【Xシリーズユーザーインタビュー】フォトグラファー・山根悠太郎とXシリーズ 「富士フイルムで”自分の色“を追求できる」
2018年より東京祐氏に師事し、2021年4月に独立して以降、雑誌のポートレートやファッション写真を中心に活動する写真家の山根悠太郎(@yutaroyamane)さん。彼はアシスタント時代から『X-Pro2』のユーザーです。野外からスタジオまで、あらゆる現場で活用し、『X-Pro2』を“もはや自分の体の一部”と称する山根さん。『X-Pro2』をどのように使いこなしているのでしょうか。カメラとの出会いから現在の活用方法まで、お話を伺いました。
Interview:山根悠太郎
ミラーレスカメラながら“アナログ感”を感じさせる写真
――山根さんが写真を撮るようになったのはいつからですか?
きっかけは高校2年生の時でした。写真に詳しい先輩からデジタルカメラの使い方を教えてもらいながら、生徒会執行部として学園祭の活動風景を撮っていたんです。そこから写真に興味をもちポートレートや風景写真を撮るようになったのは大学進学後。その間にも父からカメラを譲り受けたり、自分のお金で一眼レフカメラを買ったりはしていました。当時購入した一眼レフは今でも現場で使っています。
――では『X-Pro2』を持つようになったのはいつからでしょうか?
大学を辞め、写真家の東京祐さんのもとでアシスタント修行をしている時期です。友人から譲ってもらいました。当時からカメラ屋さんで試し撮りをしていて『X-Pro2』にはずっと惹かれていたんですよね。ミラーレスなのにアナログの要素が操作性に残っていて、“撮っている感”があるんです。撮っている自分が好きになれるし、一つ一つの動作を丁寧に選択し、真剣に写真を撮るモチベーションでいられます。
また、ピントが外れてしまっても予想外の良い絵が撮れるところも、いい意味で“デジタル感のなさ”があります。また、コンパクトながら、手に馴染むずっしりとした重みがある点も好きです。
――現在は最初に購入された一眼レフカメラと併用されているようですが、どういった使いわけをされているんですか?
基本的に『X-Pro2』は取材も兼ねたポートレート撮影をする時に使うことが多いです。コンパクトだし、カメラのブランドロゴがモデルから見えない位置、ボディの天面にあるんですよ。カメラとしての威圧感がなく、シャッター音も小さい。限られた時間の中での慌ただしい撮影でも、自然と被写体との距離を詰めやすいです。
プライベートで写真を撮る時も扱いやすくて。公園や道端で大きなカメラを構えていると、いかにも“撮っている感”があって周りも警戒しちゃうじゃないですか(笑)。存在感を消せるカメラとして重宝しています。逆に一眼レフは、フォトグラファーである自分の存在を被写体に意識してもらいたい時に使います。ファッションの現場など、ちょっとした緊張感を求める時に活用しますね。
フィルムとデジタルの境界線を曖昧にしていく
――山根さんのお気に入りのフィルムシミュレーションは何ですか?
一番好きなフィルムシミュレーションはASTIA。最初はクラシッククロームの、マゼンタの色味が好きでよく使っていたんです。でも他のフィルムシミュレーションも試すなかでASTIAに落ち着きました。
――どういったところが気に入ったのでしょう?
『X-Pro2』ではPCに繋げてテザーで撮影しないこともあって、常に完成形を頭に浮かべながら撮るようにしています。その点、ASTIAは画作りの想像がしやすくて、主にポートレートの現場で使っています。撮った写真は後から調整することが多いのですが、他のデジタルカメラで撮影したデータはRAWデータだと色の濃度がそこまで高いと感じることがあまりなくて、現像の段階で後から“足し算”をすることが多いんです。『X-Pro2』の写真はJPEG撮って出しだとむしろ色の濃度が強すぎると感じることもあるくらいで、そのときはレタッチで後から“引き算”しています。かと思えば、色が飽和しているようなところもあったりして、そのムラもどこかフィルムを彷彿とさせるというか。調整次第で赤がちょっと滲むようなニュアンスになったり、逆にグリーンが強く出たり。いい癖が出ていると感じます。
――お話を伺っていて、操作性だけではなく写真の出来栄えにも“フィルムらしさ”を感じさせるところが魅力なのかな、と思いました。
厳密には、フィルムとデジタルの境界が分からないような仕上がりを目指せるところが魅力、というニュアンスが近いかもしれません。実はフィルムで撮った時も“撮って出し”はしないんです。フィルム・デジタルに問わず、肌の色は実物に近づけながらも、どこか抽象的な印象になるよう意識していますね。フィルムシミュレーションはベースがある程度作ってあるからこそ、最終的に自分の思うフィルムらしいトーンに近づけやすいところが魅力に感じています。
――ちなみに他のフィルムシミュレーションを使うことはありますか?
プライベートではACROSも使っています。普段仕事でカラーを撮るせいか、自然とプライベートではモノクロを選択することが多くて。色の要素がないから画作りがしやすく、感覚で撮れる感じが気に入っていますね。しかもACROSのモノクロ、めちゃくちゃ綺麗なんですよ。ハイライトが落ち着いていて、コントラストはありつつもグラデーションの階調がすごく自然。白飛びしすぎず、かといって黒潰れもしすぎないんです。また、モノクロを使う時はレッドフィルターやイエローフィルターに切り替えることがありますね。画の中の明るくなる部分が変化するのが面白い。撮って出しをみつつ「こっちのがいいかも」と普段からよく実験してます。
――では、実験を重ねた先で他のフィルムシミュレーションに乗り換える可能性も?
無きにしも非ずです(笑)。1年ごとに自分の好きなニュアンスが変わることもあるんですよ。突然自分の写真の色に飽きることもあるので、今後マイナーチェンジをしていきながら、他のフィルムシミュレーションが馴染んでいく可能性はあります。今、実はPRO Neg.Stdも気になっているんですよ。コントラストが低いから、逆光だったり顔に影がかかったりしていても、良い写真になりそう。暗い場所では多少の輪郭を残しつつ、良いトーンで仕上がるんじゃないかな、と想像しています。
用途に合わせ「自分の色」を模索できるカメラ
――現在、山根さんはどういったレンズを使用していらっしゃいますか?
最初は27mmのパンケーキレンズ(『XF27mmF2.8』)を使っていたのですが、今は基本的には『XF35mmF1.4 R』をメインで使用しています。パンケーキレンズの方がオートフォーカスも早くてスナップシューティングに適しているのですが、ポートレートで併用して使っているフルサイズ一眼の換算に合わせて、35mmにたどり着きました。正直『XF35mmF1.4 R』は『XF35mmF2 R』に比べてオートフォーカスの面では劣るので、人によって好みは分かれると思います。ただ、僕個人はそこも含めて好きなんですよね。自分が想像していないところにたどり着ける面白さがあります。ちなみに、最近はあえて自分から“撮りにくいカスタマイズ”を選ぶようにもなりました。
――どういったカスタマイズをしているのか、気になります。
マウントアダプターを使って、他のメーカーが出しているマニュアルフォーカスのレンズを組み合わせたりしています。純正ではないですし、オートフォーカスはできないから自分で絞りを調整しなければいけないし、露出もわかりにくいのでちょっと撮りにくいです(笑)。でも、なぜかフィルムシミュレーションとの相性が良いんですよね。より輪郭が柔らかくなり、画が一層アナログチックになって面白いです。使い方の拡張性が高いからこそ「色々試してみよう」というモチベーションになっています。
――フィルムシミュレーションも然り、試行錯誤しながら使われているんですね。
一眼レフからミラーレスに移り変わったことで、画作りが簡単に想像できるので、今まで以上に誰でもかんたんに綺麗に撮れるような時代になりました。自分が仕事で写真を撮る意味を考えた時、撮る技術も大事だなと思っています。そこをあえてやりにくくすることで、自分らしい写真を見いだせるのでは、と考えています。
特に『X-Pro2』はレンジファインダースタイルで綺麗な画をクイックにも撮れるし、電子ファインダーで丁寧にフォーカスを合わせながら撮ることもできます。様々な撮影スタイルにピッタリはまってくれるカメラとして、並ぶものはないと思っています。人の数だけそれぞれの使い方があって。だからこそ試行錯誤のしがいがあり、その中で“自分の色”を極めていけるところに魅力を感じます。
――Xユーザーが“自分の色”を模索する際は、どういった使い方をオススメしたいですか?
有名なイタリアンシェフが自身のYouTubeで「イタリアンはムラが美学だ」って言っていたんですよね。個人的に、富士フイルムの製品も同様に「ムラが美学」と感じる瞬間は多々あります。偶然が重なって自分の好きな“ムラ”にたどり着くために、あえてフィルム的(アナログ)な撮り方をするのも良いかもしれません。
例えば、僕はあえて1日中ずっとISO感度400固定で撮ったり、シャッタースピードを落として撮り続けてみたりすることがあります。数年前はISO感度を3200まで上げて、ザラザラしたモノクロを撮ったりしていたこともありました(笑)。“うまい写真”を撮るよりも“下手でも良い写真”の方が僕は好きです。そこを忘れないで撮り続けていると、ピントが浅くても被写体との距離が伝わったりと、撮る人の心情が出るような使い方ができるのではと思います。
text by 高木 望