写真画家・片岡三果さんの“自分らしい写真”を見つけるまで
カメラが⼿に馴染むようになってくるころ、おそらく多くの⼈が考えるのは“⾃分らしさをどう表現するか”ということではないでしょうか。現在プロとして活躍されているフォトグラファーの⽅々も、きっと「これだ!」という形に出会うまでは紆余曲折があったはず。そこでIRODORI では、Xシリーズを愛用しているフォトグラファーの皆さんに“⾃分らしい写真”を見つけるまでのストーリーやそれを叶える機材・設定などを詳しく綴っていただきます。第二回目はモデルとしてのご自身の経験も活かしながら『写真画家』として活躍する片岡三果さんです。
Vol.2:片岡三果
モデル出身の写真画家。両親が漫画家、大叔父が油絵画家という家庭環境に育ち幼い頃から絵画に親しみながら絵を描き、専門学校ではグラフィックデザインを専攻。身近に雑誌のモデルがいたことから周りの勧めもありモデルの世界へ。絵でも自身でも表現することを楽しく感じ、舞台女優や声優、ラジオパーソナリティなど幅広いジャンルで自分を表現してきました。
被写体としての活動をするなかで「わたしならこう撮りたいな」という気持ちも大きくなり、絵を描くことからカメラを通して絵を描けたらと真剣に考えるように。2013年から旅先の写真や想い、好きな場所をまとめたフォトブック『Time Trip!』を自主制作。現在も過去も“自分を表現する”という欲求は変わっていません。絵筆とパレットからカメラとシャッターに変わりましたが、わたしは常に“絵を描くつもりで写真を撮る”をモットーに撮影をしています。ですので、可能な限り『写真画家』と言うようにしています。
モデルから写真家としての道へ
専門学校で写真実習の講師を始めたのは2013年から。写真家として仕事をいただき始めたのは2015年から。初めての個展開催は2017年。モデル出身ということで、多方面から応援の声の反面、偏見の目などもあり、自分の進む道として本気で写真家として生きていくためにかなり悩みました。必死に踠き、耐えて、どう周りに見てもらえるのか探求した2年間でしたが個展をきっかけに見られ方がぐっと変わっていきました。
最初の頃は知人に借りたX-T1に60mmのマクロレンズだけで花からスナップ撮影までしていました。活動を始めたばかりの頃は、写真家と名乗るのに自信がなかなかつかず、どうすれば認めてもらえるのかと日々探求していました。とにかく作品を毎日撮ってまとめようと思うようになり、それが写真展開催につながっていきました。
写真家は作品を見てもらわなければいけない。写真展の知識などない状態でしたが、ちょうど友人から誘われた表参道のギャラリーがとても雰囲気が素敵だったんです。こじんまりとしているけれど清潔感があり、何より大好きなパリに精通したギャラリーでした。個展の申し込みと面談をしていただき、写真の個展は前例がないとのことでしたが、オーナーさんがパリのアーティストさんを応援していることもあり、オーケーをいただいたのです。
それまでに訪れた3、4回分のパリの写真を厳選し作品販売もしていたのですが、印象的だったのはたまたま通りかかって気になって入られた方が、わたしの作品を5点も買ってくださったこと。その他の作品も色んな方に気に入っていただきはじめての個展を大盛況で終えることができました。
肩書きって個人の解釈によるものもありますが、「写真家は写真作品を買ってもらうこと。オーダー写真をオーダー通りに撮るのがカメラマン」という意見も聞いたことがあったので、初めての個展で作品がたくさん巣立っていったときに、自分の気持ちとしては「ようやく写真家としての活動のスタート地点に立てたな」と実感したのです。全てがご縁で印象深い個展となりました。
旅先での“写り込み”が自分の定番に
撮影していて楽しいもののひとつがガラスや鏡面、水面の写り込みの撮影をするとき。撮影している自分を入れたり景色を入れたり。どの旅でも自分の中では定番の撮り方になりました。
基本ひとり旅なので、その時見ている世界を残せても滞在中の自分を残すことって難しいんですよね。そこでわたしは写り込んでいる自分を当初からずっと撮り続けています。今の自分を残したいという気持ちもありますし、人にカメラを託さないと自分を撮れないことからの脱却でもあります。そうしていくうちに、だんだんと写り込める場所を探して撮るのが楽しくなってきました。
モデル経験もあるので自分をいれた写真を残したいという気持ちもありますが、その土地に自分を溶け込ませたい、それが作品として認められたらいいなと思っています。ひと気のいない場所限定にはなりますが、階段や地面や椅子や自分のリュックの上にカメラを置いて、10秒のセルフタイマーで走ってセルフポートレイトを撮ることもあります。
また、旅先のホテルの部屋でも同じようにセルフタイマーで残すことが多いです。これもひとつの自分のお決まりとして写真を撮り続けています。
足元や手元を撮ることも多いですね。日本でも旅先のマンホールが思い出になったり、海外でも珍しいタイルの床と足元を写したり。自分の手を入れてチェキプリントを持ってフォトインフォトを楽しんだりもします。
だんだん自分にとって“毎回撮り続けたいもの”ができてきたら、それが自分らしさを表現するひとつになります。
その時感じた自分の心を素直に表すのがカメラを通して撮る写真なんだと思います。自分が見たこと、心が動いたこと、それがシャッターを押す原動力です。自分の出会った世界を、歴史を残していきたい……。そんな気持ちで旅をします。
そして大事にしていることは、「目の前に広がる世界に敬意をもち、写真を撮らせていただくという気持ちを忘れない。」ということ。尊敬する先輩写真家から教わった、写真家として絶対に忘れてはいけない言葉です。
富士フイルムの色表現に惚れ込んで
富士フイルムのデジタルカメラを始めて使ったのは2015年の夏です。富士フイルムのカメラを使って一番の衝撃は圧倒的に美しい色表現。作りこまれたフィルターの写真ではなく目に見える世界をより一層際立ててくれる、しかしながら色の世界を大事にした心遣いに一気に惚れ込みました。X-T1、X100Sと触ってそこからX-Pro2、X70、X-T2、そしてX-T3とXシリーズとともに写真生活を歩めています。
フィルムシミュレーションのお気に入りはACROSに+Ye(Yellow)のフィルター。締まりの効いたモノクロに黄色が入ることで少しニュアンスが変わります。残したい記憶色がモノクロの世界なのか、ASTIA(ソフト)なのか、ETERNA(エテルナ)なのか……。その土地のイメージでフィルムシミュレーションを決めたりすることも多いです。
そして色表現と同じくらい私に撮って大事なことは“所有欲”。世界には色々なカメラがある中でわたしがずっとこのカメラを持ちたいと思えた理由は「持ち歩きたくなる佇まいのカメラだから」です。いくら良いカメラでも持ち歩かなければ写真は写せません。持ち歩いて気分が上がる、重すぎず持ち歩くのが苦にならない、という気持ちは毎日カメラを持つ上で非常に大事な要素です。結果として突然現れた素敵な空の色を逃さずにシャッターを押すことができます。
“⾃分らしい写真”に悩んでいる方へ
“自分らしさ”とは、一番は何を撮りたいか、何を撮り続けたいか見つけることだと思います。わたしもとても悩んでいました。テクニカルではなく、感性で撮っているわたしは自分の“好き” “すてき”を写真で表現しているので、それを説明することが難しく、なかなか自分の道が切り開けませんでした。いまでもまだ日々探求中です。
ですが自分に正直になって、心が少しでも動いた瞬間にシャッターをすかさず押すようにしてみてください。だんだんと、より自分が好きなシーンがわかってくるはずです。
どんなレンズがいいかというのもたくさん撮っていくと好きな画角が分かってきます。標準のズームレンズで撮りながらたまに今何ミリで撮っているのかチェックしてみましょう。わたしの場合はフジのレンズで23mmと35mmで撮ることが多いので、単焦点レンズでも最も愛用しているものは『35mmF1.4 R』のレンズです。このレンズは描写力も素晴らしく人の目の画角に近いと言われている標準・35mm判換算50mmになるレンズですのでおすすめします。
撮りたいものによって、そのイメージする世界を描くために手助けしてくれるのがレンズです。好きなレンズとの出会いもまた自分らしさを表現する近道になります。
日頃から“素敵なものを見る眼を養う”ことを意識するのもいいかもしれません。美味しいもの、絵画・美術品・遺跡の本物を見る、景色を探す、音楽を聴く、映画を観て感動する…。素敵なものを常に自分の中に迎え入れる努力を心がけると、自分の感受性を豊かにできますし、その後の人生にも良い影響を及ぼしてくれるとわたしは信じています。
“自分らしさ”が“自分の好きな世界を残す”こととなりますように……!