富士フイルムXシリーズとそぞろ歩き~平井裕士×フィルムシミュレーション『クラシッククローム』×大阪・道頓堀~
フィルム時代から90年以上に渡って色彩表現を追求・研究してきた富士フイルムならではの、20種類のフィルムシミュレーション。今回は、大阪を拠点に、日常の何気ない風景を記録し続けるフォトグラファー・平井裕士さん(@yuji87)に『クラシッククローム』で写真を撮りながら、早朝の大阪・道頓堀をそぞろ歩きしてもらいました。街が静かに目を覚ますそのとき、クラシッククロームが映し出す“朝の大阪”を、平井さんの視点とともに追っていきます。
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舞台は大阪。大阪らしさを伝えるならやはり道頓堀は外せません。
ただ、散歩をするにしても日中はとても混雑するから時間帯がポイントです。散歩するなら早朝。少し肌寒い秋の訪れを感じつつ、初心を思い出しながら街に導かれるままに散策してきました。
9月27日、朝6時。地下鉄の難波駅から外に出ると、空は明るくなりつつありました。お店の前には、昨日片付けられた椅子がオープンをひっそりと待っていました。
積まれている椅子、壁に立てかけられた椅子とテーブル。クラシッククロームの落ち着いた色味と、薄曇りの明かりが幸いして、情報量が多い写真も落ち着いた仕上がりに。曇天だと、写真を撮ろうと思えないときもあるけど、そんなときにしか撮れない写真もあります。天気予報を見てガッカリせず、まずは一歩踏み出すことが肝心です。
撮り始めて1分。この2枚が撮れて、ボクの気持ちはもう満たされてしまいました。1回の散歩でお気に入りの写真が撮れない日はたくさんあります。
「もう今日は他に何も撮れなくて、今回のそぞろ歩き企画に掲載する写真が足らなくなったらどうしよう」という不安に襲われながら、特徴的な外観の建物が視界に入ってきたのでシャッターを切りました。気になるものを見つけたら撮る。カメラの操作は絞りと露出補正のみにしています。それだけでカメラが良い雰囲気に仕上げてくれるから余計なことを考える余裕もできるのだと思います。
大きな荷物を押しながら、前を横切っていく人影、これからどこへ行くのだろう。グリコの看板以外に目的地を決めていない自分にも「これからどこへ行くの?」と問いかけてみます。
「光が当たっている場所を探せば良いんだよ。簡単でしょ?」
そっけなく、面倒くさそうな返事だったけれど、シンプルに考えればいいってことだと思ってみる。それが難しいんですけどね。
アクシデントが起こることもなく、目的地に辿り着いてしまいました。午前6時過ぎということもあり、周りには一晩中ここに居たであろう若者たちの姿があるくらいです。
ピンク色の髪が良いアクセントになると思いながら撮ってみますが、光がどこにも当たっていないからか気分が乗ってきません。「気合いを入れ過ぎて早く到着したんだね」、ひとりで歩いていても頭の中はいつもひとりごとでいっぱい。飽きずに歩き続けられるのも、妄想の話題が尽きることがなく楽しいからでしょう。
太陽がもう少し昇ったら、もう一度戻ってこよう。そう決めたボクは、アメ村(アメリカ村)に向かうことにしました。初めてカメラを買った頃は、ポートレートの練習になると思い込んで、良く御堂筋でマネキンを撮っていました。ショーウィンドウもすっかり秋色に。
歩き始めて30分。このチャンスは逃せません。ボクは物語の主人公が現れるのを待ちました。10秒後、段ボールを帽子代わりにした男性が颯爽と現れます。ボクは、男性の足が重ならないようタイミングを狙って慎重にシャッターを切りました。連写せずにワンショットで。この独特の緊張感がたまらないのです。たまに失敗してしまうこともありますが、それもいい思い出だと思うようにしています。何日か引きずることもありますが。
ダンボールマンに満足したボクは、さらに西側にあるおしゃれな雰囲気が漂う堀江に向かいました。大きなカメラだと周りの人に威圧感を与えてしまうかもしれないけど、『X100V』ならファインダーを覗きながら歩いたりしない限りは街に溶け込みやすいと思います。だからずっと愛用しています。
光が当たっているだけで目にするものがどれも美しく感じてしまいます。正直、何を撮ったのか分からないような写真もあるし、多過ぎるとセレクトも大変なんだけど、撮っていて幸せならそれで良いと考えて今に至ります。
歩道橋を見つけると余程急いでいない限りは意味もなく登るようになりました。散歩していて撮影が単調になってきたときは、こうして視点を変えると街の見え方が変化して、また新鮮な気持ちで歩きたくなるから。
青空が広がってきたこともあり、ここでUターンして道頓堀に戻ることにしました。もちろん戻るときは来たときと異なる道を選択します。道頓堀周辺は、道路が碁盤の目のようになっているから、選んだ道によっていろんな風景が見られるのも好きなところです。
太陽が隠れてしまう前にグリコに戻りたい。分かっているのに、目の前にある風景の魅力に誘われ、次々に引き摺り込まれてしまいます。
心斎橋の飲み屋エリアには、あっさりした風景が拝める場所もあります。ギラギラしたホストの看板に疲れたとき、この緑が目と気持ちを癒してくれるのです。クラシッククロームでこういう風景を撮るのが本当に好きです。
どこでも撮れるだろうというような写真もタイトルで見え方が変わります。もし、「千早赤阪村のビニール傘」と書かれていたら、そんな想像を始めるとなかなか現実に戻ってこれなくなります。まだ太陽が隠れていないことをお店を照らす光が教えてくれます。
1時間ぶりに戻ってくると、眩しさを避けるように記念撮影しているご夫婦がいました。
道頓堀川沿いは、朝も夕焼けの時間帯もおすすめです。
何も食べてないけどお腹いっぱいになったボクは、開店準備中の飲食店を見ながらもう少し歩くことにしました。ひとりでスナップしていると、いつ撮り終えようか悩むことが多い。「満足できる写真が撮れるまで!」なんて設定してしまうと、いつまで経っても帰れないかもしれません。目的地が設定できれば良いけど、目的地なんてあってないようなもの。見たことのない風景に出会うことが散歩の醍醐味だと思っています。
だからあらかじめ決めた時間になったらカメラを鞄に片付けて最寄駅に向かうことにしています。名残惜しいことも多いけど、写真以外のことに費やした時間が結果的に写真に還元されることもあると思うから。
90分間のそぞろ歩きで最後に撮った写真がこちら。お気に入りの路地で撮りました。友人と別れた男性が手で合図を送っている風景です。こういう風景に遭遇したいから、歩きたくなるのかなと思いました。
今回使用したフィルムシミュレーション








































