めている。また、妻であり料理家のたかはしよしこのレストラン「SSAW BIEI」の共同オーナー兼クリエイティブディレクターも務めている。

Instagram:@maedakei
HP:https://maedakei.jp/
拓真館HP:https://www.takushinkan.shop/

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