【X-T30シリーズ比較レビュー】『X-T30 III』は『X-T30』『X-T30 II』からどう進化したのか?
2015年に『X-T1』のエントリー版『X-T10』が登場して以来、富士フイルムのX-T2桁シリーズは、小型軽量で性能バランスに優れ、手に取りやすい価格帯で多くのユーザーから支持を集めてきました。そして2025年、同シリーズの最新機種『X-T30 III』が発売開始。『X-T30』『X-T30 II』の後継機種である『X-T30 III』は、これまでとどう変わったのか? 初代『X-T10』からX-T2桁シリーズに慣れ親しまれているフォトグラファーの矢野拓実さん(@takumiyano_)に、『X-T30 III』の魅力について、過去機種との比較も交えながらレビューしていただきました。
はじめての富士フイルムカメラを購入して、早くも10年目がくる。最初の一台で選んだのは、『X-T10』。
このカメラと共に世界を旅して、忘れられないあの瞬間、という写真が残っている。超えられない写真、と言ってもいい。
前述のとおり、『X-T10』は富士フイルムとして、そしてミラーレス機として最初に手に取ったカメラだ。その金額ははじめて選ぶのにはちょうどよく、また、当時から人気を博する『XF35mm F1.4 R』と共に使いはじめたことで、一層カメラの世界にのめり込み、こうして仕事としてのキャリアを歩かせてもらっている。
そんな中、X-T2桁シリーズは『X-T30』に進化していき、あのカメラを持った時の高揚感がたまらなかったのを覚えている。
Xシリーズのひとつの完成形といってもいい、『X-T3』。その弟分として登場した『X-T30』は明らかに、予備機として忍ばせて持ち運びしやすい。小型でクラシカル、そして『X-T3』のスタンスを受け継いだ機能バランスで、長く支持を集めた。
その『X-T30』は『X-T30 II』に進化し、そして2025年11月に3世代目『X-T30 III』へと進化した。いずれも見た目は大きく変わらない。
何よりも大きく変わったのは、画像処理エンジンである。『X-Processor4』から最新の『X-Processor-5』に進化したことにより、AFの追従速度が上がった。この小さなボディで動く被写体をより撮影しやすくなったと言っていいと思う。また、フィルムシミュレーションもREALA ACE、ノスタルジックネガが増えて、より充実。そして『美肌レベル』調整機能も追加された。これらの機能追加により、一層JPEGでの撮って出しの撮影が楽しめるようになった。
今回、長年にわたって人気を博する『XF35mmF1.4R』、そしてお手頃だけどとても使い勝手のいい『XF23mmF2 R WR』と共に、その進化と可能性を探っていく。
また、私は普段はCaptureOneでのRAW現像を行っているが、すでにお話した機能のアップデートを検証するために、今回はいわゆる“撮って出し”、カメラで撮ったままの作例を紹介する。フィルムシミュレーションやFS(フィルムシミュレーション)レシピを設定するだけでも、気軽に好みの色味で写真を撮れることを皆様にお伝えできれば幸いである。
『X-T30 II』から『X-T30 III』への進化
ディープラーニング技術を用いた『被写体検出』機能
AFの速さを比較するにあたって、2012年発売のレンズ『XF35mmF1.4R』で試してみる。『X-T30 II』と撮り比べると、AFスピードの進化に驚いた。被写体の動きを検出してピントを合わせる速さが、『X-T30 III』の方が明らかに優れている。
今回作例は紹介できないが、走り回る子供もしっかり追い、ピントを合わせた写真を撮影することができた。高精度の『顔検出/瞳AF』機能に加えて、『被写体検出』機能には動物や電車など様々な種類があり、お子さんやペットのいる方にもおすすめだと思う。
ポートレート撮影で活躍する『美肌レベル』調整機能
『X-T30 III』には、強 / 中 / 弱 / OFFの4段階から『美肌レベル』を調整できる機能が搭載されている。モデルの肌をさらにナチュラルに滑らかに写してくれるので、レタッチやアプリなしでも満足いく仕上がりに。
好みの設定を瞬時に選べる『フィルムシミュレーションダイヤル』と『FSレシピ』
『X-T30 III』の天面のダイヤルには、『フィルムシミュレーションダイヤル』が採用された。このダイヤルには、人気のフィルムシミュレーションに加えて、自分のお気に入りのフィルムシミュレーションや『FS(フィルムシミュレーション)レシピ』をカスタムポジションに登録することができる。
『FSレシピ』では、選択したフィルムシミュレーションをベースに、自分好みの細やかな画質設定をプリセットとして登録することが可能だ。フィルム写真のような粒子を写真に載せる『グレインエフェクト』を加えたり、ハイライトとシャドウを調節して“S字カーブ”にしたり、彩度やシャープネス、明瞭度などを調整し、オリジナルレシピとして保存することができる。
『FS1』『FS2』『FS3』のダイヤルに作成したレシピを割り当てておけば、その時に表現したいお気に入りの色で、特別なソフトなしにカメラ内で写真を完成させることができる。
ここからは『FSレシピ』を設定して撮影した写真を紹介する。
写真の楽しみ方がさらに広がる『instaxダイレクトプリント』
『X-T30 III』は、スマホプリンター『instax™ Link』シリーズにBluetooth®で接続してカメラから直接プリントすることができる。そのため、画像サイズのメニュー内に『instax mini』や『instax SQUARE』など、各チェキプリントのフィルムサイズに適応する設定項目が追加されている。面白いと感じたのが、アスペクト比を『instax mini』の設定にすることで『X half』と同じように、カメラを横向きに構えながら縦位置の画角でJPEG撮影ができることだ。
『instax™ Link』シリーズを通してチェキプリントすることで、様々な場面で活躍するのだろうと思う。パーティやイベントなどで『X-T30 III』で撮影した写真を、その時の楽しさや熱が残るうちにチェキという形で残したり、アルバムに入れて記憶の物質化を楽しむこともできる。
写真表現の可能性を広げる『内蔵フラッシュ』
『X-T10』から内蔵フラッシュは搭載されていたが、『X-T10』や『X-T30』を持っていた時の私は全然使っていなかった。あれからしばらく経ち、仕事を通してライティングを学ぶと、内蔵フラッシュの付いているカメラの利便性に気づく。
そして『X-T30 III』の場合、コンパクトで軽いボディに搭載されていることがポイントである。レンズ交換式でボケ表現や画角を使用するレンズによって変えられるカメラに内蔵フラッシュが搭載されているのは、こんなにも写真表現の可能性を広げるものなのかと改めて感じた。内蔵フラッシュは暗い所で活躍するものという印象が強いと思うが、明るいシーンでも、画質設定自体を暗めにして被写体にフラッシュを当てることでモードな写真を撮ることができる。
『X-T30 III』と、『X half』『X-M5』との違い
『X-T30 III』はずばり、コスパ良く写真を楽しみたいという方におすすめの一台である。ここで比較されるのが『X half』と『X-M5』だろう。
もちろん『X half』でも写真は楽しい。でも、『X-T30 III』を選択すれば、レンズを交換して様々な表現に挑戦することや、JPEG撮って出しだけではなくRAWデータに後から編集を加えて写真を仕上げることも可能となる。
『X-M5』と『X-T30 III』は同価格帯のカメラだが、それぞれに特長が異なる。例えば『X-T30 III』にはファインダーが付いており、スチール撮影時により写真を撮る没入感に浸ることができる。『X-M5』は背面液晶がバリアングル式で、自撮りでのVlogなど動画撮影時により強みを発揮する。
『X-T30 III』はセンターファインダーやチルト式のモニター、フィルムシミュレーションとFSレシピによる色表現の選択肢の幅の広さ、約2610万画素というプリント表現にも耐えうる充分な解像性能を備え、写真を撮る楽しさを存分に味わうことができるモデルと言えるだろう。これから本格的に写真をはじめたいと思っている皆さまに、ぜひXシリーズの入口として手に取ってみてほしい。
今回登場したカメラ
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