【テーブルフォトテクニック vol.5】和菓子フォトグラファー・松波佐知子さんに学ぶ、自宅で和菓子を撮るコツ
おしゃれで素敵なテーブルフォトの撮り方のコツを、気になるあの人に聞く連載企画『テーブルフォトテクニック』。第五回目は和菓子フォトグラファー・松波佐知子さん(@wagashi_moments)に、自宅でも簡単にできる和菓子を美しく撮るコツを教えていただきました。
Vol.5 松波佐知子
主に自作の和菓子を撮っております、松波佐知子と申します。
写真は高校生の頃から父のハーフカメラや使い捨てのフィルムカメラで時々撮っていましたが、2012年に一眼レフを購入してからは写真仲間と街撮りをしながらテクニックを身につけました。
その後、アメリカで学んだ、物事の本質を見ることに集中してカメラで写しとる撮影法とマインドフルネスをベースにしたワークショップを始め、さらに料理やステージの撮影のお仕事を頂くようになりました。2017年から和菓子を学ぶ傍ら写真を撮るようになり、2020年から茶室で和菓子を撮影する『写菓の会』と、和菓子づくりとミニ撮影レッスンの『創菓の会』を開催しています。
和菓子のテーブルフォト撮影のポイント
普段から、季節の花や自然、日々の中で得たひらめきなどをモチーフにした和菓子を作り、写真を通じてさらに表現を深めることに面白さを感じています。
ポイント① 和菓子が一番魅力的に見える撮り方を探す
一口に和菓子と言っても、大きく分けて生菓子、半生菓子、干菓子があり、さらに製法や材料、用途によって細かく分類されています。例えば、繊細な細工を加えた練り切りなどの生菓子、寒天を使った流し菓子、落雁(らくがん)や飴細工といった干菓子など、意匠(デザイン)も質感も様々ですし、季節の移ろいに合わせて色合いも変わります。
そのため、撮影をする前にはお菓子と向き合い、どの角度からどんな風に撮ってあげたら表情や質感が一番魅力的に見えるか、自分はそれをどう表現したいのか、と観察する時間を大切にしています。
こちらは京都の紫野源水さんの有平糖です。
ポイント② イメージに合わせて小道具をセッティングする
表現したいイメージやストーリーがある程度決まったら、背景や器、小道具を選んでセッティングをします。同じお菓子でもセッティングによって表情が変わるので、撮り比べて楽しむこともあります。器は基本的にお菓子の意匠や色合いを引き立てるシンプルなデザインや色のものが多く、陶磁器、ガラス、漆器などを撮りたいイメージに合わせて使い分けています。
ポイント③ カメラアングル&ライティングを決める
カメラアングルは、意匠をどう見せるかによって決まります。下の写真では、花びらに透け感が出る、カーネーションの花だとわかる、水滴に見立てた錦玉羹に光が入る、という条件がすべて叶う角度を探しました。また、順光は和菓子の色や形が平面的に写りがちなので、逆光、反逆光、サイド光で撮ることが多いです。
ライティングはナチュラルな質感の自然光が好きなので、光に透明感のある午前中からお昼にかけて撮影していますが、温かみのある柔らかいイメージで撮りたいときは、あえて夕方近くまで待つ時もあります。
ポイント④ バランスを取りながら配置する
複数の和菓子を並べて撮る場合は、それぞれのお菓子の色合いや意匠の見え方のバランスを取りながら配置します。下の写真のお菓子の意匠は上から見た方が全体像がわかりやすいため、俯瞰で撮影しています。お菓子の脇に桜の枝を置き、さらに手で持っている別の枝を前ボケにして遠近感を出しながら、夜桜の中でぼんぼりが灯る様子を表現しました。
フィルムシミュレーション・機材について
フィルムシミュレーションはお菓子の色が美しく映える、PROVIAやASTIAに設定しています。撮りたいイメージによってクラシッククロームやVelviaを使う時は、カラーの±でお菓子の色が自然に見えるように調整しています。カメラはほとんど手持ちで撮っていますが、小道具の配置の微調整が必要な時や、金箔にしっかりピントを合わせたい時は三脚を使います。
普段使っている『XF35mmF1.4 R』の他に、今回は『XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro』をお借りして撮影しました。XF80mmF2.8は、ボケが柔らかくて美しく、陰影にも深みがあってとても魅力的なレンズでした。
まずは被写体をよく観察して、色や形、細工、質感、雰囲気など、自分がどこに魅力を感じるかを探ってみてください。それが明確になれば、その魅力を強調できるストーリーや写真のイメージが湧きやすくなりますし、何よりも自分が心地よく感じられる写真が撮れると思います。
同じ場所で何枚も撮り続けながら「うまく撮れない」とおっしゃる方が多いのですが、和菓子や料理はカメラアングルや光の向きによって、がらりと表情が変わります。被写体が魅力的に見えるポイントはきっと一つではないはず。背景や器、小道具、フィルムシミュレーションの組み合わせも無限にあります。被写体の向きを変えたり、さまざまな角度や距離、光の向き、カメラの設定、背景を試しながら撮影するうちに、自ずと表現の幅も広がってくるでしょう。