『X-T20』を片手に神楽坂フォトウォーク!離島ごはんに手しごとの器、本を嗜むブックバー、石畳の裏路地で時間旅行
【IRODORIシティスポット〜神楽坂篇〜】
風格漂う大人の街・神楽坂。近年では“小さなパリ”と喩えられ、おしゃれなカフェやショップが軒を連ねる人気エリアです。その歴史は古く、神楽坂中腹にある「毘沙門天 善國寺」を中心とした賑わいは、江戸時代から続いているのだとか。多くの文化人や政界人が通う花街としても知られ、今も昔もさまざまな文化やトレンドが入り交じる小粋な街です。今回は、そんな神楽坂を「X-T20」と一緒にお散歩。離島の食をコンセプトにした路地裏キッチンやmade in japanの品を扱う器と工藝のセレクトショップ、本とお酒を嗜むブックバーなど、ちょっぴりディープでひとりでも気ままに楽しめる神楽坂の歩き方をご紹介します。
神楽坂の街並み
九段下方面に位置する外堀通りと早稲田方面に位置する大久保通りにかけて続く、神楽坂エリア。チェーン店が立ち並ぶ大通りの喧噪とは打って変わって、一歩神楽坂通りに進むと、そこには日本古来の風情を感じられる街並が広がっています。メインストリートの中腹にある「善國寺」は、開運・厄よけの神様・毘沙門天を奉る寺院。古くから親しまれてきた、象徴的スポットです。
神楽坂通りから枝分かれする路地に入ると、さらに情趣に富む風景が。昔ながらの木造家屋が立ち並ぶ小道は、ちょっとした迷路のように入り組んでいます。風に揺れる縄のれんや花が挿された手桶など、ふと目に留まるのは懐かしくも新鮮な和の趣。美しく素朴な光景に焦点を合わせるうち、まるで時の狭間に降り立ったような感覚がじわりと沸き起こります。
通好みのスナックやバーが軒を連ねる「みちくさ横丁」は、神楽坂下からほど近い「神楽小路」にひょっこり表れる昭和感たっぷりの短い横丁。レトロな小路には、渋みのあるモノクロ写真がぴったり。光と陰が織り成す濃淡が、この街に染み付く“味”を感じさせてくれます。お昼は静かなこの横丁も、夜はみちくさ上手な大人たちで大賑わい。そんな光景を想像させる一枚になりました。
神楽坂仲通から本多横丁につながる「かくれんぼ横丁」は、格式高い花街・神楽坂の風景がより色濃く残る裏路地。その名から連想するとおり、隠れ家的な料亭がひっそりと連なった小路です。黒塀と石畳がつくりだす秘密めいた陰影を「ACROS」で撮影。すっと吹き抜ける風に足を止めると、どこからか涼やかな風鈴の音が聴こえてきました。ちなみに、かくれんぼ横丁の石畳の中には、縁結びのご利益があるハート形の石があるのだとか。
休憩中の板前さん。ひっそりとした裏路地で、ほっこりする光景。人物を入れることで、よりリアルな場の雰囲気が伝わってきます。
離島キッチン
お昼は、神楽坂上から少し進んだ先の路地にある「離島キッチン」へ。島根県の隠岐島・海士町のアンテナショップとして2015年にオープン。以来、都道府県の垣根を越えて日本各地に点在する離島の食文化と魅力を発信。各島から訪れた方々が離島キッチンに集合することもあるのだそう。お品書きには、都内でなかなか味わうことのできない離島グルメがずらり。毎月設定される“今月の島”にちなんだ献立や、さまざまな島のご当地料理を一挙に味わう「島めぐり御膳(昼限定)」なども楽しめる、粋でユニークな御食事処です。
もとは古民家だった一軒家を、“船小屋”をコンセプトに改装。東京の真ん中とは思えないほど、非日常的で港町のようにゆるやかな雰囲気に包まれています。ここでは、店内の解放感を写し出せるよう、奥行きや天井の高さを意識した構図で撮影。内装に使われているトタンやコンクリートの質感をそのまま残せるよう、カメラをフィルムシミュレーション「PROVIA/スタンダード」に設定。自然な色再現に加え、照明はつけず窓から入る自然光のみを活用することで、清々しい空気感もそのまま切り取りました。
本日は、隠岐島・海士町の「寒シマメ漬け丼」をチョイス。寒シマメ=冬の寒い時期に採れるスルメイカのこと。肝醤油と卵黄を絡めていただく肉厚な寒シマメは、ぷりっとした食感と噛むほどに広がる甘みが贅沢な味わい。付け合わせに、同じ海士町の塩を使ったキャベツの浅漬け、鹿児島県・甑島の麦味噌をつかったお味噌汁、粘りの利いた三重県答志島の新鮮なわかめサラダ。淡いピンク色の「ふくぎ茶」は、クロモジの木を煮出してつくる海士町では馴染み深いハーブティなのだそう。さまざまな島から持ち帰られた食器や箸置きも、注目したいポイント。たっぷり光が入る窓際で撮影することで、寒シマメの艶やかさや素材のみずみずしさをよりはっきりと写し出すことができました。
食後には、爽やかな甘みがうれしい東京・八丈島のフルーツレモンソルベとあたたかな加計呂麻島の島月桃茶を。店内の物販コーナーには、スタッフさんが現地で出会い持ち帰った品々や旬のご当地食材が。旅行気分でお土産探しをするのも楽しみ方のひとつです。
これまで口にしたことのない味や食から見えてくる島の風土など、離島キッチンには発見が盛りだくさん。海と大地の恵みをダイレクトに味わう、心もお腹も大満足な食も体験できました。新たな島との出会いを期待して、毎月通ってしまいそう!
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コハルアン
離島ごはんを堪能したあとは、東京メトロ・神楽坂駅ほどちかくのマンションでひっそりと商う、器と工藝の店「コハルアン」へ。『土地と人の生活に密着した、ちいさなスケールでやっていければ』と、今年3月に「神楽坂 暮らす。」から現店名へ改名。美しくしつらえられた店内には、この道10数年という店主のはるやまさんが日本各地を旅して出会った、昔ながらの日本の手技が感じられる暮らしの器がひとつひとつ丁寧に並べられています。
工藝そのものの繊細な細工や質感もちろん、器に透過した光によって生み出される影さえも、ため息が出るほどの美しさ。ここでは、柔らかく滑らかな器の質感を再現してくれるフィルムシミュレーション「PRO Neg.Std」に設定。重ねて「グレイン・エフェクト 弱」をかけたことでフィルム写真が持つ粒状感がプラスされ、シックな雰囲気もより忠実に写し出されました。ひとつの空間にさまざまな形状のものが並んでいるような場所では、同じ色や質感のものが複数並んだコーナーにフォーカスすることでメリハリのついた写真になります。
美しい器や暮らしの道具に触れていると、なんだか気持ちまで柔らかくなってくるよう。どの子を連れて帰ろうかな、なんて考えては、それぞれの品に宿る作り手の想いやストーリーに思いを巡らせる、やさしく静かな時間がゆっくりと過ぎていきました。
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Book&Bar 余白
神楽坂散策の〆は、神楽坂上を抜けて大久保通り沿いに位置する「Book&Bar 余白」へ。25年間出版社に勤めていらっしゃったご主人と奥様が営む、カウンターのみのちいさなバーです。壁面の本棚にずらりと並ぶのは、すべてご主人とご家族の私物。純文学〜サブカルチャー、人気漫画に雑誌など、本好きでなくとも充分楽しめるラインナップ。おいしいごはんやお酒を楽しみながらの読書は、図書館へ行くときとはまったく違った本との出会いを与えてくれます。
フード・ドリンクメニューが豊富なところも、余白の魅力。仕事帰り、ごはんを食べに立ち寄るお客さんも多いのだとか。この日は、ついついお酒が進んじゃうお店のオリジナルメニュー“余白のクリームチーズ”と赤ワインをいただきました。
ここでは、フィルムシミュレーション「クラシッククローム」に「グレイン・エフェクト 弱」をかけて撮影。彩度は控えめに、柔らかな照明と木のぬくもりに包まれた店内の空気感を再現。カウンターに腰掛けて本を読むさりげない所作や、注がれたグラスの水にまで物語性を感じさせてくれるような画に仕上がりました。
ひとりで行っても気まずくないのが、ブックバーのいいところ。前の人が途中ではさんだしおりを見て、知らない誰かと同じ物語を共有していることに思わずほくそ笑んでしまったり。ときには、本をきっかけに初めまして同士で会話が生まれることもあるのだとか。店名でもある“余白”は、日常にゆとりをもたらしてくれる魔法の言葉。飲んだり、食べたり、読んだり――。ちょっぴり背伸びして踏み込んだ神楽坂で、私らしくマイペースに過ごせる場所を見つけました。
Spot Information
歴史と風情が息づく神楽坂。石畳の小道の先には、懐かしく親しみやすい風景が待っていました。路地裏や横丁に寄り道しながら坂を登り切る頃には、きっと自分らしい楽しみ方を見つけられるはず。次のお休み、ぜひ足を運んでみては?
今回登場したカメラ
text by 野中ミサキ(NaNo.works)
photo by Nozomu Toyoshima