フラッシュの基礎知識〜メリットや設定、おすすめの使用シーンとは〜
暗い場所で補助光としてはもちろん、クリエイティブな撮影現場には欠かすことの出来ないアクセサリー・外部フラッシュ。上級アイテムという印象の強い機材ですが、光の量や角度をコントロール術をマスターすれば初心者でもワンランク上の写真撮影が可能になる優れものです。今回は、カメラ講師やテレビ出演など多方面で活躍される写真家・やまぐち千予さんにフラッシュの基礎と今すぐトライしたい撮影テクニックを作例に沿ってレクチャーしていただきました。
フラッシュの基本について
フラッシュとはズバリ、写真を撮影するときに使うカメラ用の発光装置のこと。暗い場所での光源としてはもちろん、明るい場所で補助光として使用することも可能です。『X-T30 II』などに搭載されている内蔵フラッシュとの大きな違いは発光量と、“発光部の角度を変えられること”*1。被写体に対して光の量や当て方を詳細にコントロール出来ることは、外付けフラッシュを使用する大きな利点です。
ガイドナンバー(GN)とは?
ガイドナンバーとは、フラッシュの光量を示す数値のこと。よりカンタンな捉え方としては、ガイドナンバーの数字が大きいほど発光量が多く、より遠くの被写体まで撮影可能です。撮影可能距離は『ガイドナンバー ÷ F値』で計算します。たとえばISO感度100をベースにガイドナンバー20のストロボを使って、絞りF値4で撮影した場合、撮影可能距離は5mとなります。撮りたい被写体やその距離に応じてガイドナンバーを選択しましょう。
フラッシュを使うことでどんな効果が得られるの?
フラッシュが持つ大きな役割の1つが、足りない光を補うこと。暗所での被写体ブレや逆光を防いだり、室内でも蛍光灯やLEDなど室内灯よりも大きな光量を放つフラッシュを使うことで、被写体のディティールをより緻密に描き出すことが出来ます。また、色温度が太陽光に近いため、色の再現性(演色性)が高く、肌の色や素材感を自然に引き出します。
明るい場所でもフラッシュの光は効果絶大
今回は、ケーキを被写体にフラッシュの効果を比較します。まず、フラッシュなしで撮影した2枚を見比べてみましょう。左は、ISO感度500・シャッタースピード0.38秒で撮影したもの。このシャッタースピードで手持ち撮影だとブレてしまうので、三脚を使っています。一方、右の写真は、ISO感度500・シャッタースピード1/220秒で撮影。シャッタースピードが速いため、手持ち撮影でもブレていません。ただし、全体が暗くなってしまい、ケーキの魅力が伝わりづらい写真になっています。
次にフラッシュ(EF-X500)ありの画像を見てみましょう。フラッシュを使うことで、三脚なしの手持ちでも明るく撮影ができましたストロボのフラッシュを使って光を補うことで、ISO感度を上げなくても手持ち撮影で明るくキレイに撮ることが出来ました。
フラッシュの当て方での効果の違いとは?
フラッシュは当て方によって、効果や印象が変化します。
まずは、真正面から直接光を当て被写体の前面をくっきり写し出す『直射』。作例では、不自然な影が生まれ平面的な印象になってしまっています。
壁や天井にフラッシュを反射させる『バウンス撮影』は、幅広いシーンで使えるテクニック。発光部を天井に向ける『天井バウンス』は、被写体の真上から光が注ぐため、明るくナチュラルな印象に。ケーキの質感やデコレーションが細部まで美しく自然に映し出されています。壁に発光部を向ける『壁バウンス』では、サイド光の効果で明暗差が生まれます。なお、バウンス撮影に使う壁や天井の色は白色がベスト。色がついている壁に反射させると被写体にその色がかぶってしまうのでご注意を!
暗い場所でフラッシュを使う際の注意点とは?
前述のように暗所撮影で活躍してくれるフラッシュですが、シチュエーションによっては使用しないほうがいいことも。たとえば、こちらのようにロウソクを灯した空間でストロボを使用した場合、異なる種類の光が混ざりあう“ミックス光”状態に。
それにより、本来のケーキの質感やテーブルの色味が損なわれてしまいました。同じく、喫茶店やバーのように薄暗くムードのある照明がある場所でもストロボは使わないほうがベター。そういったシチュエーションでは、カメラをしっかりと固定し、ISO感度を上げて撮影してみましょう。高感度でもキレイに撮影できるのは、Xシリーズの大きな特長です。
TTL(Through The Lens)自動調光とは?
『TTL(Through The Lens)』とは、カメラとストロボが連動し、撮影に最適な光量を自動調整してくれる機能のこと。カメラのシャッターを押すだけで適した光量での撮影が可能になるため、初心者の方はもちろん、結婚式などで特別な一瞬をキレイかつ確実に撮影したいときには『TTL』に設定することをオススメします。
『TTL』とは反対に、自分で光量を調整出来るのが『マニュアル発光』。設定を変えるたびにシャッターを切って光量を確認したいときに使用しましょう。さらに、発光間隔を任意で設定できる『マルチ発光』では、シャッターが開いているあいだに複数回発光させることが可能。多重露光風の写真撮影が楽しめます。
フラッシュで光を照らす範囲(=光の広がり方)のことを『照射角』といい、ストロボ本体の設定画面にある『mm』が照射角を示しています。オート設定であれば、レンズのズーム操作により自動で照射角が変わります。この数字が小さいほど弱い光が広範囲に拡がり、数字が大きくなるにつれて光の範囲が狭く、遠くまで届く強い光になります。また、表示画面内の+-0は調光補正を示しており、TTLでは被写体が適正露出になるよう自動で調光されますが、マニュアル発光では発光量を手動で補正し、被写体の明るさを変えることができます。
動物写真もブレなくキレイ
フラッシュを使えば、元気に走りまわるペットの写真もお手のもの。光を補うことでシャッタースピードが速くなり、明るく手ブレのない写真撮影が可能になります。作例では、おもちゃでネコの気を引きながら片手でカメラを構えて撮影。可愛らしい一瞬の仕草をくっきりとキレイに写し出すことが出来ました。
明るく手ブレのない写真からは、毛並みのふわふわ感もリアルに伝わってきます。ただし、生きものの撮影時にフラッシュの直当ては厳禁! 可愛い動物たちの目を守るためにも、必ずバウンス光で撮影しましょう。
富士フイルム純正フラッシュはどんなものがあるの?
最後に、ここまで使ってきた富士フイルムの純正フラッシュをガイドナンバー順にご紹介します。大光量かつ多機能なものから、コンパクトで手軽なものまでぜひ自身の表現にぴったりの一台をチェックしてみてくださいね。
EF-60【ガイドナンバー:60】
コンパクトな『EF-60』は、大光量かつ多機能な無線通信対応クリップオンフラッシュ。最大ガイドナンバー60(※)の余裕のある光量が、あらゆるシーンで軽快な撮影を可能にします。また、上方に90°、左右に180°可変するフラッシュヘッドが、バウンス撮影での柔らかな陰影表現をコントロール。フレキシブルな使用感で表現の幅を広げます。
EF-X500【ガイドナンバー:50】
高速シャッタースピードでのフラッシュ撮影や、多灯ライティングにも対応。ハイエンド多機能モデル『EF-X500』。最大ガイドナンバーは、約50(※)。美しいボケ味を狙った開放絞り付近での撮影などで機能性を発揮するとともに、複数のフラッシュを同調させ被写体や背景に与える光を自由にコントロールすることで、よりクリエイティブな撮影を可能にします。
EF42【ガイドナンバー:42】
コンパクトなボディでガイドナンバー最大42の光量をかなえるクリップオンタイプのフラッシュ『EF42』。発光部のバウンス角度は、上90°、左180°、右120°。TTL自動調光機能はもちろん、24~105mm(35mmフィルム換算)のオートズーム機能を搭載した、汎用性の高いモデルです。
EX-F8
内蔵フラッシュに代わり、夜間の屋外や室内など光量の少ない撮影シーンでも高画質撮影を実現する外付けフラッシュ『EX-F8』。コンパクトながらもアクティブな撮影をサポートしてくれる頼もしい一台です。
光の効果で被写体の趣や持ち味を引き出してくれるフラッシュは、写真のクオリティをぐっと高めてくれるアイテム。普段の撮影にプラスすれば、新たな表現に出会えそう。今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ普段の撮影に取り入れてみてくださいね。
text by 野中ミサキ(NaNo.works)