【Xシリーズレビュー】 写真家・高橋伸哉が富士フイルム『X-E4』で描き出す精彩な一瞬
今年2月に発売となったX-Eシリーズの最新機種『X-E4』。Eシリーズの特徴であるシンプル&ミニマルを最大限に追求したコンパクトなボディにハイエンド機と同等のスペックを詰め込んだ、革新的な1台です。今回は、SNS総フォロワー数45万人を数える写真家・高橋伸哉(@s.1972)さんにX-E4での撮影をオファー。普段、『X-Pro3』をメイン機として使用している高橋さんの視点と作例から、機能性やデザイン性のみにとどまらないX-E4のさらなる魅力を探ります。
Interview:高橋伸哉
--高橋さんは、普段メイン機として『X-Pro3』を使用されているそうですが、今回『X-E4』に触れてみた率直なご感想は?
これ、スペックは『X-Pro3』とほぼ同等ですよね? という意味では、ひとことで言って“最強”だと思うんです。今回、『X-E4』を使ってひたすら作例を撮ったんですけど、なにしろ出てくる画が素晴らしい。なおかつ、コンパクトで軽い。僕の場合、他メーカーのものも含めて常に7台くらいカメラを持ち歩いているので、片手で持てるサイズ感というのがすごくラクでした。前モデルのX-E3とコンパクトさはさほど変わらないけど、よりシンプルになりましたよね。
--フロントやリアグリップがフラットな設計となり、よりミニマルで洗練されたデザインになっています。
僕の周りの人も言っていましたけど、かなり洗練されていますよね。クラシカルで、究極まで削ぎ落とされている。フォルムのカッコ良さはXシリーズのひとつの強みだと思います。僕が最初に富士フイルムのカメラを手にしたきっかけもそこで、新しいカメラの購入を検討していて、本当は他メーカーのカメラが目当てだったのに、結局フォルムに惹かれてX-Pro2を買ったんです。そういう意味では、富士フイルムらしさを貫いているなと。ただ、正直グリップが浅いからこその難しさは感じました。
--どういった場面でそう感じられましたか?
スナップ撮影なんかだと特に、手首のスナップを利かせるだけで構図が随分変わりますよね。僕の場合、片手でサッと構えて撮ることが多いので、そういったときにグリップの必要性を感じます。その点は、別売りのハンドグリップを装着するとカバーできますし、両手を使ってしっかり構える人にはとっては特に問題ないと思います。
--その他、操作性や機能面はいかがでしたか? X-E4では180度チルトモニターの採用やボタンの数や配置もX-E3からアップデートされています。
チルトモニターに関して言うと、僕はひたすらファインダーをのぞいて集中して撮る男なので普段使う機会はそこまでないんですけど、たとえば写真教室で自分が撮ったものを他の人に見てもらうときに便利だなと感じました。ダイヤルの操作性は、X-E3からかなり進化したと感じています。僕は完全にマニュアル撮影なんですけど、人差し指でシャッタースピードと絞りを一瞬で設定出来るのはすごくラクです。
--瞬発力が必要なスナップ撮影の場面で、パフォーマンスを発揮してくれそうですね。
そうだと思います。スナップやポートレート向きのカメラだと感じました。
--ここからは、高橋さんが撮影してくださった作例とともにお話を伺いたいと思います。いずれも澄んだ色彩と降り注ぐようなきらめきをまとった印象的なお写真ばかりです。
ミモザと撮ったポートレートは、すごく色がいいですよね。「これぞ富士フイルム!」って感じがします。ちゃんと瞳にピントが合って目の美しさが際立っているし、前後もしっかりボケてくれている。使用したフィルムシミュレーションは、クラシックネガです。やっぱりXシリーズって、カメラ初心者を楽しくさせてくれるカメラなんですよね。撮って出しでこの画が撮れたらテンション上がりますもん。継続して写真を楽しみたいと思っている人にとって、フィルムシミュレーションはモチベーションにつながると思います。
--なお今回は、滑らかなボケ味が特徴の単焦点広角レンズ『XF23mmF1.4 R』と今年リニューアルされた薄型単焦点レンズ『XF27mmF2.8 R WR』の2種類を使っていただきました。
『XF27mmF2.8 R WR』のほうですけど、40mm相当(35mm判換算)って個人的には一番好きな画角ですね。人の視覚に近いというところで、距離感がちょうど良く感じるんです。35mm(35mm判換算)だとちょっと余白が多く感じていて、シチュエーションによっては写真に力が出づらい。かといって50mm(35mm判換算)だと引きしろがないときにしんどかったり、寄りすぎちゃったり。40mmって、その間の画角なのでおそらく完璧。こういうちょっと寄った感じと質感が出しやすいレンズだと思っています。
--レンズによって、被写体との距離感にも絶妙に違いが感じられますね。
そうですね、“寄れている感”が違っていると思います。個人的にXF27mmF2.8 R WRって、スナップポートレート向きの画角だと思うので、スナップポートレートを撮るときには大活躍してくれるレンズだと思います。
--こちらもXF27mmF2.8で撮影されたものですね。折り重なった陰影と複雑な色表現、思わず息をひそめてしまうような静けさを感じる一枚です。
画角もいいし、左側にある照明の暖色や夕暮れ前の空の色が落ち着いた色味ながら綺麗に出ていますよね。XF27mmF2.8 は、写りが少し硬めなのかな。だからこういうところで撮るとすごくカッコいいんです。このレンズで撮ることによってすごいいい画になっているし、X-E4とXF27mmF2.8って見た目的にも最高にカッコいい組み合わせだと思うんです。静かにシャッターを切ってこういう画が撮れたらカッコいいなって、想像力を働かせてくれるようなカメラですよね。
--今回はさまざまな被写体とフィルムシミュレーションを掛け合わせてくださいましたが、普段は基本的にPROVIAで撮影されているそうですね。
そうですね、普段フィルムシミュレーションはあまり変えません。たとえば、これもPROVIA(スタンダード)で撮っているんですけど、夕暮れどきの茜色の雲が見たままの色味で表現されている、富士フイルムらしい一枚だと思います。僕は一番見たままに近い現実的な色が出るPROVIAが気に入っています。
--お話から、富士フイルムの色表現への信頼が感じられます。
ただ、これは絶対に言っておきたいんですけど、フィルムシミュレーションによってパターンを変えられるのがXシリーズ最大の強みであるのは間違いないと思います。たとえば、結構暗い室内での撮影をするとき、PROVIAでは厳しくてもスポットライトが少しだけでもあればクラシックネガですごくいい画が撮れるんです。そういったところで、フィルムシミュレーションを使ったときに感動した思い出はたくさんあります。表現の幅が広がるし、フィルムシミュレーションに助けられることが多々あるので、そこは強みとしか言いようがないですよね。
--モデルさんの表情はもちろん、時間ごとに移り変わる空や雲の表情も豊かな作品ばかりだと感じました。なかでもこの作品はすごく幻想的で引き込まれそうな美しさです。
自分でもすごく気に入っている一枚です。まだ陽が沈みきっていないので白飛びしちゃうかな?と思ったんですけど、雲もしっかり残っているし、人物も完全にシルエットになってはいない。黒潰れしていないから、このモデルさんの表情もちゃんとわかるんです。夕暮れの空の色と雲がきれいに残っていて、しっかり階調が表現されているなと思いました。
--一方、同じ空でもこちらは澄んだ青色が心地いい空ですね。
いい雲が出ていたので、その雲とみずみずしい空の色、手前のモデルの肌の質感、そのあたりの表現がしっかり出来ていると思います。こんなふうにパターン違いで撮っておくと楽しさも伝わってくるんじゃないかなって。
次の海岸での一枚は、僕が普段よく撮るような写真ですね。X-E4のようにコンパクトなカメラだと、なんにも構えていない瞬間が片手で撮れる。今回ストラップは着けずに、片手でぶらぶら持ち歩いて撮ってたんですけど、アンダーから撮ってみました。こういう自然な一枚を撮るにはかなりいいサイズ感ですよね。
モデルさんには「富士フイルムのカメラは肌がきれいに写るから好き」だと言ってもらえることも多いですね。この写真も、全体は夕暮れの暖色っぽい色合いなんですけど、肌は色が被らず綺麗に写っていますよね。特にクラシックネガとかで撮るとこうした効果がよくわかると思います。
そういった肌の再現性や美しく見せるというところですごく富士フイルムのカメラはいい仕事をしてくれますよね。この写真は、笑顔もいいし、肌の質感も表現されているし陰影もきれいに出ていて最高です。って、自画自賛ですね(笑)。
海岸で撮った引きの写真は、単純に暗い時間でライトの玉ボケとかどうなるかな?って感じで撮ってみました。かなり暗かったんですけど、ISO感度500でこれだけ撮れるのはすごいと思います。
--いずれの作品からも機微を精細に写し出す描写力の高さが伺えます。さらにストリートでのスナップ写真からは、X-E4の気軽さやコンパクトさが伝わってきますね。
これは、開放で撮った一枚です。雑多な路上に紅一点こちらを見据えている女性っていうだけでも強いんですけど、逆光&背景ぼかしで撮ったらエモい写真になりました。こういうスナップも撮れるんだってわかると、写真がもっと楽しくなりますよね。
逆光でもう一枚。真後ろに太陽があるんですけど、暗くはならないですね。日陰とはいえしっかり表情も写し出されているし、肌も自然な色味のまま。
横顔のポートレートは、今回X-E4で撮った中で一番気に入っている写真です。髪の黒つぶれも一切ないし、瞳の輝きに焦点が当たっていてきれいですよね。こんな写真がこのコンパクトなカメラで撮れるっていうことが素晴らしいことだと思います。
--今回、写真を通じてX-E4の尽きない魅力を語ってくださいましたが、スペックの高さはさることながら感性に直接訴えかけるエモーショナルさと瞬発力をもった一台だと改めて感じました。
他メーカーのカメラを使っている人にとっては、フィルムシミュレーションを使うことで撮影が楽しくなるでしょうし、モチベーションが上がる。自信を持って写真を撮り続けられるカメラなのは間違いないです。この価格帯でこれだけのものを撮れるというのも素晴らしいですよね。
--比較的手の届きやすい価格帯なので、そのぶんもう一本レンズを買い足して表現の幅を広げてみるという楽しみ方も出来そうですね。
レンズを変えられるっていうところは、最大の利点だと思いますね。ポートレートを撮る人間にとってレンズ交換は必須なんです。かつ、コンパクトであれば、言うことなし。X-E4は、よくそれが出来たな!と思わせてくれるカメラ。写真を始めて数年という人や買い替えを検討しているけど予算的なことが気になるという人にも、かなりオススメできる一台です。出てくる画も文句なし。いいカメラですよ、ほんと。
※記事内に登場する人物には掲載許可を取っています
text by 野中ミサキ(NaNo.works)