【Xシリーズレビュー】富士フイルム『X-T30 II』・クラシックネガで切り取る、写真家・Rinco Koyamaと熱海の旅
富士フイルム・ナチュラクラシカに出会って以来、普段の撮影にはフィルムカメラを使用されているという写真家のRinco Koyama(@RincoKoyama)さん。その場の空気感をぎゅっと閉じ込めたスナップ写真で注目を集めています。今回は、Koyamaさんに自身初となるミラーレス機での撮影を11月25日(木)に発売されたばかりの『X-T30 II』で体験していただきました。
小型軽量なボディに『X-T4』と同等の高速・高精度AF、そしてカラーネガフィルムのような描写が人気のフィルムシミュレーション『クラシックネガ』を新たに搭載したX-T30 IIでの撮影についてKoyamaさんは、「フィルムカメラのような親しみとデジタルならではの強みを感じた」といいます。さらに今回は、今年発売された手のひらサイズの写真プリント『ハーフサイズプリント』でレトロな街並みが多く残る熱海を巡った一泊二日の旅の記録をプリント。写真の楽しみ方がさらに広がる写真プリントの魅力についてもお伺いしました。
Interview:Rinco Koyama
――普段フィルムカメラをメインで使用されていらっしゃる視点も交えて、ぜひX-T30 IIでの撮影体験をお伺いできればと思っています。まずは、カメラを初めて手にされたときの印象を教えていただけますか?
いつも使っているフィルムカメラは、ずっしりとした重たさを感じるものが多いのですが、X-T30 IIはクラシカルなフィルムカメラの佇まいがあるのに、実際に持ってみると驚くほど軽くて、思わず笑ってしまいました。しっかりと撮れるレンズをつけているのにコロンと可愛らしいサイズ感ですし、今回のように旅先で時間をかけてじっくり撮り歩くようなときにも苦にならない重さとコンパクトさが嬉しかったですね。
――Koyamaさんが初めて手にされたカメラは、富士フイルムのナチュラクラシカだったそうですね。以来、フィルムも富士フイルムのカラーネガフィルムを愛用されているとのことですが、Xシリーズならではの機能であるフィルムシミュレーションでの色表現は、フィルム写真に親しみがあるKoyamaさんの目にどう映ったのでしょうか?
普段、風景写真を撮るときなどに『フジカラー100』を使用しているのですが、富士フイルムのカラーネガフィルムは、ブルーやグリーンがすごくきれいに表現出来るところが好きで愛用しています。今回は前モデルの『X-T30』から新たに追加されたというフィルムシミュレーションのクラシックネガを使って撮影したのですが、写真を見て特に素晴らしいと感じたのは、記憶のままの色を再現してくれる色づくりと、透明感や滑らかさ。たとえば、午後の横から射してくる光を撮ったときに、私が素敵だと感じた透け感やあたたかさをちゃんと表現してくれるんだ!と感激しました。
加えて、WBシフトという機能でホワイトバランスを細かく調整してその場でカメラと一緒に色を作っていく感覚がすごく楽しかったです。陽が落ちてきて景色がオレンジがかってきたら「ちょっとグリーンを足してみようかな」とか。液晶モニターを見ながら“ちゃんと自分の記憶にあるそのままの色が残せている”と感じられたこともすごく印象に残っています。
――「カメラと一緒に色を作っていく」って、すごく素敵なフレーズですね。
デジタルカメラをメインに使っている方だと撮影後に色調整をすることもよくあると思うのですが、私はフィルムで撮っているスタンスがあるので、撮影時にホワイトバランスなどを調整していました。撮りたい表現に合わせてその場でフィルムを選ぶ普段の撮影の感覚とリンクしているようにも感じられましたね。
――今回の撮影では、『XF35mmF1.4 R』を使っていただきました。こちらのレンズについても感想を教えていただけますか?
『XF35mmF1.4 R』は、作りたい光の感じをすごくうまく表現してくれますし、オールドレンズに親しんでいる方にもおすすめと聞いて、「確かに!」と納得するようなレンズでした。
下の写真は特にレンズの光の表現のすごさを感じた写真です。今まで、光に対して真正面から撮影すると白飛びしてしまうイメージを持っていたのですが、こんなふうにしっかりと繊細な光の透明感を写し出してくれたことで、すごく美しい写真になったなと嬉しくなりました。
――ここからは、熱海に赴き撮ってくださった作例を拝見しながら、印象的だった撮影エピソードをお伺いしたいと思います。
まずこちらは旅先でふと見つけた建物。これといって特徴がある景色ではないと思うんですけど、この壁に当たっている光の滑らかさは、フィルムカメラを持っていたら絶対撮りたくなるなと思って、シャッターを切ってみました。デジタルでこんな風に優しく滑らかな表現が出来るのは本当にすごいなって感じた一枚です。
これは、温泉街の近くにあるロープウェイで八幡山山頂まで登ったときの写真です。自分の記憶の中にある大好きなカラーネガフィルムの色を表現してみたいなと思って、同じ景色をホワイトバランスを変えた3パターンで撮ってみました。それぞれ左から、PRO 400H、ビーナス800、フジカラー100をイメージしています。
フジカラー100は比較的パキッと色が出るフィルムなのですが、オールドレンズを使うと少し落ち着いた色味になるなあという印象があったので、そのあたりも意識しながら色づくりをしました。すごく細かく調整出来るぶん、凝り性な人ほどハマっちゃいそうな感じですね(笑)。
熱海らしいレトロな風景もいくつか撮影してみました。フルーツみたいに色鮮やかなものをフィルムカメラで撮ると結構ドギツい色になってしまいがちなのですが、X-T30 IIで撮った写真を見て、鮮やかさを損なわず柔らかさもある写真に出来るんだなあと感心しました。
こちらは少し暗めのアーケードで撮影した写真です。フィルムカメラだと暗いところでの撮影がちょっと難しくて、脇をしっかり閉めてシャッタースピードを落として撮る……という感じなんですけど、高感度のシチュエーションで気楽に撮ってもくっきりと写せるのはデジタルの強みだなと感じました。
これは、今回の旅で1番印象に残っていると言っても過言ではない一コマ。休憩を忘れるほど撮影に夢中になって、ようやく食べたバナナサンデーが美味しかったっていう写真です(笑)実際の店内はオレンジっぽい照明のムーディーな空間だったのですが、フィルムカメラだとそういった薄暗いシチュエーションで思うように撮ることはなかなか難しいんですね。喫茶店の雰囲気を残したままこれだけ明るくきれいに撮れるのは、やっぱりデジタルだからこそだと感じました。
――何気ない風景の中にある、自分にとってグッとくる瞬間をカメラと一緒に探し歩く楽しさが写真からありありと伝わってきました。改めて、今回X-T30 IIと訪ねた熱海の旅の感想を訊かせてください。
クラシックネガと熱海の街並みは、すごく相性がいいと思います。熱海という場所はいろいろな眺めを楽しめるところなので、本当にカメラ1台ですごく楽しめた1泊2日でした。新しさと古き良きレトロな雰囲気が混在している熱海の街は、歩いているだけですごく時代の流れを感じられますし、それを自分なりの視点で撮っていくことがすごく面白かったです。
思い出を手元に残せるハーフサイズプリント
――今回撮影してくださった写真は、L版の半分に相当する手のひらサイズの『ハーフサイズプリント』でプリントしていただきました。実際に手に取ってみて、いかがでしたか?
今回、熱海っぽさをイメージして<フチあり・マット>で仕上げてみました。カード風ですごく可愛いですし、マットだと指紋がつきにくいので扱いやすくメッセージカードのように渡したくなります。渡す人をイメージした写真を選んでいる時間もきっと素敵だと思いますし、気持ちがより伝えられると感じています。このサイズ感なら透明のスマホケースにも入れられますし、フチの余白部分に撮影時に感じたことをメモして手帳に挟んでおけるところがいいなと思いました。自分が撮った写真が手で触れられるカタチになって存在するということがすごく嬉しくて、1枚1枚をめくるごとに愛しい気持ちになりますね。
――撮った写真をプリントする、というところに価値を感じていらっしゃるんですね。
普段から手帳や筆記用具にこだわったりと、アナログが大好きなので、写真をデータとして持っておくだけでなくプリントしてこそちゃんと写真が生まれてきたなあっていう気持ちになるというか、本当のお気に入りはモノとして存在してほしいという気持ちがあります。そういう写真が並んだアルバムは我が子のように愛おしくて、ずっと眺めていたくなりますね。アルバムにまとめる作業自体もすごく面白くて、見開きのレイアウトを青系の色味でまとめてみようかなとか、場所の雰囲気で合わせてみようかなとか、1枚のシートにたくさん並べられるハーフサイズプリントならではの楽しみがありました。
――今回のお話から、Koyamaさんがどんなところに写真を撮る喜びを感じていらっしゃるのかが、すごく伝わってきました。最後に、今後撮りたいものやハーフサイズプリントを活用してみたいシーンをぜひ教えてください。
日本の古い街並みをスナップ写真で残していきたいです。初めていく街にはときめく出会いがたくさんあるので、それを発見したときの嬉しさやときめきをスナップ写真に収めていきたいという思いです。世の中は新しくなっていくけれど、古き良き文化を尊重にしつつ、共生していくことが大切なのかなと考えています。今回ハーフサイズプリントに触れてみて、このサイズの個展も面白そうだなとイメージが湧きました。 近寄ってじっくり見てもらえるように、たくさん貼ってみるのも可愛いですよね。プリントした写真に気持ちを書き残しておくというのは、これからもやっていきたいなと思います。
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text by 野中ミサキ(NaNo.works)