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Special 2023.11.14

写真家・内田ユキオのREALA ACEへの思い 〜前編:フィルムシミュレーションの秘密〜

GFX100 II』に搭載された、新フィルムシミュレーションのREALA ACE。目で見たままに近い忠実な色再現を目指し様々なシーンにおいて使いやすくしながらも、階調にメリハリを持たせることで立体的な表現が得られるフィルムシミュレーションとして注目を集めています。本記事では、X登場初期から同シリーズを使い続ける、X Photographerの内田ユキオさんに、フィルムシミュレーションの秘密を紐解いてもらうとともに、REALA ACEの特徴を作例と併せてご紹介していただきました。

Profile

内田ユキオ

X Photographer
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。
広告、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受けた。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿を行い、著書もあり。

HP:https://www.yuki187.com/
Instagram:@yukiouchida187

XシリーズにしろGFXシリーズにしろ富士フイルムのカメラは、フィルムシミュレーションをオフにすることができません。ということは、これを理解することが「色がいいから好き」と言われる秘密への近道。前置きが少し長くなりますが、ゆっくり読んでください。


 

フィルムシミュレーションとは結局のところ何か?

これについていろんな人と話してきて、言うことは人それぞれでした。写真との関わりの深さ、よく撮る被写体、フィルムを経験している人と、真剣に使ったことがない人との違いもあるでしょう。内側の人たち—つまりはメーカーの技術者と、それを使う側の写真家と、それぞれ立場の違いもあるようです。

だから例え話をして、わかり合いたいと思ってきました。いまの考えでは、フィルムシミュレーションはフォント(字体)に近いのではないかと。フォントを意識したことがない人でも、本やwebで誰かが選んだフォントを見ています。手書きだったら別ですがフォントをオフにはできません。地味だけれど読みやすいフォント、インパクトはあっても読みづらいフォント、滅多に使わないけれど持っていると重宝するフォント、流行のフォント……数え切れないくらいあります。

そのなかから、サイズによって、使う場所によって、伝えたいことによって、使い分けるのが一般的。フォントがひとつしかないと、強く言いたいとき、オシャレに見せたいとき、メリハリや変化をつけるのに苦労します。これってフィルムシミュレーションに似てますよね。

PROVIAが明朝体の定番だったとしましょう。長い文章も読みやすいし、内容に関わらず使えます。ちょっと太字のVelviaと細字で優しいASTIAがセットになっていました。カジュアルに使えるゴシック体として二つのPRO Neg.が加わり、英文フォントも必要だねってことでクラシッククロームが……というふうに増えていきます。

時代に合わせて微調整しつつ、どの時代のどの機種でも、名前が同じならトーンも同じに揃えてあります。進化はするけれど変化はしないというのは大変なことです。しかももっとすごいと思うのは、バラバラに見ると個性がはっきりあるのに、混ぜて使っても違和感がないところ。

X-T5』で19種類もあって、さらにカスタムして自分の好みに調整もできるので、日常で足りないと思うことはないでしょう。それでもぼくが求めていたものがあって、それが今回の『GFX100 II』で搭載されたREALA ACEでした。

富士フイルム、GFX100 IIのフィルムシミュレーションREALA ACEで撮影した花の写真

GFX100 II /GF55mmF1.7 R WR /F1.7 /1/70秒 /ISO80
フィルムシミュレーション:REALA ACE

 

各フィルムシミュレーションの特徴やおすすめのシーン

一般的なカラーモードは、彩度と諧調によって個性が決まります。けれどもフィルムシミュレーションは味のようなもので、深さと奥行きがあり、明るい部分と暗い部分で違いがあるなど、とても立体的。それを使いこなすには、まずそれぞれの個性を理解するところから始めましょう。

 

・ PROVIA/スタンダード

最大の特長は光や被写体を選ばない万能感。色の偏りがなく、美しいと感じた印象まで写真に残すため記憶色と呼ばれる。現在の (とくに日本国内の)美しさの基準を築いたと言っていい。

富士フイルム、X-T1。フィルムシミュレーションPROVIAで撮影したチューリップの写真

X-T1 /XF16mmF1.4 R WR LM /F1.4 /1/480秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:PROVIA

 

・ Velvia/ビビッド

色の鮮やかさから風景やネイチャーで愛用される。色に感動して美しいと思ったときのテンションの高まりまでも写真に残してくれる。 みんなが足を止めてスマートフォンを向けるほど美しい夕焼けだったけれど、この写真ほど美しく撮れていないはず。

富士フイルムX-T1。フィルムシミュレーションVelviaで撮影した夕焼けの写真

X-T1 /XF14mmF2.8 R /F8.0 /1/250秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:Velvia

▲色をアクセントにするためVelviaを選んでいる。なんでも鮮やかになるからVelviaというのではなく、シャドウが硬いことなど個性を理解して使いこなすのがおすすめ。

 

・ ASTIA/ソフト

快晴でのガーデンウェディングで撮るドレスのように、破綻しやすい条件に強く、軟らかい階調と質感の美しさが魅力。それを敢えて雨の日に使い、色が主張しすぎず、しっとりした空気感が伝わるよう意識して撮った。

富士フイルム、フィルムシミュレーションASTIAで撮影

X-T1 /XF56mmF1.2 R /F4.0 /1/1200秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:ASTIA

 

・ PRO Neg. Hi

ポジフィルムのようなクリアさではなく、ネガフィルム特有の軟らかさが優しさにつながるため、とくに人物との相性は抜群。この写真はこれだけの逆光でもレフを使っていない。シャドウに入っている肌でも美しく再現するマゼンタの加減は見事。

富士フイルム、フィルムシミュレーションPRO Neg. Hi

X-T1 /XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR /F2.8 /1/125秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:PRO Neg. Hi /モデル:野口菜菜

 

・ クラシッククローム

マゼンタ寄りの傾向があったそれまでのフィルムシミュレーションに、グリーン寄りのクールなトーンが加わったことで、新しい可能性を提示した。色の鮮やかさが抑えられ渋みを感じるほどだが、濁りや偏りがなく、海外の雑誌で見るインテリアのグラビアのよう。

X-Pro2 /XF35mmF1.4 R /F4.0 /1/1200秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:クラシッククローム

 

・ ACROS(+Ye/R/Gフィルター)

世界中の写真家から高い評価を受けていたものの、とにかく扱いづらいフィルムだったけれど、デジタル技術がそれを現代に甦らせた。フィルム”シミュレーション”とは何かを理解するために、ぜひ使ってみて欲しい。光と影で世界を見るトレーニングとしてもおすすめ。

X-Pro2 /XF60mmF2.4 R Macro /F8.0 /1/500秒 /ISO400
フィルムシミュレーション:ACROS

 

フィルムシミュレーションを最大限活用する『カスタム登録』

各フィルムシミュレーションを自分の好みに調整して登録しておける機能が『カスタム登録』。現在のXシリーズではそれ以外のカメラの設定も登録できます。撮影地によって、あるいはよく撮る被写体によって、これを調整して作り上げていくのは楽しいものです。世界中にファンがいて自分の設定を公開しています。

カスタム登録の使用例として。大阪の夜を散歩するとき、この街を外国みたいに撮れないだろうか、と考えて作ってみたトーンです。いったん登録すれば昼に撮るときボタンひとつで切り替えられます。クラシッククロームをベースにしてWBを低く、シャドウは硬く彩度を抑え、夜の寂しさと静けさを感じるほどの美しさを表現してみました。日中の雑多な感じとのコントラストがいいですね。

フィルムシミュレーション、クラシッククロームで撮影した、阪急梅田駅

X-T3 /XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS /F11.0 /1/2秒 /ISO200
フィルムシミュレーション:クラシッククローム

こういう何度か撮り直しができる状況で、フィルムシミュレーションを変えながら違いを見比べてみるのをレベルアップのためにおすすめします。RAW現像で後から選ぼうとすると、被写体との出会いや撮影の奇跡みたいなものから遠ざかってしまうからです。JPEG撮って出しの美しさはX/GFXシリーズの魅力のひとつです。

フィルムシミュレーション、PRO Neg.Stdで撮影したメリーゴーランドの写真

X-Pro1 /XF35mmF1.4 R /F2.0 /1/30秒 /ISO200
フィルムシミュレーション:PRO Neg.Std

後編は、ネガフィルムとしてのREALA ACEの歴史に触れながら、フィルムシミュレーションとして『GFX100 II』に搭載されたREALA ACEについて、内田ユキオさんに語っていただきます。

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