写真家・内田ユキオの『FSレシピ』集〜都市スナップ〜

富士フイルムXシリーズの最新機種『X-E5』から新たに搭載された、フィルムシミュレーションと画質設定を自由に組み合わせて自分好みの『FSレシピ』として保存できるカスタム設定機能。軍艦部左側のフィルムシミュレーションダイヤルにてお気に入りの設定を3つまで登録することができ、シーンに応じて瞬時に切り替えられるように。本企画では、この機能を活かしたオリジナルの『FSレシピ』を、Xシリーズを愛用するフォトグラファーに紹介していただきます。
今回は、街の日常や海外のスナップを撮り続ける写真家・内田ユキオさんに、都市スナップをテーマに3つの『FSレシピ』を作成いただきました。“ルックが被写体を求める”という発想から生まれたレシピが、写真をどんな一枚に仕上げるのか。その作例とともにご紹介します。
レシピというと「鶏肉がたくさんあるから、そこからどんなバリエーションを作るか」と考えがちです。写真も同じで、これだと被写体の数だけ撮り方を覚える必要があり、とくにスナップでは現実的ではありません。
照り焼きの作り方を覚えたから、鶏肉だけじゃなくブリも美味しく調理できるようになる、というのがスナップには合理的です。良いレシピをひとつ覚えれば、素材は交換可能だから。
さらに被写体やシチュエーションが先にあってルックを選ぶと考えるなら、やはり理想はRAW現像。一枚ずつ追い込んでやることができます。ただ、そうすると現実の中に美しいものを見つけたという感じが薄れ、スナップのダイナミズムを失いがちに思えます。
ここでは“シチュエーションがルックを選ぶ”のではなく、“ルックが被写体を求める”という提案をします。都市スナップをテーマに、3つの『FSレシピ』を作ってみました。
レシピ① :「Soul Writer」
本家は淡い光を好んだようですが、光と影を使ってデザインされたような美しさを演出するためのルック。
クラシッククロームをベースに、彩度を下げ、ホワイトバランスとWBシフトを組み合わせて青みを加え、シャドウを硬くすることで影が強調されるようにしました。クールな雰囲気と“日常を切り取った”というフレーミングが重要なので、中望遠レンズと相性が良いはずです。
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連写やひとつの場所で粘ることを好まないので「あの影が綺麗だな、シルエットになっても美しいもの(色でなく形が印象的なもの)が来てくれたらいいな」と思っているところに、この傘。スナップの醍醐味であり、ルックが被写体を求めるという例です。
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WBシフトをいじるとシーンタフネスが犠牲になることが多いのですが、このルックは色のあるものを撮っても失敗しづらいはずです。こういうシーンは露出をアンダーにしてシャドウを硬めにするのが一般的。でもスカートの色やタイルのパターンも大切な要素のため、ハイキー気味の露出で、淡い夢のようなムードを残しました。
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都市とそこに暮らす人を、色と光の対比によるコントラストで表現しました。光の境界線には発見と驚きがあり、日常を少しドラマティックに見せてくれます。
レシピ② :「Avril 14th」
好きなアーティストの曲から名前を付けました。デジタル演奏でありながら音は完全にアナログ、しかもそれがメロディと完璧に調和しているところに惹かれています。
そこでこのレシピは、フィルム時代にはできなかったデジタルの長所を最大限に使い、けれどもフィルムのような魅力を残したルックにしたいとカスタムしました。設定はシンプルで、基本的にはVelviaのホワイトバランスを電球モードにしただけです。街によって、あるいはレンズや季節でシャドウトーンを変えるくらい。
初期のVelviaは、車のテールランプのような強い色に反応しすぎてバランスが崩れることもあったのですが、今のVelviaはこれだけ彩度が高いのに色が調和しているのに感心します。ISO50のフィルムだったVelviaで夜景を自在に撮れるのはデジタルの恩恵でしょう。
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『XF56mmF1.2』のAPDモデルを使っていて、それでなければ撮れないというほど重要な違いではないですが、ボケが甘く、ピント部分にも鋭さがありません。手ブレ補正があるので感度を下げて撮れますが、大きくプリントするのでなければ夜景はこれくらいのほうが好みです。
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ベースとなっているVelviaの良さを残しているため、いろんな夜景に対応できます。日没してもまだ空に残っている青、街灯、車のライトなどのミックス加減と、ビルの影がグラフィカルですね。
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一台の車のテールライトが、共鳴するようにいろんなところに赤を散らしているのが気に入っています。構図のアクセントとして、画面左のぎりぎりのところに道路標識を入れています。
レシピ③ :「BLBC」
とある小説に沿って、人間味の薄い都市と、それでもそこから離れられない心情を表現したくてカスタムしました。
ACROSをベースに、モノクロームカラーを使ってわずかに温黒調にしてあります。
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ビルを撮ったとき質感が美しいことはマスト。夜によく合うようなトーンになっていますが、もちろん昼もテストして、扱いづらかったら微調整していきます。
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夜景を撮るときに難しいのは露出。X/GFXシリーズにはキーの設定がないため、露出補正を使ってアンダー気味にします。ビルの輪郭が「目立たないけれどはっきりわかる」くらいが目安。街のディテールがもう少し見えるほうが好きなら、シャドウをマイナス気味に調整していくと扱いやすくなります。
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