【GFXシリーズレビュー】クリエイター・市川 渚と『GFX50S II』 別次元の描写力で、“ありのまま”のさらに先へ
2021年9月に登場したGFXシリーズ最新機種『GFX50S II』。小型軽量ボディにフルサイズの約1.7倍サイズのラージフォーマットセンサーを搭載した、ハイクオリティな撮影をより気軽に楽しめる一台です。今回は、クリエイティブ・コンサルタントとしてコミュニケーション戦略の企画立案、コンテンツ制作などに関わる傍ら、フォトグラファー、動画クリエイター、コラムニスト、モデルとしてさまざまな分野で活躍されている市川 渚さん(@nagiko726)に、GFX50S IIでの撮影を体験していただきました。高解像かつ圧倒的な描写力で切り取る日常は、さまざまな驚きと発見に満ちていたと語る市川さんが撮影してくださった作例とともに、GFX50S IIの魅力を紐解いていきます。
Interview:市川 渚
--早速ですが、今回ご使用いただいた『GFX50S II』の第一印象から教えてください。
「今、すごくいいものを手にしている」と感じさせてくれるような、説得力のあるカメラだと思いました。もともと富士フイルム社のカメラ製品に対してはデザイン性の高さや質感へのこだわりを強く感じていましたが、GFX50S IIに関しても「さすがだな」と。今回、ハンドストラップを付けて日常的に持ち歩いていたのですが、「すごくカッコいいカメラをお持ちですね」と声をかけていただくこともあって。これまでも知人に「本格的なカメラだね」と言われることはありましたが、カメラによって人の反応が変わるというのは、おもしろい発見でした。素晴らしいカメラであるのはもちろんのこと、それ以前にGFX50S IIはモノとして大きな魅力を持っているプロダクトなのだと思います。
--本格的に富士フイルムのミラーレスカメラを扱うのは今回が初めてだったそうですが、普段フルサイズ機で撮影されている視点も踏まえて、GFX50S IIの使用感はいかがでしたか?
GFXシリーズって、私の中ではスタジオ撮影や本格的な風景撮影に向けたカメラというイメージがあったのですが、実際に使ってみるとすごく良い意味で“ラージフォーマットであることを気負わずに扱えるカメラ”だと感じました。まず、メニューの階層がすごく整理されていて、直感的に操作出来ました。重さに関しても、普段使っているフルサイズ機と比べると多少ずっしりとしていますが、グリップが深いので安定感があるし、重量バランスが良いのか、重さは気になりませんでした。GFX50S IIは手ブレ補正も追加されていますし、いろいろな場面で活用できる一台になっていると思っています。
レンズは今回、『GF63mmF2.8 R WR』と『GF50mmF3.5 R LM WR』の二種類の単焦点レンズを使用したのですが、ちょっと持ち歩いて撮ってみようと思えるようなコンパクトさであることにも驚きました。
--ここからは市川さんに撮影していただいた作例を拝見しながら、ラージフォーマットセンサーだからこそ実現できるダイナミックレンジの広さ、階調の豊かさといった表現、そして富士フイルムの色づくりについての所感を伺っていきたいと思います。
まずはじめに、自宅の近所で撮影した一枚です。少し天気が悪い日で、電線にすごい数の鳩がとまっているところを撮ろうとしたらトラックが通って、ちょうど鳩たちが飛び立った瞬間です。手持ちだったので、手ブレ補正がなければ難しかったでしょうし、電柱の影の部分がベタッと黒潰れせず、すごく綿密に写せているところも本当にすごいなと感じました。鳩たちも一羽一羽の輪郭がしっかりと浮き出ていて、羽ばたく様子と存在感がより伝わる写真になっていると思います。
こちらは、雨上がりのタイミングで撮ったのですが、すごくいい感じに葉っぱの陰に花が咲いていたので、マニュアルで調整して撮影しました。ピントが浅くて少し苦戦しましたが、花びらの薄いところにピントをしっかり当てることが出来ました。この緑の色みや影と光の描写は、自分で後から調整をしてこの色みや質感に似せようとしても、とてもこんなふうにはならないんです。鮮やかなのに立ちすぎない落ち着いたトーンで、どうにも再現が出来ない、富士フイルムらしい色表現と、ラージフォーマットならではの独特な画づくりをこの一枚では特に感じました。
こちらの渋谷を歩いているときに撮影した1枚は、左側の銀行の窓ガラスに反射する空模様も素晴らしいですし、奥のビルを拡大して見ると中にいる人の様子まで分かるほどすごく細かいところまでしっかりと写し出されていて、GF63mmF2.8 R WRの圧倒的な解像感とラージフォーマットならではの描写力が表れていると思います。
続いて、遠出をした際に駐車場から車の窓を開けて撮った一枚。この数分後には真っ暗になってしまっていたのですが、夕暮れどきでも瞬間的な美しさを捉えられる機動力があってこそ撮れた写真だと思います。コンビニの店内は白飛びせず、肉眼ではほとんど認識出来ない奥の車にもちゃんと陰影がついていて、影の部分も切り絵のように平面的にはならず、ちゃんと立体物として描写されている階調の豊かさに改めて驚きましたし、すごく感動しました。
こちらは、自宅に届いた菊の花たちを撮影したもの。普段からこの感じでモノを撮ることが多いのですが、手元から花束の根元までの10cmほどの距離に生まれる遠近感まで描写してくれていて。これはフルサイズにはない力だと感じました。菊の細い花びら一枚一枚の表現もそうですし、単純にやっぱり色がキレイだなあと。必ずしもすごい風景や写真映えする場所に行かなくても、日常の一コマをさらに美しく魅せてくれるのは嬉しいですね。
人を撮ってみたいなと思いつつ普段あまり人を撮らないというのもあって、今回はセルフポートレートを頑張ってみました。スムーススキン・エフェクトという機能を試してみたのですが、普通であれば絶対にレタッチが必要なところを「本当に撮って出しでコレ!?」と感じるほど、質感を残しつつもちゃんとキレイな肌として写し出してくれていて。 あとはやっぱり、光と陰の美しさですね。よく見ると背景の陰になっている部分に置いてあるモノも写り込んでしまっているのですが、暗部がつぶれずに写っているのもGFXだからこそ為せる技ですよね。
これは、自宅での一枚です。朝陽がすごく入る家なので、普段から朝にこういう写真を撮ることは多いです。左横のテレビに映り込んでいる姿と、植木のこの浮き出ているような立体感がすごいなって、撮りながら思わずニヤニヤしちゃいました。GFX50S IIの撮影では影と光を追いたくなりますね。今回はいつもより陰影に焦点を当てた写真を撮っていたように思います。
同じく、光というテーマで逆光を試してみようと思って撮影した一枚。ちょうど紅葉が始まった頃で、手の届くところに真っ黄色の葉っぱがあったので、光が透ける角度でパシッとピントを合わせて撮りました。空の青と、まだ紅葉していない葉っぱの緑と黄色のグラデーションがすごくキレイで。いつもはRAWで撮影してLightroomで調整をしているのですが、GFX50S IIで撮影した写真については撮って出しでも、文句がない色表現だと感じました。それによって、ワークフローが短くなるありがたみもありますよね。
--さまざまなシーンで自由な表現を叶えてくれるGFX50S IIの魅力が作例からたくさん伝わってきました。改めて、今回の撮影体験についての感想を訊かせてください。
今までは、あとから調整することが当たり前だったぶん「とりあえず撮っておこう」と考えることが多かったのですが、GFX50S IIの撮影では「今撮っている画で成り立つよう、丁寧に撮影しよう」という気持ちが生まれました。そのシーンをありのまま写すことも写真の大きな役割だとは思うのですが、その場をどう見せるかっていうところもすごく大切な視点だと私は思っていて。そういったところで、実物とかけ離れ過ぎず、その場の良さをさらに引き立ててくれるような色を出せるカメラだなという印象がありました。いかにもデジタル時代の写真だなあと感じる写真は世の中にたくさんあると思うのですが、GFX50S IIはフィルム写真にも通じる独特の質感を表現しながら、ラージフォーマットによる抜群の解像感とテクノロジーの進化を享受出来るプロダクトだと思います。
text by 野中ミサキ(NaNo.works)