“瞬きをするようにシャッターを切ろう。~今、確かに、ここにいる。〜”写真家・渡邉真弓vol.08
カメラを始めてから日々の暮らしがすこし変わった。行きかえりの道に咲く花が可愛かったり、空は毎日同じではないこと。ファインダーを通して見る私の世界は、ささやかな発見の連続だ。
朝日が見たくて、前から気になっていた場所へ出かけてみた。
6時45分。1月の空はようやく朝が始まりだしたところで、三日月がぽつんと浮かぶ。
夜明けの中、『X-T4』と撮影ポイントを探して歩いていたら、おじいさんに出会った。
「おはようございます」
「おはよう」
おじいさんは片手にスキー用のストック1本と、ゴルフのアイアンを持っている。
ストックを杖代わりにして雪に埋まった階段を堤防まで登ってきたようだった。
夏は夏草で、冬は雪で、ゴルフの素振りをしているんだなぁと思った。
「ここで写真を撮っているの?」
はい、と答えた。ここが前から気になっていて、と。
「そう」と短くおじいさんは答え、すっとストックを上げて、
「橋を越えたマンションに朝陽が射すんだ。光が反射して綺麗でね。いつ見ても好きな景色なんだ」と教えてくれた。
見てみると、朝陽が暖かく照らすマンション群があって、おじいさんが指射した建物の窓はひときわ眩しかった。
きっとあそこに住む人は朝陽のたくさん入った部屋の中で、いま朝の時間を過ごしている。
窓の分だけ、人の暮らしがある。
私とおじいさんはしばらくその光景を見つめたあと、「じゃあ」と別れた。
川霧が出たわけでもない、珍しい鳥が来たわけでもない、普通の朝の景色。
ソーシャルディスタンスとマスク越しだったけど、暖かい気持ちを交換して、なんだかポカポカした気持ちになった。
「足元に広がる世界に目を向ける」
それは、いわゆる“映え”写真とは違う。本当に何でもない日々の積み重ね。
けれど、コロナの終息が見えない今だからこそ、そんな日々を撮ることで、私たちは自分が“今、確かに、ここにいること”を感じることができる。それは写真の持つ力のひとつだと思う。
私はそう信じて、今年も撮り続ける。
自分の身の回りを。出会う光景を。できる限り、丁寧に。
大きな変化の中、あっという間に過ぎ去った2020年を思いながら。
2021年という新しい年に、ちょっぴり期待を込めて。
撮ることで、勇気をもらいながら、今年も生きていこう。
そんな私の日々をX-T4で撮りためて、映像を作りました。これは、2020年にX-T4を迎えてから、新しく始めたこと。
動画と写真を組み合わせることで想いを伝える、というのも良いなと思っています。
※動画内、車内の映像は車の助手席から撮影しています
2020年は直接会えなかった分、オンラインのレッスンやイベントで全国の方とお会いすることができました。「直接会えないけれど、みんなとオンラインで繋がれて元気が出ました」「また撮影したくなりました」そんな声が嬉しく心強かったです。ありがとう。
2021年も、オンラインや対面で元気にお会いできますように。
そして、あなたの2021年の日々を、どうか写真が傍で勇気づけてくれますように。
撮影メモ
・写真はすべて“jpeg撮って出し”です。
・フィルムシミュレーションは被写体にあわせてセレクトすると良い。例えば、朝焼けの写真は柔らかさと自然な階調と発色を求めてASTIA。クラシックネガは秋から冬の光にとてもマッチするので、最近はクラシックネガでよく撮っています。
・AWBのホワイト優先や雰囲気優先がとにかく便利。被写体の雰囲気で使い分けてみて。
・赤、黄、緑の階調をさらに出したいときはカラークロームエフェクト、青のときはカラークローム ブルーを使ってみて。色に深みを加えることができます。
・エッセイ内の映像は手持ちで撮影しています。
・ハイスピード動画を使うとより印象的に。映像内の真ん中あたりで使っています。
・今回のレンズは、『XF23mmF2 R WR』、『XF35mmF1.4 R』、『XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR』
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