【Xシリーズ ユーザーインタビュー】フォトグラファー・シトウレイが語る“自分らしい”ストリートスナップとカメラの関係性。
日本が誇るストリートスナップのパイオニアであり、独自の視点で捉えた世界のファッションを発信するメディア『STYLE from TOKYO』 を主宰する、ストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト・シトウレイさん。ファッションメディアに登場する機会も多いシトウさんですが、今回はフォトグラファー的視点でストリートスナップの流儀、ご自身が考える写真の本質を、愛用する「X-T2」の魅力とともに語っていただきました。
INTERVIEW:シトウレイ
「東京は緊張感のある街でもあります」
――撮影の舞台は、世界中のストリート。なかでも東京は、ファッションに限らずトレンドがすごい速さで移り変わる場所ですが、シトウさんの目にはどう映っていますか?
あまり観過ぎていると、変化に気づきにくいことがあります。いつも会っている友だちが髪の毛を切っても、気づかないことってあるじゃないですか(笑)。5、6年前の自分の撮った写真を俯瞰で見たときに「ああ、結構変わったな」なんて思ったりはしますね。ただ、東京ってほかの都市に比べて新陳代謝の高い街だから、海外で撮影して帰ってくると、この街に馴染むまでに時間がかかっちゃったりするんです。そういう意味では、すごく緊張感のある街でもあるのかなって。
――「緊張感のある街」という言葉からは、同時にこの街をすごく大切に思う気持ちも伝わってきます。シトウさんが声を掛けたくなる人のファッションには、どういった共通点がありますか?
全体のシルエットとかサイズ感とか――。あとは、色の合わせ方。形やシルエットはだんだんスキルアップ出来るものだけど、色彩感覚だけは天賦のものというか、結構本質的なものなんじゃないかなって。この前、17歳の男の子を撮らせてもらったんです。まだ少し垢抜けていないし、おしゃれにはもう2、3段階レベルアップしないといけないけど、藤色っぽい紫とオリーブ色を合わせているのが素敵だなって。写真を見て「新鮮!」って感じたんです。私の感覚だとその組み合わせはないし。彼ならではの色彩感覚が面白くて。彼の場合は、可能性を感じてこれからの期待を込めて撮らせてもらいました。本人もすごくうれしそうにしてくれてて(それは私にとってもすごい喜びなんです)撮られることで目覚めて、次に会うとすごくファッションがスキルアップしている子は結構いるんですよ。
「ファインダーは覗かず、相手と目線を合わせて撮影しています」
――ファッションはもちろん、その人らしさが滲み出る表情や街を歩く姿を想像させるような臨場感もシトウさんの写真の大きな魅力ではないでしょうか。撮影する際に意識していることはありますか?
そういってもらってありがとうございます、嬉しい!私、写真を撮るときはファインダーを覗かずに液晶で確認しながら撮るんです。そうすると相手と目線を合わせて会話をしながら撮れるから、自然な表情が引き出しやすいのかなって。ファインダーを覗いてるほうが(撮ってる姿としては)カッコいいんですけど(笑)、撮影がひとまず終わって「ありがとうございました!」って言いながら撮った瞬間の写真が良かったりもするし。私は、おしゃれな写真じゃなくておしゃれな人が撮りたいので、ボケ感とか雰囲気のある仕上がりは求めているわけではなくて。撮らせてもらう相手が一般の方なので、お互いの緊張みたいなのが写真に出なければいいなって思ってます。
――愛用されていらっしゃる「X-T2」は、コンパクトで軽量なので、屋外での撮影にもぴったりの一台。こういった仕様やカメラのパフォーマンスも、「らしさ」のある写真にひと役買っているのかなと。
それはありますね。パリコレのときなんて朝から晩まで撮るので、重いものを持っていると最後のほうは体力がなくなったりして撮れなくなったりもするんです。けど、カメラが軽ければ持久力が持ちますよね。基本的にストリートスナップのカメラマンって9割が男性で、大きな一眼レフでバズーカみたいな望遠レンズをどーん!と持っている感じなんですけど、私にとっては自分のベストを尽くすためにも「X-T2」くらい軽量なカメラがちょうどいいかなって。
写真の全体の雰囲気って、被写体ではなくて撮っている自分のテンションが写り込むものだと思っていて。疲れていたり気持ちが乗らないときにどんなにおしゃれな人を撮らせてもらっても、なんだか空疎なものに見えちゃったり。だから、体力やテンションをキープしながら撮るのって大事だなって思います。カメラマンの個性って、自分の性格とイコールだと思うんです。世界のストリートスナップのカメラマンっていっぱいいるんですけど、やっぱり性格と写真ってすごく似ているなって思います。
「見たまま、そのままを撮れるところが、私の性格と合ってるかなって」
――客観的に見て、ご自身の写真にはどういう性格が表れていると感じますか?
見たまま、そのままを撮るって感じだから、作り込んでもいないし「すごいカッコいい写真!」っていうわけでもないなって思っているんです。良くも悪くも浅いというか、素直にそのまま撮るっていう感じなのかな。……ヤダ自分のこと素直って言っちゃった(笑)。アートっぽく頑張ろうっていう気はなくて、ジャーナリストとしてドキュメントを撮っているつもりなんです。そういうのもあって、「X-T2」とは相性がいいのかなって思ってます。カメラもメーカーによってそれぞれに特徴があるんですよね。バキバキでシャープな感じに撮れるものもあるんですけど、フジフイルムのカメラは見たままの色味で撮れるから、そういう意味でも私の性格と個性には合っていたのかなって。
――「素直」という言葉がすごくストンと降りてきました。そんなストレートな写真には、「自分らしさを肯定しよう」と思わせてくれるパワーが宿っているように感じます。最後に、シトウさんにとってカメラとはなんでしょう?
仕事道具でもありコミュニケーションツール。だって、カメラを持たずに声を掛けていたら、単なるナンパの人ですからね(笑)。そして、私をいろんな世界に導いてくれたもの。飽きっぽい性格なのでいろんなことにチャレンジしたくって、ありがたいことにいろいろやらせていただく機会はあるんですけど、それで手いっぱいになっちゃうのは本質的じゃないなって思ったりもするんです。一時期すごく忙しくて、東京のスナップから遠ざかっていた時期があったんですけど、そのときにやり残したような、忘れものをしたような感覚があって。それでもう一度カメラを持って街に出るようになったら、「これこれ」っていう。私にとっては、戻れる場所でもあるのかなって思います。
Information
text by 野中ミサキ(NaNo.works)
photo by 高見知香