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Column 2019.02.22

『ベルリン、そして、ヨーロッパの片隅から』〜最終回篇〜 コラムニスト・宮沢香奈 vol.5

カーテンのない壁一面の大きな窓からは燦々と太陽が降り注ぎ、鳥のさえずりが聴こえてくる。ベッドの中から手を伸ばし、iPhoneで時間を確認する。まだ午前中の早い時間であることに思わず嬉しくなる。ドイツ人の友人から借りている1人暮らしには十分な広さのスタジオアパートメントは、小さな植物園のようで、アーティストでもある彼の不思議なライフスタイルをそのまま引き継いでいる。

10分も歩けばミッテの観光地に着くようなクロイツベルクの住宅地であっても、住人の共有スペースである広大なガーデンには野生のリスやうさぎが沢山いる。ニューヨークのセントラルパークにだって野リスはいるのだからベルリンにいても何ら不思議はないのだけど、高層ビルは少なく、50年、100年以上前に建てられた朽ちつつも風情ある建物の中で人は暮らし、街中に溢れる豊富な自然と野生動物とともに共存している。本当にここが経済大国ドイツの首都なのだろうか?その疑問は4年半以上も住みながら未だに消えない。でも、私はこの中途半端な都会がとても気に入っている。

そして、少しホラーめいてしまうけれど、ベルリンという街はとても強い引力を持っていると思う。自分の意思とは全く無関係に見えない力に導かれていると感じたことが過去に一度や二度ではない。こんなことを言うとスピリチュアルな人間だと思われるかもしれないけれど、むしろスピっているのはこの街のほうである。

“Everything you can imagine is real”

偉大な画家、パブロ・ピカソの名言の一つ。しかし、想像など到底出来ないようなとんでもないことが現実として起こるのがベルリン。それは、生きる力さえも失ってしまうほどの絶望感を味わってしまうことだったり、もはやラッキーとしか言いようのない奇跡的なことが起きたり、それらは何の前触れもなく突然やってきては、片一方の人間の人生を崩壊し、もう片一方の人間の人生をバラ色に変えてゆく。この街はその対極にある人の人生によって保たれているのかもしれない。何の引力にも導かれず、ごくごく“平凡”に暮らしている人がいるとしたら会ってみたいものだ。

そんなことを考えながら、防空壕跡地で古典美術と現代美術を並列展示しているベルリン唯一のミュージアムで見たヒンドゥー教の神像ハリハラを思い出した。ハリハラとはインド神話の神シヴァとヴィシュヌが合体した神のことで、創造と破壊の象徴とされている。新たに作っていくものと壊していくもの、一見、対極に見えるものは実はものすごく身近にあって引き合うのだと思う。ベルリンの見えない引力と同じように。

至るところにある第二次世界大戦や冷戦による負のレガシーとされるものは違った角度から見たら非常に貴重なモニュメントに感じる。戦争を知らない現代に生き、しかも好き勝手にこの地に住み着いている日本人の勝手な解釈ではあるけれど、少なくとも日本よりきちんと戦争という歴史に向き合っている。そして、華美なものなど必要ないと言わんばかりに無機質で無骨でストイックな空間から世界を魅了してやまないアンダーグラウンドカルチャーが生まれているのは紛れもない事実である。私はそこに一目惚れしたのだから。

一つの街の中で一つの国が東と西に分断されていたなんて、しかも3メートルほどの高さで大して厚くもない壁によって長い歴史を作っていたなんて。唯一無二の独創性を持ったクレイジーな街になる以外一体何になると言うのだろうか。浅く広くしか知らなかった歴史を深く知ることももちろん大切であるけれど、それと同時に、私はこの街でしか生まれない究極のアンダーグラウンドカルチャーをこれからも追い続けていきたい。

昨年10月からスタートしたコラムも今回で最後となります。
写真の腕は当然ながら素人であり、『XF10』を手にしたものの最初は使い方が分からず、戸惑うこともありましたが、今ではどこにでも持ち歩き、どこでも撮影するようになりました。撮れば撮るほどおもしろくなっていくのが写真であり、見慣れたベルリンの街であっても天気や季節によって全く違う表情を見せてくれるのだと写真を通して実感しました。

これからもここベルリンで、世界各地で、その地に降り立った瞬間を撮っていきたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回登場したカメラ

FUJIFILM XF10

Profile

宮沢香奈/Kana Miyazawa

ライター、コラムニスト、コーディネーター

長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’s FUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。

◼︎Qetic
https://www.qetic.jp/column/kana-miyazawa/
◼︎VOGUE
https://www.vogue.co.jp/lifestyle/culture/
◼︎繊研新聞
https://senken.co.jp/categories/kmiyazawa

Blog:HOUYHNHNM
Instagram:@kanamiyazawa

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