【Xシリーズレビュー】フォトグラファー・𠮷井脩人『X-T30Ⅲ』は、プロの期待に応える最小にして最良の相棒
静謐な物撮り写真から情緒溢れるスナップまで、幅広い分野で活躍するフォトグラファーの𠮷井脩人さん(@naotokirimare)。仕事用に『GFX100S II』『GFX50S II』、日常の記録には『X100VI』と富士フイルムのカメラを使い分ける𠮷井さんに、Xシリーズ最新機種『X-T30 III』をご使用いただきました。𠮷井さん独自の“カメラを持ち歩く行動コスト”という視点から軽量・コンパクトな一台がどのようにシャッターチャンスを広げてくれるのかを紐解くとともに、GFXシリーズとの比較で見えた驚きの描写力まで、プロフェッショナルの期待に応える『X-T30 III』の魅力を深掘りします。
Interview:𠮷井脩人
撮影テンポを加速させる直感的な操作系
物理ダイヤルと内蔵フラッシュの優位性とは
——𠮷井さんは普段、ラージフォーマット機の『GFX100S II』『GFX50S II』やコンパクトデジタルカメラ『X100VI』を愛用されているそうですね。そうした視点も踏まえ、今回『X-T30 III』を手にされた率直な感想を聞かせてください。
これはみなさんおっしゃると思うんですけど、第一に小ささと軽さに驚きました。もともと『X100VI』とほとんど変わらないくらいかなと想像していたのですが、実際はひと回りほど小さく感じて。デザイン面に関しても、ボディサイドがまっすぐ立ち上がったフォルムがいいですね。このスクエアな造形がクラシックな感じを引き立てていて、プロダクトとしてすごくきれいだなと思いました。
——ボタン配置など操作系についてはいかがでしょう? 撮影時に利点だと感じられるポイントはありますか?
まず、物理的なスイッチやレバーがしっかり備わっている点ですね。とくに、フォーカスモードの切替えレバーがあるのは便利でした。スナップを撮っている最中に「次は人物を撮ろう」となった際、メニューに入らずに外部の操作系からすぐに切り替えられる。この仕様は、撮影のテンポを削がないので非常に使い勝手がいいなと思いました。
もうひとつ、個人的に「これはすごくメリットだな」と思ったのが内臓フラッシュですね。『X-T30 III』の内臓フラッシュは、収納時は存在がわからないほどスマートなのに、ワンタッチで立ち上がる。しかもポップアップしたときに高さが出るので、『XF33mmF1.4 R LM WR』のような少し長さのあるレンズでも影が落ちることなく照射できるんです。実際に母の誕生日に室内で記念写真を撮った際に、少し暗かったので内臓フラッシュを焚いたのですが、直感的にレバーを引けばパッと出せてしっかり撮れるので助かりました。ライトユーザーはもちろん、普段からさまざまなカメラを扱っている人にとっても、いざというときに重宝する機能だと思います。
GFXシリーズと比較して見えた、
APS-Cセンサー機の底力と納得の描写力
——AF性能など、撮影パフォーマンスの面での進化はどう感じられましたか?
顔認識の精度などは『X100VI』や『GFX100S II』『GFX50S II』と比べても全然違和感なく、スピード・精度ともにしっかり出ているように感じました。被写体検出機能もあるので、動物や乗り物など、撮る対象が決まっている人には特に便利な機能だと思います。
——普段『GFX100S II』『GFX50S II』はお仕事用、『X100VI』は日常のスナップにと使い分けていらっしゃるそうですね。今回は作例として、同じセットでひとつの被写体を『GFX100S II』と撮り比べていただいたとか。
給油ポンプをライティングを組んだ同じ環境で撮ってみたのですが、拡大していかないとほぼわからないくらい、遜色ない描写でした。もちろん画素数などの違いはありますが、引きで見たときの画の力、納得のいくものが撮れるという点では、すごく説得力があるなと思いました。
——物撮りにおいて、APS-Cセンサー機ならではのメリットを感じる部分はありましたか?
ラージフォーマットと比べると同被写界深度を得るときに明るさのアドバンテージを感じました。GFXシリーズのようなラージフォーマットでAPS-Cフォーマットと同じ被写界深度を得ようとすると、APS-Cフォーマットより絞り込む必要があって、そのぶん暗くなってしまいます。暗くなった分をISO感度やライティング機材の出力で補う必要がでてきますが、APS-Cであればそこまで絞らなくても必要な被写界深度を確保できるのはいいなと思いました。
撮影を目的としないからこそ撮れる画
“行動コストの低さ”という性能
——プロの現場でパフォーマンスを発揮したというエピソードはインパクトがありますね。使用感としては、ボデイサイズ的に『X100VI』に近かったのではないでしょうか?
そうですね。僕は、カメラを持ち出す際の“行動コスト”をよく考えるんです。やっぱりカメラを外に持ち出すのって、心理的にも物理的に負荷がかかるじゃないですか。大きなカメラだと、バッグに入れていても「取り出すのが面倒だな」と思って写真を撮らない場面が増えてしまう。でも『X-T30 III』くらい小さくて軽いと、持ち出すのも容易だし、取り出すのが億劫にならないんです。
今回、港町へ行く途中で鳥の群れを見つけたのですが、白い鳥が黒い鳥たちを率いているのがすごくいいなと思ってサッと取り出して撮りました。
この排水管から葉っぱが伸びている写真も気軽に「撮ろうかな」と思えたからこそ残せた一枚です。お散歩のついでにカバンに入れておける、ご飯を食べに行くだけのときにも持っていこうと思える。この「本来の目的と撮影が逆転しない」ということが結果として素晴らしい瞬間を撮り逃さないことにつながるんだと思います。
——この作品以外にも、今回はスナップを多数撮ってくださいました。屋外撮影での『X-T30 III』の機動力はいかがでしたか?
この薄曇りの港町は自分でも気に入っている1枚です。今回、山を越えるときにかなり雨に降られたのですが、おかげで冬の日本海らしい寒々しさが伝わる写真になったと思います。
防塵防滴がないので雨には気をつけないといけないのですが、カメラが小さい分バッグも小さくできて突然の雨でもすぐにレインカバーをかけることができました。
僕は普段、『X100Ⅵ』とバッテリーを入れたポーチを腰からぶら下げて出かけることが多いのですが、『X-T30 III』とキットレンズとのセットなら、その運用もできてしまう。レンズ交換式でありながら、コンデジのような軽快さで持ち歩ける。これこそが『X-T30 III』最大の魅力だと思います。
「このレンズのためにセットを選んでもいい」
“付属”の概念を覆す新型キットレンズ
——今回、主に風景撮影などでご使用いただいた『X-T30 III』のキットレンズ『XC13-33mmF3.5-6.3 OIS』には、かなり好感をお持ちとのこと。どんな部分に魅力を感じたのでしょう?
このレンズは本当に素晴らしいですね。正直“キットレンズ”ってコストやサイズ面から描写力が犠牲になっているイメージがあったんですけど、『XC13-33mmF3.5-6.3 OIS』に関しては「これさえあればいいんじゃないか」と思えるくらい満足しました。周辺の解像感も問題なくオールラウンドにこなせますし、スナップや風景撮影では、この焦点距離の幅が本当に便利。とくに気に入ったのが“薄さ”です。カメラ本体が小さくてもレンズが分厚いと携帯性が削がれますが、このレンズは装着しても『X100VI』と並べても気にならないほどコンパクト。それでいて換算約20mmから約50mm相当までカバーしているのが心強いです。
——最後に、改めてこのカメラはどんな人におすすめしたいですか?
まずはこれからカメラを始めるエントリーユーザーの方ですね。富士フイルムのカメラに興味を持つ理由として、フィルムシミュレーションを楽しみたいという人が多いと思うので、それがダイヤルで感覚的に変えられるのは、撮影を楽しくするポイントだと感じています。一方で、僕のように他機種を使っているユーザーにとっても、素晴らしいサブ機になると思います。この軽快さがあれば、難しいこと抜きに日常を切り取れるのかな、そんな印象を受けました。
——“撮る”という行為が、より生活に溶け込んでいくような感覚を楽しめるカメラ、という位置付けでしょうか。
そうですね。ワンタッチでオートモードに切り替えられるレバーもあるので、難しい設定抜きに“いい色で撮る楽しさ”を味わえるはずです。家族に預けて撮ってもらうにしても、イチから説明せずにレバーひとつでオートモードにして渡せる安心感があります。このカメラと新しいキットレンズをバッグに放り込んで、毎日持ち歩く。そうすれば自然と撮る枚数は増えますし、写真と向き合う時間も増やしてくれる一台になるんじゃないかなと思います。
text by 野中ミサキ/NaNo.works
今回登場したカメラ
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