【Xシリーズユーザーインタビュー】フォトグラファー・藤澤一と『X-Pro3』 「ゾーンに入りこんだ一瞬を突き詰めたい」
ミュージシャンのライブ写真や宣材写真をはじめ、ポートレート撮影を中心に活動する藤澤一さん(@fujigraphy___)。作家活動の傍ら、写真スクールの講師やフォトウォークの企画運営など、「写真を撮ること」の魅力を積極的に発信し続けています。“奇跡の一瞬”を切り取るために、現在『X-Pro3』を「めちゃくちゃ酷使している」と語る藤澤さん。では、『X-Pro3』をどのように活用しているのでしょうか。特徴的な撮影手法についてお話を伺いました。
Interview:Kazu Fujisawa
写真スクールがきっかけでポートレートの道へ
――藤澤さんが写真を撮るようになったのはいつからですか?
大学生だった2015年の4月頃です。元々バンド活動をしていて、バンドの写真を撮るために一眼レフカメラを購入しました。でもその当時、レタッチ技術はおろか、カメラメーカーも有名な会社しか知らなくて(笑)。2017年に大学を卒業してから4〜5年くらいは、旅行の時に持っていく程度の浅い付き合いでした。
――そこから現在のように本格的な写真を撮るようになった経緯は?
2020年のコロナ禍がきっかけでした。当時はお酒を飲み歩くのが趣味だったのですが、ロックダウンの影響でどこにも行けなくなって。DJコントローラーを買ったりと、いろんな趣味を模索し始めたりしたんです。何をやってもいまいちハマらなかった時、たまたまInstagramで武井宏員さんの主宰する初心者向けの写真教室『CURBON』の広告が流れてきて。「カメラを通じて新しい友達もできそうだな」と思い、初めて人から撮影技術を学ぶことになりました。
ちょうど富士フイルムデビューを果たしたのも、教室に通い始める直前の2020年5月頃。大学時代に購入したカメラから、『X-T1』に乗り換えたんです。
――そこで『X-T1』を選んだ理由はなんだったのでしょうか。
すごくシンプルですよ。見た目が可愛かったからです。古着などがずっと好きだったからこそ、ファッション性が高くて持っていてテンションが上がるようなカメラが欲しかった。あとは一番しょうもない理由ですが、僕の名字は“藤澤”じゃないですか。何か縁を感じたんです(笑)。
――“富士”フイルムで撮る“藤”澤さんということですね(笑)。『CURBON』で撮影技術を学ぶようになってからは、どういった写真を撮っていたんですか?
ポートレートが中心でした。写真教室が開催されていた4ヶ月間は「何を撮りたいか」も定まっていなかったので、『CURBON』でできた友達や、「写真を撮ってもらいたい」という友達を積極的に撮っていました。教室自体が「ポートレートを撮りたい」という目的を持った人が多かったんです。主宰である武井さんをはじめとする講師陣も、ポートレートを得意とする写真家が多くて。その影響も受け、ポートレート写真がどんどん楽しくなっていったんですよね。講師から「ポートレートに向いている」と勧められて、カメラも2020年7月には『X-T3』に買い替えました。
レンズも元々はオールドレンズを使っていたのですが、ポートレートに適した『XF35mmF1.4 R』と『XF16-80mmF4 R OIS WR』の2本使いにして。作品を撮ってはSNSへの投稿を繰り返していました。そして2020年11月、Instagramで知り合った“被写体モデル”と呼ばれる活動をしている子と撮影を行ったことをきっかけに、本格的な写真活動をスタートしました。
平均して2時間で2,000枚――ゾーンへの入り方
――現在も『X-T3』を使用していらっしゃるんですか?
2021年の6月から『X-Pro3』を使っています。もっと写真について学びたくなり、高橋伸哉さんの主宰する『shinya写真教室』に通うようになってから買い換えました。高橋さん、そして写真教室の講師であるコハラタケルさんの写真が好きなんですよね。憧れの存在が使っている機材をそのまま使ってみようと思い、『X-Pro3』を購入しました。
レンズは2人とも『XF23mmF1.4 R』を使用していたので、そちらも踏襲しました。その後、2022年10月に新型『XF23mmF1.4 R LM WR』に買い替えました。描写力の高さが魅力だったこと、防塵防滴だったことも買い替えの理由です。その次に、ライブ撮影等に向けて『XF16-55mmF2.8 R LM WR』も購入。機材に関しては、ある意味で形から入ったようなものではありました。でも実際に使ってみて、想像以上に『X-Pro3』が自分のスタイルにフィットしたので驚きましたね。
――具体的にはどういったところで相性の良さを感じましたか?
僕は自分から動き回って、1つのカットを決めたら数百枚撮り、別のカットも数百枚撮り……というスタイルでやらせてもらっています。シャッターを切りながら少しずつ細部を詰めていき、どんどん集中力を高めていくんです。2時間くらいの撮影なら、平均すると1,000〜2,000枚は撮っているかもしれません。
そして僕はモニターをあまり使わず、ファインダーを覗いて撮るタイプ。『X-Pro3』はファインダーの位置や握る部分がちょうど良いのか、めちゃくちゃ没入できるんですよね。集中力が削がれず、ゾーンに入りやすいデザインであることは、すごく助かっています。
――確かに“撮ることに集中できるデザイン”は重要ですね。お話を伺っていると、アドリブ的に構図を固めていく印象を受けたのですが、事前にどれくらい目星をつけますか?
撮影環境などをもとに「こういう引き/寄りのカットを撮ろう」と、ある程度の目星はつけます。ただ、ゴールとなる絵が見えた瞬間からは構図を固定し、微調整しながらパシャパシャ撮っていく。そして「良い写真が撮れたな」と満足した後も、ダメ押しで2〜3枚は撮ります。撮影終了後はだいたい息切れしてますね(笑)。
――藤澤さんのそういったスタイルは、いつから確立されたんですか?
『shinya写真教室』に通い始めてからでした。とにかく「トリミングや後処理は考えず、1枚を追い込め」と教わったんですよね。たくさん撮ったけど最初の10枚が1番良い……なんてこともありますが、それでもこの撮り方が一番性格にも合っていて。2021年の6月〜9月頃に定着しました。でもこの撮り方は、富士フイルムのカメラだからこそ身に付いたものなのかな、とも思うんです。
フィルムシミュレーションがあるから安心できる
――どういった要素から「富士フイルムのカメラならでは」だと感じるのでしょうか?
撮って出しの時点で、フィルムシミュレーションの描き出す色味が良いじゃないですか。チェックするたびに安心して撮影を進められますし、僕自身のスイッチが入るきっかけにもなるんです。基本的に『X-T3』を使っていた頃はクラシッククローム、『X-Pro3』になってからはクラシックネガを使っています。蛍光灯の色味など、クラシックネガとの相性が悪い現場じゃない限り、他のフィルムシミュレーションを試すことはほぼありません。
その場でチェックした写真の色味や肌の質感が良いと「このまま撮り進めれば、絶対に良い写真が撮れる」とテンションが上がるんです。1枚の写真を追い込むか、追い込まないかを判断するときの勇気にもつながります。
――撮って出しの写真の精度が高いと、撮られる人も安心できそうですよね。
そうなんです! 自分が動く一方、モデルさんにも自由に動いてもらい、セッションをしているような感覚で撮影に臨むことが多くて。良い角度があったら一度動きを止めてもらい、そこからさらに完成形へと追い込んでいきます。モデルさん側も「こういう写真が撮れています」とチェックした写真の色味が美しいと、安心してポージングができますよね。表情や動き方もリラックスするのが分かるんです。フィルムシミュレーションで色味がチューニングされることで、お互いのテンションを高め合えるのは、Xシリーズの魅力だと思います。
――最後に、藤澤さんが活動を続けるうえでのモチベーションになっていることを教えてください。
もともと「人に対し深く広く幸せな影響を与える」という人生軸があって。バンド活動も然り、相手が喜び、楽しんでいる姿を見ることが好きなんですよね。不特定多数ではなく、一人一人と深く関わることのできるポートレート写真は、自分自身の人生軸にもすごくマッチしている。「良いポートレート写真を撮る」こともまた、人に対し良い影響を与える手段の一つだと捉えています。
同時に、写真塾の講師やフォトウォークの企画などの活動も「深く広く幸せな影響を与える」活動だと思っていて。というのも、僕自身が『CURBON』や『shinya写真塾』のような場を通し、幸せになれたからです。写真に没頭する楽しさだけではなく、写真好きの友人とも繋がることができた。今度は自分が与えられる側になれたら良いな、と思いながら講師活動を続けています。僕自身の写真の特徴は、音楽やファッションといったカルチャー色を取り込んでいるところ、そして1枚絵の強さがあるところだと思います。より良い写真を撮り、影響力の範囲を広げていきつつ、人に幸せな影響を与えていく。これからもそういった活動を続けていきたいです。
text by 高木 望