【Xシリーズユーザーインタビュー】“富士フイルムが好きすぎるtsubaki”と『X-Pro3』 数ある富士フイルム製品の中の最愛機
Xで“富士フイルムが好きすぎるtsubaki”というユーザーネームで、日々熱烈な富士フイルム愛を発信し、富士フイルム製のカメラ・レンズだけでなく、ノベルティーや什器に至るまでコレクションしている今井田彩那さん(@Fujifilmdaisuki)。写真家としての活動にも熱心で、多くのXシリーズを使いわけながら日常を記録しています。富士フイルムにハマるきっかけとなった『X-Pro3』への深い愛情、富士フイルム好きを公言してから変わった写真との向き合い方などを伺いました。
Interview:tsubaki(今井田彩那)
フィルムカメラからのブランクを経て『X-T30』と出会う
——現在の写真・カメラに関する活動を教えてください。
表には出ないけれど、勝手に富士フイルムの営業をやっているような感じでしょうか(笑)。富士フイルムが好きなんだよ、ということをひたすら投稿するXアカウントを運営しています。もともと写真を撮ることは好きなんですが、作品展示などもしないですし、自分の写真を見てもらうということがなくて、自分の中で簡潔している遊びのようなものだったんですね。それが例えばバーなどで飲んでいて富士フイルムが好きという話しをすると、「なんで?」と聞かれるので、「これこれこういう理由でおもしろい会社だよ」と説明をするじゃないですか。あまりにもわたしがしつこく富士フイルム愛について話すので、みんなも富士フイルムのことを気にしてくれるようになり、東京ディズニーランドに行くと「富士フイルムのロゴがあったよ」と画像が送られてきたり、「Xシリーズのこれを買ったよ」とか報告がくるようになって。カメラの買い換えを検討しているXのフォロワーさんにアドバイスもしたりしています。
——推し活の対象が富士フイルムというようなイメージですね。
たしかにそんな感覚です。ただ、カメラとレンズをたくさん持っていて写真はあまり撮らないというようなツッコミは嫌なので、日頃から写真を撮れるようにカメラをぶら下げて歩いていて、ただそれも富士フイルムさんのXシリーズのコンセプトがそうだから、ということに準じています。いま富士フイルム歴5年ですが、ちょっとずつ写真家活動にも力を入れていきたいなと思っているのと、富士フイルムの私設博物館を作りたいという大きな目標もあります。
——写真歴は長いのですか?
学生時代は常に『写ルンです』を持っていました。その後、デジカメが主流となってからはカメラから離れていましたが、7〜8年くらい前にSNSやWebのコンテンツ作成の仕事をしていた関係でカメラでの撮影を再開したところ、写真上手だねと褒めてもらうことがあり、ちゃんとデジカメで撮影してみようかなって。どこのメーカーが自分に合っているかと探して富士フイルムに辿り着いたという感じです。
——探した結果がなぜ富士フイルムのカメラだったのでしょう。
やはりフィルムシミュレーションによるJPEG画質を大切にしているところですね。仕事ではリアルタイム投稿が必要な撮影が多く、レタッチをする時間もなければ連写をして間引く時間もなく……。それで、色味とフォルムが好きな富士フイルムにしようと。ちょうど迷っていたところ、『X-T30』が新発売されるということを聞いて、富士フイルムデビューをしたんです。
富士フイルム愛爆発へと繋がる『X-Pro3』との出会い
——『X-T30』に加えて『X-Pro3』も買い足しすることになった経緯は?
『X-T30』ではスナップを撮ることからスタートしました。デジカメの使い方がわからなかったので、家電量販店の富士フイルム担当の方や『FUJIFILM Imaging Plaza』の方などに教えていただいていくうちに、どんどん富士フイルムのことが好きになり、過去の富士フイルム製品を集めたりするようにもなっていったんです。そんな日々の中でわたしのスタイルだと背面液晶モニターって必要ないよなと思って撮影をしていたところ、背面液晶モニターを隠すことができる『X-Pro3』の発表があったんです。大興奮をして、実機を触ることなく予約をしました。写真はちょっと面倒くさいのが楽しい。『X-Pro3』ならではの“撮っている”という感覚は大好きです。
——『X-T30』とは使い心地はだいぶ異なると思います。どのような使い分けをしていったのでしょう。
『X-Pro3』には基本的に『XF50mmF1.0 R WR』を付けています。夜のスナップが多く、明るいレンズは不可欠なので『X-Pro3』と同様に、『XF50mmF1.0 R WR』が発表されたときも、実機を試すことなく購入しました。基本は『X-Pro3』ですが、わたしはレンズ交換をせずカメラを複数台持ち歩くタイプなので、『X-Pro3』に加えて『X-T30』に望遠レンズを付けて持ち出したりしています。
他にも、『X-T1』は物撮りや室内撮影、オールドレンズでのんびり撮影したいときに使います。友だちとご飯を食べるときは、テーブルウェアを撮ることが想像できるので『X100V』、『X-A7』もご飯の撮影用ですね。スマホの代わりです。実際に使ってみないとどのような用途に向くカメラかがわからないので、全シリーズ買ってみました。X-Tシリーズの中で『X-T1』にしたのは、富士フイルムのスタッフの方の多くが、当時はセンセーショナルでいまも大事にしている機種というようなお話しをされていて、みんなが好きだというレジェンド級の『X-T1』は持っておきたいと思ったからです。さすがに動体は厳しい時もありますが、スナップを撮るにはいまでも不都合は感じないですね。
——夜のスナップが多い理由とは?
単純に撮りたいものだからです。映えスポットに行って撮るという感覚はなくて、日常のどこにでもあるけれど、気付くとなくなってしまっているよねという光景を切り取ってストックしていく感覚が好きなんです。キレイな場所に出掛けて三脚を立てて撮るというようなことはわたしには向かないし、そもそも朝が苦手。深夜徘徊をしながら撮るほうが自分らしいと思っています。
——お気に入りのフィルムシミュレーションを教えてください。
『X-Pro3』と『XF50mmF1.0 R WR』の組み合わせのときは、ETERNAに設定し、ホワイトバランスを『電球』にすることが多いです。また、“タングステン”という名前で登録もしています。以前、写真家の内田ユキオさんのレビュー記事で「『電球』モードの青の美しさは、富士フイルムが優れたタングステンフィルムを作っていたことが活かされているように思う」と書いていたのを読んで、青=タングステンというイメージが強く残っています。『XF50mmF1.0 R WR』はボケが豊かでありながらシャープな写真が撮れますが、青味を強めにするとすごくマッチして、一時夢中になっていました。
日本はスナップに対して賛否両論あるじゃないですか。わたしもチェキプリンターを持ち歩き、人を写したらプリントをしてそれを見せて掲載許可を取っていたこともあるんです。でも、転送をしているうちに被写体の方がどこかに行ってしまうということもあったので、顔が写らない後ろ姿のように個人が特定できない撮り方をすることが圧倒的に多くなりました。それを知人に見てもらうと、後ろ姿だからこそストーリー性があるよねという感想ももらうことが度々あり、わたしはそういう写真を撮っているんだということに気付いていき、作風のひとつになっていきました。なんとなく夜の街って静けさや切なさがあって、そんな夜のイメージを表現するのに青味が強いというのは向くと感じますし、後ろ姿だと肌の色味を気にしなくてもいいというのも大きいですね。
“富士フイルムが好きすぎる”tsubakiの誕生
——Xでは“富士フイルムが好きすぎるtsubaki”という名前で、富士フイルムに関することを愛情たっぷりに発信しています。改めて、なぜ富士フイルムをそこまで好きになったのですか?
『X-Pro3』との出会いに加えて、公式サイトにある“50年のあゆみ”というものを読んだことが大きなきっかけです。富士フイルムは写真以外の事業にも力を入れていますが、順を追って調べていくと、全てフィルム分野でトップクラスを目指した研究・開発に基づいており、芯はブレていないと気付くんです。開発のために日本初のコンピュータの『FUJIC』を作ってしまうあたりも、やることのスケールが大きくて最高ですよね。
——Xアカウントは新規でスタートさせたのですか?
そうです。富士フイルム関連のイベントに行くたびに発信したいネタがたくさん見つかり、これなら新規でアカウントを作ってもやっていけるだろうなと確信したんです。そして「富士フイルムが好きすぎて富士フイルムになりたい」と、誰も見ていない状態でつぶやきはじめました。富士フイルムのカメラを紹介していき、いつか公式さんに気付いてもらえるようにやっていこう、と思ってアカウントを作ったら、開始直後に作ったフィルムを再現したマフラーがバズって、すぐに認識してもらうことができました(笑)。
——フィルムを再現したマフラーとはどのようなものですか?
フィルム部分はパトローネを中に入れることができる仕様、最初は『FUJICOLOR 100』を作りました。富士フイルムが好きすぎてマフラー作ったとつぶやいたら大きな反響をいただき、俺はこれがいいな、とかみんなからリクエストをもらい数も増えていきました。
——Xでの活動が話題になったことによって変わったことはありましたか?
いままでは写真を撮るというのは自分の中の記録で、たまに見返して楽しむものだったものが、作品をどう撮るのかということを考えたり、写真家を名乗るとして自分はどういう面が強みなのかと考えたりするようになりましたね。富士フイルムの大切にしてきたコンセプトの、記録を残す、手軽に撮るということ、つまり写真を撮ることが日常であるという考え方がわたしは好きで、ブレていても良い笑顔の瞬間を残すなど、映えを意識して撮ることが写真ではないよという点、記録も積み重なったら作品になるという点がより明確になったと思います。
世間一般の、ああ撮れ、こう撮れ、ということに一喜一憂せず、自分の写真との向き合い方を考えて撮っていくということが提唱できる写真家になれたらいいですね。これからはもっとAIが台頭してきて、人間はよりクリエイティブな作業を求められます。情操教育はもっとこれから大切になるはずで、そういう考え方を作るアイテムのひとつとして写真・カメラというものが位置づけられるということがあってもいいかなと思うんです。Xを通じて出会った人との交流から、このようなことを考えるようになったのは良いことだなって感じていますね。
——富士フイルムが作ってきた写真カルチャーも、そのような考え方の醸成に影響は及ぼしましたか?
どちらかといえば答え合わせです。わたしの中で写真は、フィルムでの撮影を楽しんでいたときの経験が活かされています。キレイには撮れていないけれど、これはあのときに撮ったものだよなって、紐付いた記憶を甦らせる作業も写真の醍醐味だなって。この考えも富士フイルムの写真哲学に近いなと感じていますし、最も富士フイルムが大切にしているプリントを大切にするということにも共感していて、最近は、L判にプリントした写真をランダムで20種類くらい用意していて、名刺交換で渡すようにしているんです。飲み屋で知り合った人にフォローしてねと渡すと、たまに見返しているよとか飾っているよとか言ってくれます。少なくとも、都内で30人はわたしの写真を飾ってくれている人がいると思うと、写真家としては幸せなことだなって思います。草の根的ですが、誰かが行動を起こすきっかけを作っていければうれしいですね。
——さて、夢は富士フイルムの私設博物館を作ることとおっしゃっていますが、実現性はいかがでしょう。
すでにカメラは数百台所有していて、事務所は完全にカメラ屋さんみたいになっています。中古カメラ店が閉店するというときに連絡をいいただいて富士フイルムのカメラを買わせていただいたり、什器をいただいたりとか。でも、どうせ博物館にするのなら、単純な博物館ではなくて、実際に使うことができる博物館にしたいんです。見て、借りることができるという感じ。カメラとして生まれてきたからには、カメラとして使ってあげたいじゃないですか。壊れたやつは展示すればよくて、使えるうちは使うという“経験”ができる博物館を目指します。
text by鈴木文彦