【X/GFXシリーズユーザーインタビュー】フォトグラファー・おくでと『GFX50S II』 カメラ越しに辿る、あの夏の記憶
ノスタルジックな田舎の夏の風景をSNSに投稿しているおくでさん(@okina12)。懐かしさを感じる日本の原風景的写真には、国内だけでなく海外からも好意的なコメントが寄せられています。そうした作品が撮影されているのは、おくでさんの地元である福井県。観光地でも映えスポットでもない、小さなころからそばにある身近な景色の素晴らしさに気づかせてくれたのは、自身にとって初めて手にしたカメラでもある『X-T2』だったそう。以来、『X-Pro3』『GFX50R』そして『GFX50S II』と富士フイルムのカメラを愛用してきたおくでさんに、現在の作風に至るまでのお話やXシリーズとGFXシリーズの使用感、そして『GFX50S II』だからこそ叶う理想の一枚について伺いました。
Interview:おくで
——おくでさんは、写真を撮り始めて6年ほどになるそうですね。カメラに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
外に出る趣味が欲しくて、それでカメラを選びました。当時は社会人2年目で、失恋したこともあって会社と家を往復するだけの生活にしばらくなっちゃって、これはちょっと良くないなあと思っていたんです。ちょうど同じころ親戚の結婚式があって、そこで親戚のおじさんに「ちょっとお願い」って渡されたカメラがカッコ良くて。そこから一眼レフカメラに興味を持ちました。
——そこからどんなふうにカメラライフがスタートしたのでしょう?
機材のことは全然わからなかったので、とりあえず近くのカメラ屋さんに行きました。そこで店員さんが見せてくれた写真が『X-T2』と『XF35mmF1.4 R』を使って撮った写真だったんです。柔らかくて優しいすごくいい写真だなって感じて、こういうふうに撮れるカメラを使いたいなと思ったので、ほぼ即決で店員さんがおすすめしてくれた『X-T2』を購入しました。作例の写真が良かったことに加えて、『X-T2』の見た目がものすごく好みだったことも決め手になりましたね。
——おくでさんのお写真といえば田舎の夏を切り取った風景が象徴的ですが、『X-T2』を手にしたばかりのころは、どんな写真を撮っていらっしゃったんですか?
最初は、とくに撮りたいものも決まっていなかったので「なんかいいな」と思ったものを写していました。その後コロナ禍になって外に出られなくなった時期に、思い立ってカメラを持って近所を歩いてみたんです。改めて身の周りに意識を向けてみると自分が知らないだけで近くにすごくいい場所があって、小さいころ夏休みに友達と遊んでいた草っ原とか入道雲とか、そういうノスタルジーを感じる風景を自然と追い求めるようになりました。『X-T2』は比較的コンパクトで、グリップが主張しすぎず程よいホールド感もあるので持ち歩くことが負担にならないというのも外で撮影をしてみようと思った理由のひとつでした。見慣れた景色もファインダー越しに見るとすごくきれいだし、目で見るのとは違う世界が広がっていて、どんどんカメラにのめり込んでいきましたね。
——慣れ親しんだ景色のなかにある魅力を再発見したことが今の作風にもつながったんですね。『X-T2』を手にして以降、『X-Pro3』『GFX50R』、そして現在メイン機としてお使いの『GFX50S II』と、富士フイルム一筋でカメラ歴を更新していらっしゃるそうですが、所持カメラの移行とその理由についても教えていただけますか?
まず『X-Pro3』ですが、これも間違いなく見た目がひとつの理由なんですけど、当時まだデジタルのレンジファインダー式カメラってあまり出ていなかったと思うんですね。そのなかでも『X-Pro3』はチタン合金のボディのカッコ良さと、背面液晶モニターがあえて隠されていることのメッセージ性がファインダーを覗いて撮りたい派の自分にものすごく刺さって。AF性能の向上だったり、機能性の進化も感じられるポイントもあって、これを使い倒してうまくなりたいなあって思わせてくれたカメラでした。今のようにSNSで写真を発表して反響をいただくようになったのも『X-Pro3』を使うようになってからです。そこから3年ほど『X-Pro3』を使っていたのですが、次第に撮影のお仕事をいただく機会が少しずつ増えてきまして。サブ機としてカメラを何台も持つ方もいらっしゃるみたいですが、僕はコレって決めた相棒を育てていくような感じが好きなので、この機会にステップアップしようと思って手にしたのが『GFX50R』でした。
——そのステップアップの選択肢のひとつにフルサイズ機があっても不思議ではないのですが、そちらに関してはいかがですか?
使い慣れたメーカーということもありますし、UIやメニューの仕様がXシリーズとGFXシリーズで共通しているので操作面で自分にとってすんなり使えるというのは大きなポイントでした。あとはやはり、フルサイズよりセンサーサイズの大きなラージフォーマット機であること。購入前に試し撮りをさせてもらったのですが、肌のきめ細やかな描写や高感度耐性といったところがXシリーズと比べて明らかに優れていると感じました。最初は他メーカーのフルサイズ機も視野に入れていましたが、自分にとっての最高を求めるならコレだと思ってからは、GFXシリーズしか見ていなかったです。
——そして、現在使用されているのが『GFX50S II』。GFXシリーズ内での移行は、かなり思い切りが必要だったのではないかなと感じるのですが。
そうですね。ただ、ノスタルジックネガを使ってみたかったことと『GFX50R』のグリップがちょっと自分には合わないなあと感じていたこともあって、『GFX50S II』が発表されたタイミングで決断しました。手ブレ補正が搭載されているというのはかなり大きな進化ですし、どんな現場でも安心して使えそうだなと思って購入しました。
描写的という点では、中判カメラみたいなフィルムで撮られたものへの憧れもありますし、今SNSで発表している写真とは別にフィルムらしさが感じられるようなものも撮っていて。これから先、もし好みが変わったときも『GFX50S II』なら柔軟に自分のイメージを再現できるだろうなって思っているのもありますね。ダイナミックレンジが広くレタッチ耐性が高いGFXシリーズの写真だからこそ、自由に自分のイメージを再現できるというところもかなりあります。
——では、『X-T2』から『GFX50S II』まで使用されてきたなかで、GFXシリーズならではだと感じられる撮影シチュエーションや優れていると感じる点はありますか?
GFXシリーズは他と比べものにならないほど人物の肌の滑らかさが際立っていて。基本は風景ばかり撮っているんですけど。いずれ本格的にポートレートを撮る機会がきたらGFXシリーズなら自分が満足するクオリティで写せるだろうなっていうふうに思っています。また、ちょっと日が傾いてきた時間帯なんかの色再現に苦戦していたのですが、ノスタルジックネガを使えるようになってからは、自分の頭の中のイメージに近い画が撮って出しの状態で写し出されているので、かなり重宝していますね。『GFX50S II』は意外と機動性にも優れていて、レンズ一本とボディ一台を肩に担いで撮り歩くスタイルで色々なところに行っています。僕にとっては移動しながらの撮影も腰を据えた撮影にも柔軟に対応してくれるカメラですね。
——普段レンズは『GF55mmF1.7 R WR』と『GF35-70mmF4.5-5.6 WR』の2本を愛用していらっしゃるそうですが、それぞれの使い分けについても教えてください。
出番が多いのは、『GF55mmF1.7 R WR』。ほぼつけっぱなしです。Xシリーズでいうところの『XF 35mm F1.4』みたいなレンズで、人物も撮れるし絞れば目の前の風景も映せるし、見たままに忠実に写し出してくれるので基本的にはこれで撮りたいなと思って使っています。商品開発の動画で担当者の方も「常にカバンのなかに忍ばせておきたい」というようなことを仰っていましたが、まさにそんな感じ。自分のイメージをより伝えるためのツールとして一番信頼を置いていて、今後も使い込んでいきたいレンズです。『GF35-70mmF4.5-5.6 WR』に関しては、移動が多いときや広く撮りたい場面の撮影で使うようにしています。結構寄れるので店舗撮影などで使ったりもしますし、焦点距離的にもこのレンズが1本あれば、どんなシチュエーションでもチャンスを逃さずに撮れるかなと思います。
——さきほどノスタルジックネガについてのお話もありましたが、改めておくでさんは富士フイルムの色にどんな印象をお持ちですか? またその特徴がご自身の作品にどう生きていますか?
やっぱり富士フイルムの色といえば、青と緑の美しさですね。僕が撮る田舎の風景は、見渡せば青と緑っていう状況なんですけど、富士フィルムのカメラで撮るとそうした主体となる色がすごくきれいに再現されるんです。今、僕がSNSに投稿している写真に関しては、富士フイルムのあの青みがかった緑と、ちょっと懐かしい雰囲気の青色じゃないと理想の画にはなりません。夏の風景は、10時から14時くらいのとくにコントラストがきつい時間帯で撮ることが多いのですが、GFXシリーズで撮影する写真は明暗がパキッと分かれるのではなく、コントラストはしっかりついているけれど緩やかで目に痛くないまろやかな光を表現してくれる、そんな気がしています。
——おくでさんのSNSには、国内外から写真に対するコメントが寄せられていますね。カメラを通して見つけた身近な風景の魅力が世界中に広がっていくというのは、とてもロマンがあるなと感じます。おくでさん自身は、ご自分の作風をどう捉えていらっしゃいますか?
僕が撮る写真って、どちらかというと後ろ向きだと思うんです。前向きな写真ではないんですよね。だけど、昔って良かったよね、と懐かしんだりすることは悪くないんじゃないかなって。写真って見返すものだし、思い出を残しておくものだし、写真を見返して自分が楽しかった頃に思いを馳せることもあると思います。少し辛い時に、自分の生まれ育った身近な風景を見ると、子供の頃に感じていた感情や思いをふと思い出す事があって。言葉には言い表せないけどそれがとても切なくて、懐かしくて、心を揺さぶられます。誰にでもある郷愁の思いを写真に撮って残して、見てくれる人に伝わったら嬉しいですし、それが僕だけが感じるものではなく、日本のみならず世界の人の心を打つものであれば尚嬉しいです。
——今後、『GFX50S II』を使ってさらにチャレンジしてみたいことなどはありますか?
これから動画にも挑戦してみたいなと思っています。あとは、全国の田舎の風景を巡ってみたり、海外の懐かしい風景を追い求めてみたりかな。ずっと福井で写真を撮っていますけど、地元をアピールしたいという気持ちはそこまでないんです。たまに写真を見て「福井に行きたくなりました」って言ってくださる方もいて、すごくありがたいんですけど自分の写真で福井の良さを伝えられているか自信がなくて。ですが、今後そのような機会があれば、自分の写真で福井の良さを発信できればと思っています。また、これからは色々なところで撮ってみたいと思っているし、風景以外の撮影にもチャレンジしたいです。今のところ写真仲間がいないので、一緒に行ってくれる人がいたらきっともっと楽しめるだろうなって思います。大きな夢としては、いつか夏の風景を写真集にして出したいですね。いろいろなスタイルの写真にトライしつつ、これからもずっと夏の風景は撮り続けていきたいと思っています。
text by 野中ミサキ(NaNo.works)