『ベルリン、そして、ヨーロッパの片隅から』〜クリスマスマーケット篇〜 コラムニスト・宮沢香奈 vol.3
灰色に覆われたベルリンは、出口のない深い闇の中にたった1人取り残されてしまったように感じることがある。時折そんなどうしようもない絶望感に苛まれながら、それでもこの街にいる理由を考えては必死に闘っているのもかもしれない。
白夜のように美しく、天使の笑顔にさえ思える夏にはそんなことは1秒たりとも考えたりしない。悪魔の微笑みに変わった冬だけ自分の心の中にも悪魔が潜む。
ベルリンの冬を嫌う人はとても多い。晴れた日の澄んだ空気の心地良さや決して同じ色にはならない美しい空に気付く余裕さえ奪ってしまうのかもしれない。そんな嫌われ者の冬でもみんなを笑顔にさせる時期がある。煌びやかなライトアップが街中に灯される一年で最も華やかなクリスマスシーズン。マライア・キャリーの『All I want for Christmas is you』もWham!の『Last Christmas』も聴こえてこない、厳かで伝統文化を重んじる本物のクリスマス。
大量のもみの木が運ばれてくる様子を見ながら、街角のコーヒースタンドで“Glühwein(グリューワイン)”の文字を発見しながら、キラキラしたイルミネーションに彩られてゆくデパートを見ながら、嬉しさで心が満たされてゆく。子供も大人も、ドイツ人も日本人も、誰しもが大好きなクリスマスの季節がやってきた。
クリスマスマーケットの発祥地はドイツの東に位置するドレスデンと言われている。ベルリンへ移住する前に一度訪れたことがあったけれど、11月中旬というそんな季節外れに訪れる人はとても少なく、街は閑散としていた。その時は世界的に有名な最古のクリスマスマーケットが存在することなど知らずに、アルトマルクト広場にログハウスやメリーゴーランドが設置されていくのをただぼんやりと眺めているだけだった。
人種と同じくバラエティーに富んだベルリンのクリスマスマーケットもなかなかのユニーク。思えば、毎年決まったところにしか行っていなかったため、今年は違う場所へ行ってみようと思い立ち、『XF10』を持って電車で30分で行ける気軽なプチ旅ポツダムへ足を運んだ。ベルリン以上に高層ビルがなく、全体がコンパクトにまとまったポツダムの街は清潔感があり、可愛らしいドイツ建築が立ち並ぶ。
地元の人々で賑わうアットホームな雰囲気のクリスマスマーケットは、ブランデンブルク門をスタート地点に移動式遊園地、屋台、バー、工芸品、ドイツ名物などが多数出店されていた。ここは日が落ちるとともにブルーで統一されたライトが一斉に灯り、昼とはまた全然違う雰囲気を味わうことが出来る。
教会、公園、文化施設など街の至るところで開催されているベルリンのクリスマスマーケットは小さいものも入れたら数え切れないほどある。SNSで流れてくる大量の情報に目を向けることなく慌ただしい日々を過ごしていたところに、フッと友人から教えてもらったのが、『Lucia Christmas Market』だった。ここは、19世紀に建てられたビールの醸造所跡地で現在は文化施設として様々な催しがおこなわれている場所。
レンガ造りの歴史的建築を背景に、スウェーデンをはじめとする北欧のかわいいクリスマスが入り混じった異文化マーケットに興奮。それぞれ違う凝ったデザインのログハウス、珍しいオーナメント、“かまくら型”のバー、暖炉で暖まりながら初めて口にするホットカクテルでひと息つきながら、ようやく2018年という激動の年が終わることを実感した。
来年は一体どんな年になるのだろうか?またしても激動になるのだろうか。穏やかな年などあっただろうか。
今年あった出来事、出会った人、行った場所、泣いて、笑ったこと、頭の中で一気に再生されてゆく。でもそのどれも振り返りはしない。消去もしない。過去の出来事として思い出となり、自分自身は前に進んでいくだけ。
友人と別れ、iPhoneからメールをチェックする。1月のスケジュール確認や変更事項が次々と届いている。すでに始まっている新しい活動にワクワクしながら、いつもよりキラキラした街を歩く。
「Frohe Weihnachten!!(メリークリスマス!!)今年もありがとう。」
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