【Xシリーズレビュー】フォトグラファー・aimue(相武えつ子)〜『X-S10』で見える景色 vol.3〜
今年11月に発売となったXシリーズ最新機種『X-S10』。より親しみやすくアップデートされた操作性、現在Xシリーズに搭載されている全てのフィルムシミュレーションが楽しめる点など、注目すべきポイントがたくさん詰まった一台です。今回は愛知県在住で、インスタグラムで7万人のフォロワーを持つ2人姉妹のお母さん・aimue(相武えつ子)さん(@aimue)にインタビュー。作例写真と撮影時のお話からは、カメラがあることで生まれる親子のコミュニケーションと些細な成長も見逃したくない親心に寄り添うX-S10の高い機能性が見えてきました。
Interview:aimue(相武えつ子)
--X-S10はもとより、今回がXシリーズにちゃんと触れる初めての機会だったとのことですが、富士フイルムのカメラにはどんな印象をお持ちでしたか?
富士フイルムのカメラを使ったことがある方って、とにかく「色がいい」っておっしゃるから、ずっと前から使ってみたかったんです。ただ、ダイヤルの多さから少しだけ敷居の高さを感じていて。友人から借りて撮ってみたこともあるんですけど、ちょっと持て余してしまうところもあって。クラシカルな見た目はカッコいいんだけど、子どもを撮るときにダイヤルでの設定を色々出来るかなって思ったり。
--たしかに、Xシリーズらしいデザインに惹かれる反面、操作が複雑そうだと感じてしまう方も少なくはないと思います。
だから今回、X-S10を見たときに「モードダイヤルがある!」って、まずそこを喜びました(笑)。ここさえ覚えれば、撮れる!って。操作は手軽になったけどクラシカルさはそのままで、所有欲を満たしながらも撮りやすいっていうのはすごくいいなと思いました。それと、もうひとつビックリしたのが、サイズ感。グリップが深いから手にも馴染みやすいし、コンパクトだけど適度な重みもあって。今回、両手で構えてファインダーを覗いたり片手で持ってバリアングルモニターを見たり、いろんな撮り方を試してみたんですけど、気軽なのにフランクになりすぎないバランスの良さを感じました。
実は作例の中に一枚、娘が撮った写真があるんです。散歩しているときにネコちゃんを見つけて、「撮りたいからカメラ貸して」って。今までミラーレス一眼を持たせたことはなかったけど、普通に使えていましたね。小さな手でも持ちやすいし、子どもでも直感的に撮れるカメラなんだなって思いました。一緒に歩いていて「私も撮りたい」って言ってくれると、やっぱり嬉しいものですね。
--カメラを通じて生まれるコミュニケーション、素敵ですね。今回はX-S10で娘さんたちとの日々のことを切り取っていただきましたが、ささやかで愛おしい瞬間がたくさん詰まっていると感じました。普段は、フィルムとデジタルを使い分けていらっしゃるそうですね。
そうですね。フィルムでは日々のことしか撮らないって決めています。フィルムって、どうしても現像の手間とコストがかかってしまうんですけど、それでも撮りたいものが日々のことだったんです。逆に、画や仕上がりにこだわりたい風光明媚な景色とか季節感のある場所での撮影には、デジタルを使うことが多いです。
--その点、フィルムのような質感や色再現とデジタルの機能性を同時に楽しめるのはXシリーズ最大の強みといってもいいのかもしれません。冒頭で少し、富士フイルムの“色”について触れてくださいましたが、実際ご自身で撮られた写真をご覧になった印象は?
まず、「撮って出しで緑がこんなにキレイなんだ!」って、びっくりしました。緑って目に飛び込みやすい色だから、レタッチでも特に時間をかけて仕上げるんです。だからこそ驚きましたね。たとえばこの写真も、背景の緑と手前の光が当たっている緑と、さらに手前の光が当たっていない緑と、いろんな緑が表現されていて本当にきれいだなって。今回フィルムシミュレーションもいろいろ試してみたんですけど、はっきりと特色があるから選びやすいんですよね。撮りたいイメージを迷わず狙い撃ちできるのがすごくいいなと思いました。
葉っぱを拾っている写真も結構逆光気味で、ピントを合わせるのにはそんなに簡単ではないシーンだと思うんです。それでも葉っぱの葉脈まで写し出してくれていて。こういう描写の美しさはたまらないですね。こってりとした自然な秋の色もすごく好きです。それと、バリアングルがとにかく便利でしたね! レンズとボディのバランスの良さと高度な手ぶれ補正のおかげで、モニターを見ながら適当に撮ってもブレているものは一枚もなかったです。地面スレスレでカメラを構えて撮れるからこそ、手前がキレイにボケてキラキラしてますよね。
--X-S10には、現在Xシリーズに搭載されているフィルムシミュレーション18種全てが搭載されていますが、特にお気に入りのフィルムシミュレーションは見つかりましたか?
今回は、特にクラシックネガをたくさん使って撮りました。暗いところは引き締まるし、光が当たっているところは柔らかく輝いてくれて、陰影を生かした写真を撮れるのが楽しかったです。
こちらの手だけの写真は、PRO Neg.Stdで撮りました。着ているものの素材感とか、冬の朝の空気感まで伝わるくらいすっごく柔らかく撮れていて。足をソファに投げ出している写真はPRO Neg.Hiで。やっぱりすごく柔らかくて、本当にフィルムで撮ったみたいだなって。
--ファインダーを覗くaimueさんの優しい眼差しまで伝わってくるようでどれもすごく印象的なのですが、特に思い入れの強い1枚を選ぶとするなら?
海を背景に娘の横顔を撮った一枚ですね。青とオレンジの対比がすごく好きで、このシーンは絶対いろんなフィルムシミュレーションを試したいと思いながら撮りました。風が強くて、髪の毛がワサワサなびいているんですけど、動いた髪に当たる光までしっかりきれいに写してくれて。白飛びもせず黒つぶれもせず、すごくきれいに撮れていて気に入っている1枚です。やっぱりピント合わせを何度もやり直すのが、撮りたい瞬間を逃す一番の原因なんですけど、乱れる髪の毛にも惑わされず瞳にパシッとピントを合わせてくれたのでカンタンに撮れました。
--画の中央に瞳が輝いている構図もすごく素敵ですよね。構図的なところは普段も意識されていらっしゃいますか?
そうですね。たとえば、光を少し入れるだけでも印象が違ってくるし、私はいつも撮りながら並行・ハイ・ローってアングルを変えて撮るようにしています。この写真は、ドアの隙間から撮りました。というのも、ドアを全開にするとちょっとごちゃごちゃした部分が見えちゃうんです(笑)。明暗差があると明るいところに目がいくので、そういった狙いもありつつ、汚いところを隠しつつ。
--まさに、一石二鳥ですね!
そうです(笑)。「部屋が散らかっているから、寄りで撮ろう」とか「トリミングしちゃおう」って考える人もいるかもしれないけれど、考え方次第でどんなふうにも撮れると思うし、日常の写真でそれを感じてもらえたらいいのかなって思うこともあります。スマホと一眼でまた視点が変わってくるところもあると思うんですけど、スマホってアレコレ考えずにただただ「かわいい!」って思いながら撮ってるから、部屋が汚くてもお構いなしじゃないですか。そういったスマホ的な気軽さもこのカメラにはあるなと思いました。
--普段の距離感でいながらも、違った視点を与えてくれるんですね。今回使用したレンズについてもお伺いできますか?
レンズは今回、『XF35mm F1.4 R』と『XF23mm F2 R WR』を使いました。いつも娘たちと喋りながら撮っているんですけど、この2本が撮りやすい焦点距離だったんです。とにかくコンパクトなレンズだなって思いました。「35mmのF1.4で、こんなに小さいんだ!」ってビックリしましたし、描写がすごくきれいでした。昔は大きくて重いカメラがすごく好きだったんですけど、その概念を覆されたというか。喋りながら撮れる気軽さもありながら、かっちりとキマった画が撮れるという印象です。
--ファインダーを覗いて初めて発見することがあるのと同じように、レンズによって新しい視点が生まれることもありますよね。
そうですね。それぞれの人に合ったレンズってあると思うので、撮りたい画だけでなく、撮るときのスタイルを考えて選ぶのもいいのかなと。ボケがきれいで便利だからという理由で望遠を持つんじゃなくて、自分が子どもとどう関わりながら撮りたいかというのを考えると、私の場合は標準から広角寄りでした。
--普段お子さんを撮るうえでは、どんなことを意識されていらっしゃいますか?
決してニコッとした写真が撮りたいわけではなくて、今のありのままの表情とかの方が5年ごとかに見返すと嬉しいんですよね。散らかった部屋とか子どもがダラ〜ンとしているところとか。そういう写真の方が、将来きっと見たくなるはずだと思っていて。だから、お母さんとしての視点はずっと大事にして撮りたいっていう気持ちはあります。結構「子どもが撮られるのを嫌がる」っていう相談をもらったりもするんですけど、私の場合はあくまで生活の中にカメラがあるというふうにしているんですよね。そうすると、親子で写真を楽しめると思います。
--もうひとつ、お子さんを撮るときのコツとして連写をよく使うとnoteに書いていらっしゃるのを拝見しました。連写だと、見逃してしまいそうな一瞬も逃さず撮ることが出来ますよね。
そうですね。子どもたちと喋っていると、表情もコロコロ変わるし、目つきひとつで興味を持っているものが変わる瞬間も連写だと写してくれるんですよね。X-S10は連写もすごく速くて、子どもの心境まで逃さず写してくれるカメラだなという印象がありました。
ただ歩いているところなんて、動画だと見過ごしちゃうシーンなんですよね。動きの一部を切り取ることができるカメラだからこそ、例えばこの写真のように砂が舞い上がっているところまで写してくれる。些細な瞬間を見過ごさないでいられるのは写真だからこそだし、そういうところを逃さず撮っておきたいという気持ちに寄り添ってくれるカメラだなって感じました。
--カメラがあることで生まれる親子のコミュニケーションや写真に撮ることで気付ける素敵な瞬間など、aimueさんの写真からは、ただ成長を記録するだけではないカメラの魅力を感じることが出来ました。
普段の生活だとどうしても小言が多くなっちゃんうんですけど、撮っているときは「かわいい、かわいい!」って言いながら撮っているので、娘たちは「カメラを持ってるときのお母さんが好き」って言っています(笑)。カメラがあるからこそ生まれる良い面もあるし、だけど生活の中にカメラがあることが当たり前でありたいというか。そういうのが理想ですね。
text by 野中ミサキ(NaNo.works)