人生の夏休み紀行 in LONDON 〜未知なる冒険へ〜スイーツアーティストKUNIKA vol.1
今月から、ロンドン在住のスイーツアーティスト・KUNIKAさんのコラム連載が始まります。KUNIKAさんは、マンダリンオリエンタルホテルでパティシエとして修行したのち独立。スイーツとアートを独自の感性で融合したシュガーケーキやアイシングクッキーの制作をはじめ、数々の企業やキャラクターとのコラボレーションスイーツを手がけるなど多方面で活躍中です。
そんなKUNIKAさんの生活やお仕事についてを、以前から愛用しているカメラ「X-T2」で撮影したロンドンの素敵な景色の写真とともにお届けする全5回のコラム「人生の夏休み紀行 in LONDON」。ぜひご覧になってみてください。
まさか日本から遠く離れたロンドンで暮らすことになるなんて。
特に強く願っていた夢ではない。
その時は突然やって来た。
フリーランスでスイーツアーティストというお仕事を確立し、様々な経験をさせてもらった。
本を4冊出版したり、様々なキャラクターやブランドとコラボレーションをしたり、様々な企業といつも楽しいお仕事を沢山させていただいた。
個展を毎年開催しては、見に来てくださるお客様に会えるのをいつも楽しみにしていた。
自分の好きな事が仕事になり、それを見てくださる方がいて、この上なく幸せな状況だった。
あまり先人のいない職業なので海の上を歩くような日々だったけれど、その予測不可能さが純粋に楽しかった。
けれど、心のどこかで”このままでいいのだろうか?”と問いかける自分が少しずつ影を表し、やがて大きくなっていった。
もっと知りたい。もっと影響を受けたい。
もっと広い世界をたくさん見てみたい。
しかし自らこの慣れ親しんだ生活を離れる勇気はなかった。
不安だったし、怖かった。
それでも一度芽生えたもやは消えることはなく、
“ここではないどこかへ”
と少しづつ考えるようになった。
そんな時、ふと頭をよぎったイギリスのワーキングホリデー。
志望動機も必要ないランダムな高倍率の機械抽選に、思い切って一か八か運命を委ねてみることにした。
期待はしていなかったけれど、結果はまさかの当選。
申し込んでみようと決意してから結果が出るまでたった2ヶ月弱の出来事。
あっという間に渡英が決まり、不思議と新たな一歩を踏み出す覚悟がすんなりできた。
導かれているような気がした。
日本を離れるとき、手元にあった大事な作品は全て自らの手で壊し、処分した。
また同じ手で新たに生み出すために。
過去の作品に引っ張られないために。
新しく一歩を踏み出し、ゼロから始めるために。
そうして今までの暮らし・仕事・家族・友達にさよならをした。
イギリスに知人は一人もいなかった。
仕事のツテも何もなかった。
おまけに英語も喋れない。
何も知らない、誰も知らない土地で、新しい人生は幕を開けた。
見るもの全てが新鮮で、刺激的。
ただ普通に生活するだけで精一杯だった。
ホームステイ先や語学学校の学生生活の中で何度も壁にぶち当たり、一つずつ乗り越えては、そのたびに心の底から生きていることを実感した。
自分の中で普通だと思っていたことが四方八方から次々に打ちのめされる。
今までよりも心が広くなったと思う。
よく大人になると時間の流れが子供の時よりも速く感じると言うけれど
イギリスに来てからは小学生の頃に戻ったかのように、時間の流れは遅く、濃密に感じた。
それだけ何もかもが新しい経験だった。
これはロンドンに来なければ二度と味わうことのない感覚だったかもしれない。
最初にロンドンに来た時は、この土地をあまり好きになれなかった。
思い描いていたよりも都会過ぎた。
高層ビルの夜景はまるで新宿のよう。
歴史ある建物と近代的なビルがひしめき合うアンバランスさに戸惑い、溢れかえる様々な国の人たちに圧倒されていた。
しかし、日本に何度か帰国してイギリスに戻ってくるたびに、少しずつ冷静にこの国の良さに気づき始め、今となっては愛しく思うようになった。
カメラ「X-T2」を持ってよく散歩をするようになった。
日本にいた時は散歩なんてしなかったのに、ここでは無性に歩きたくなるのだ。
どこを見ても私の心をくすぐるロンドンの風景。
春になるとパブや道路の街灯に花が咲き誇り、街全体を華やかに彩る。
夏の貴重な晴れの日は、大人も子供もみんな日光浴をしに公園に出かける。
秋は日没が一気に早くなり、映画を見たり、紅茶をゆっくり飲んだり、長い夜をいかに楽しむかを考える。
冬は煌びやかなクリスマスデコレーションがあたり一面を輝かせ、
一年で一番ロマンチックなロンドンになる。
限られた時間の中で、少しでも多くこの夢のような時間を記録したかった。
どの瞬間も忘れたくないと思った。
変化を恐れて今いる道を進むか
荒波の中でも冒険に出るのか
同じ人生の中の
同じ時間の過ごし方なら
私は後者を選んでみる
一度きりの人生、どうせならドラマチックに。
不安と好奇心、ほんの少しの夢を携えて。
いつかまた走り出すときの鼓動を夢見て
今はただ、ここロンドンで生きている。
まるで人生の夏休みのように。
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