【Xシリーズユーザーインタビュー】『X-T3』とプロカメラマン・太田森彦 奥深き物撮りの領域で信頼できる仕事道具とは。
化粧品や腕時計といった大手メーカーのプロダクト撮影を始め、富士フイルム『X-T4』、『X-S10』のカタログ撮影も手掛けたプロカメラマン・太田森彦(@morihikoohta)さん。仕事道具である『X-T3』を選ぶうえでは、忠実さが重視される物撮りだからこそ妥協できない表現力へのこだわり、そしてAPS-C機専用レンズのラインナップと質の高さから見える富士フイルムの一貫した姿勢への信頼があったといいます。今回は、物撮りという専門性の高い分野において感じられたXシリーズの魅力について語っていただきました。
Interview:太田森彦
──まずは太田さんのご経歴について教えていただけますか?
カメラに触れたきっかけは、以前勤めていたウェブ関連のデザイン会社で、素材を撮れるようになるために受けた撮影講習会でした。その後、物撮りの現場に立ち会う機会があって、そこで初めて「こういう写真を仕事にしている人がいるんだ」と知ったんです。そこから自分も物撮りを出来るカメラマンになろうと思い、デザイン会社を退社して専門学校に入り直しました。卒業後は制作会社に11年間勤務し、昨年独立しました。趣味で始めた写真が仕事になったという方もいらっしゃると思いますが、僕の場合は最初から仕事にするつもりで触っていたこともあって、カメラに対しては道具意識がかなり強いですね。
──そうした視点でのカメラ選びは、どういったところを重視されたのでしょう?
勤務していた制作会社で使っていたこともあって、フルサイズ一眼を検討していたところもあったのですが、同時に大判や中判のフィルムも使っていたので、そもそも35mm判フィルムにこだわりがなかったんです。そのうえでデジタルカメラを検討したときに、他のメーカーはAPS-C用の控えめなレンズ群があって、それがフルサイズへの乗り換えを前提としているようなラインナップに感じてしまって。その点、富士フイルムはAPS-C専用でしっかり良いレンズを設計しているところに信頼感がありましたし、X-T3にも搭載されている『X-Trans CMOS 4センサー』はカラーフィルターがモアレの発生しづらいランダムな配置になっているというところでも興味がありました。
──物体を忠実に写し出す必要があるからこそ、レンズのラインナップやイメージセンサーの構成に注目されたんですね。
富士フイルムはフィルムを作っていた会社だからこそフィルムとデジタルの違いを明確に持っていて、デジタルのセンサーに対していいレンズを作るのであればバランスの良いサイズはAPS-Cと考えているのかなと。その完成度の高さとビシッと一本筋が通っているところに惹かれました。画質もフルサイズ機と比べて遜色ないですし全然負けてないですね。
──Xシリーズの中でも『X-T3』を選ばれた理由は?
僕がデジタル一眼を探していた当時に発売されたばかりだったのがX-T3だったことと、同時期に発売された『X-H1』とも比較してX-T3は動画機能も優れているという点も決め手になりました。あとは、いわゆる昔のフィルムカメラのように絞りやシャッタースピードが電源を入れずともダイヤルで物理操作できるのは安心感がありますし、それまで使っていたフルサイズ一眼とはまったく違うカメラらしさという点にも魅力を感じました。
──X-T3の使用感について、どういった感想をお持ちですか?
仕事とプライベート、それぞれのシーンで感じる良さがありますが、仕事では信頼出来る道具という感覚ですね。パソコンに転送するときなんかのエラーも少ないですし、『FUJIFILM Camera Remote』を使えばロケの現場にもタブレットとカメラを持っていくだけで確認作業が出来るところも、プロユースの目線で設計されているなと感じています。プライベートで使っていて感じる利点は、やっぱり持ち運びのしやすいサイズ感ですね。出掛けるときは使うレンズをあらかじめ決めて「今日はこういう画角で撮るものを探そう」という楽しみ方をしているので、単焦点のラインナップが細かくあるというのもやっぱり嬉しいです。
あとは、かなり個人的な感覚ですが、 X-T3で撮影する場合は光を注意深く見るようになります。僕が気に入って使っていたフィルムカメラは露出計がついていなくて、晴れの日の日向ならこれくらいの露出で、日陰ならそこから2段空けて、という感じで光の状況を見ながらダイヤルをカリカリ回して撮影していました。 X-T3も露出に関する設定がダイヤルになっているので同じ感覚で撮影でき、一般的なモードダイヤルのカメラよりも撮影が楽しいですね。
──描写力や色表現といった点ではいかがでしょう。
物撮りは基本的にライティングが重要なのですが、X-T3の場合は光を当てたときの色の差がしっかり出るんです。というのも、フルサイズ機で撮っていたときにいろんな色柄のものがすべて一緒になってしまっていることがあって。X-T3の場合は、それが今のところ起きてない。見た目で正しい色が出るという訳ではないのですが、微細な違いが出るぶん調整もしやすくなります。屋内の照明だけでなく、たとえば夜の街の中のいろいろな光の微妙な色温度の差まで写し出してくれるので、夜景を撮ることが好きになりましたね。
──普段フィルムシミュレーションを活用されるシーンはありますか?
物撮りのときはPROVIAを、プライベートではETERNAを使ったりもします。PROVIAに関してはスタンダードですし、フィルム時代から信頼が厚いということで迷わず使っています。ETERNAの場合は、映像用ということでコントラストが弱くシャドウトーンが豊かなので、現像で調整しやすいところが気に入って使っています。フィルムシミュレーションに関しては、「本当にフィルムが入っているカメラで撮影しているみたいだな」という感触があります。フィルムカメラの場合は、レンズで画角を選んで、フィルムでトーンを選んで、カメラには正確な露出を期待するという感じでしたが、デジタルの場合はフィルムの代わりにカメラ側でトーンを調整するはずなのに、今までその感覚をあまり感じられなかったんです。そこを富士フイルムのカメラを使うようになって初めて、フィルムを選んでいた時のように、カメラ内でトーンが調整できるようになったなと感じました。
──フィルムカメラを使っていらっしゃるからこそ感じる面もあったんですね。先ほどレンズラインナップについて触れていただきましたが、ご自身もXマウントレンズを計6本所有されているそうですね。特に活用されていらっしゃるレンズについて伺えますか?
公私ともに出番が多いのは、『XF35mmF1.4 R』ですね。35mmって標準の画角なんですけど、物撮りにおいてはよりパースを強めたい時に使います。併せて、『XF56mmF1.2 R』と『XF16mmF1.4 R WR』も使用頻度は同じぐらい。56mmは仕事ですごく使うので、新型の56mm も購入検討しています。
『XF60mmF2.4 R Macro』やズームの『XF10-24mmF4 R OIS WR』は仕事用に。もし単焦点で10mmという画角があれば、買い足したいですね。『XF90mmF2 R LM WR』も仕事用で買ったんですけど、画質の良さとパース感が気に入っていて、このレンズを使ってなにか作品を撮れないかなって今ちょっと考えているところです。
──太田さんが手がけられる物撮り写真は、商用であるがゆえのフラットな感覚と同時に独自の視点も必要だと感じるのですが、ご自身のお仕事についてそのあたりのバランスをどう捉えていらっしゃいますか?
ちょっと難しいところですけど、僕の場合は仕事から入っているので仕事が先に来ますけど、なんだかんだ10年以上やっているので自分の好きなトーンや構図は持っていて。仕事だけしていればいいかっていうとそうではないと思いますし、“自分の写真”を持っていないとお客さんを説得出来ないところもあると思います。ちょっとずつ仕事に自分のトーンを擦り込んでいる感じはありますね。
──今後、X-T3以外の仕事道具を導入されるご予定はありますか?
『X-T4』の購入を検討したときもあったんですけど、バリアングルが好きではないのと、バッテリーが変わっちゃったというところもあって見送ったんです。中判に対する憧れもあるのですが、センサーサイズが変わると被写界深度が変わりますし、フォーマットを大きくすることが自分の撮りたい写真に合っているかというとそうではないということでX-T3に落ち着いています。噂では『X-T5』が発売されると聞いたので(取材時点では未発表)、もしそうであれば注目したいです。自分のつくりたい画的に吟味したときに、まだX-T3以外にコレだ!というカメラは今のところないですね。
text by 野中ミサキ(NaNo.works)