いつか見た風景 〜平井裕士 vol.1〜
どうして写真を撮るのだろう。これまでにも数え切れないくらいに写真を撮る人たちが考えているはずで、いろんな理由を知る機会があるのに、まだ飽きずに考えてしまう。伝えたいことがあるから、生きた証を残したいから。たくさんの理由がある。だけどそれが分かってしまったとき、写真のおもしろさが失われてしまうのではないかと不安になる。曖昧なままにしておけば、ずっと写真のことを考え続けられるけれど、答えを出すことで新しい問いに出会えるかもしれない。
今回のコラム連載を通して、今のボクの答えが見つけられたらいいなと思う。
街の風景をありのままに記録したい。地元の大阪で、観光地を中心に撮影していた頃は、ボクが生きた時代の大阪を未来に届けたいという想いが強かった。だけどその想いはSNSや、スマートフォンの普及により、いつでも誰でも綺麗な写真が撮れてシェアできるようになったことにより、「ボクが撮らなくても良いのでは?」に変化した。
そんなとき、外出自粛の波に襲われた。観光地に行けなくなったボクは、それでも撮りたい欲求を満たすために、『X100V』で身近な街を撮り始めた。さらにスマホではなく写真集を読むことで、ゆっくり時間を掛けて写真と向き合うようになる。写真集は読めば読むほど、写真が分からなくなることもあるし、これまで知らなかった写真のおもしろさを教えてくれた。世界中には素敵な写真家がたくさんいて、いつかボクも誰かの心に届く写真が撮りたいと思うようになった。
ボクが好きな写真集 Stephen Shoreの『Uncommon Places』。日々ページをめくっては、同じ写真のはずなのに前回見たときとは異なる感覚を与えてくれる。そこに写っているものは、何か特別な風景ではなくて、彼が日常を過ごす中で出会ったような静かな風景だ。もちろん特別な風景も混ざっているかもしれないが、本人に聞かなきゃ分からないし、自分なりに解釈するのも写真集の楽しみのひとつ。憧れの写真家は、どんな想いでこの風景と向かい合い撮ったのだろう。そんなことを想像させられる。
その時間がボクに大切なことを気付かせてくれたように思う。同じ人生を歩んできた人なんていないから、写真も一人一人違って当然だし、上手い下手なんかより、心がザワザワするような瞬間、風景の中に隠れている何かを見つけたときにシャッターを切って応える。それだけで良い。
街を撮るときはスタート地点だけを決めて、目的地は決めず、首に『X100V』をぶら下げて気になる方へ向かう。掲載している写真もすべてこの1台で撮っている。家を出るときは青い空が撮りたいと思っていても、外へ出ると薄曇りなんてことは日常茶飯事。そんな日もあるよねと、先週もそうだったけど気付かないフリをして歩いていると、立ち止まってしまう風景に出会うことがある。決定的瞬間ではなく、カメラをゆっくりと構えられる静かな風景だ。瞬きしている間に過ぎ去ってしまう、「あっ!撮りたい!」という風景は潔く諦めている。シャッターチャンスを逃したことを引きずってしまいがちなボクだから、初めからそうならないようにした。
どう撮ればいいだろうと考えてしまったとき、大抵の場合は最初の1枚目がベストであり、距離や向きを変えて撮った2枚目以降が1枚目より良いことは、ほとんどない。面白いくらいにない。出会いの瞬間をもたらしてくれた風景に満足してしまうんだと思う。
最後に。これから街でスナップを撮ろうと思っている方は、“好き”の感情に対して素直にカメラを向けてシャッターを切る経験をすると、街を撮ることが面白く感じられるかもしれません。たくさん歩くと思うので、持ち運びしやすいサイズのカメラと歩きやすい靴を忘れずに。最初は喫茶店などの目的地を設定して、それまでの道のりで好き探しをするのも楽しいと思います。