『GFX100S』で撮る冬のアートとプリントの魅力〜星野 翔 vol.2〜
皆さんこんにちは。森の写真家、星野 翔(@shocha_photography)です。埼玉県で生まれ育ち、作品作りのために長野県に移住し活動しています。普段は森の中に入って木々の生き様や命の循環、気候現象などに着目して作品作りをしながら、写真展やワークショップなどを行っています。
さて第2回コラムでは、”冬の撮影”と”プリントの魅力”について話していこうと思います。
冬のアートを見つけよう
寒い冬って、なんだか外に出るのが億劫になってしまいますよね。しかしそんな日こそ自然の中に入ってみると、非日常的な素晴らしい光景に出会うことができます。そんな冬の作品をどういったシチュエーションで撮影したらいいか、作品と併せてご紹介していこうと思います。
霧氷
冬の撮影の醍醐味と言えば霧氷です。よく雪が木に積もっているだけでも霧氷と勘違いしてしまいがちですが、成り立ちとしては全く違います。霧氷は天気をしっかり見極めれば、比較的簡単に出会うことができます。湿度の高い日、夜から冷え込み(大体-5℃以下)、日の出までよく晴れた日に霧氷は育ちます。放射冷却によって空気中の水分が木に付着し、低い気温でそれらが凍り、霧氷となって形成されます。また前日から濃い霧に覆われ、その霧の水分が木にぶつかることでも霧氷は形成されます。要するに気温と湿度が非常に重要となってくるわけですね。
そんな霧氷、「雪が木に積もっているだけでも白いし綺麗じゃん!」と思われる方もいるかもしれません。確かに雪が積もった白銀の世界も綺麗ですが、霧氷には霧氷の魅力があるんです。
まずはこちらの作品。夜中からよく晴れ、霧も出入りしていて湿度も十分でした。日の出直前の淡い光を拾って霧氷の木々に立体感を与えました。霧氷はただ雪が積もった木と違い、枝の一本一本の先端まで氷化しているので本当に繊細で美しいんです。その細かなディテールが作品に優しさや温かみ、美麗さをもたらしてくれます。
彩雲
前述した条件下よりもさらに低い気温で、さらにそこに強い太陽光や豊潤な水分を持った雲や霧が加わると、彩雲という大気光現象が起こります。冬場など空を見上げてみると太陽が雲に隠れた時に、その雲の縁が虹色になっているのをよく見かけるかと思います。それが彩雲という現象です。
上の作品は2022年1月頃撮影しました。この虹色の霧も大気光現象の一つで、強い逆光下で霧の塊が目の前を通過した時に霧が虹色に輝き出しました。すぐさまシャッターを切って撮影したのですが、こんな体験は初めて。普段見上げて見ていたような彩雲の現象が自分の目線と同じ高さで、さらに近くで発生しているんです。本当に不思議でした。こんな想像を遥かに超えた写真を撮ることができるのも冬撮影ならでは。今年も出会えるかなと僕自身もわくわくしてます。
自然のアート
冬に足元や身近なものを注意深く見てみると、強風によって雪面に色々な模様をつくるシュカブラや、湖が凍結してできる氷の模様など、種類に富んだ自然のアート作品がたくさん転がっています。
こちらの作品は前日からの強風で出来た雪の模様。まだら模様の凹凸に朝日の柔らかいオレンジの光が当たり、独特な模様の輪郭が浮き上がりました。
次は凍結した小さな池の亀裂。複雑に枝分かれしたその亀裂はまるで木のように見えました。このように全く別の物へ連想させることも、自然のアートを撮る上では重要になってきます。
こちらは窓霜。完全に”自然”とは言えませんが、部屋の中と外の気温差によって結露が起き、それが霜となって様々な模様を作ります。その日その日で一つとして同じ模様はできないので非常に面白い現象です。前述したように、何かに連想させて撮影することでよりアートな作品へ生まれ変わります。
最後に彩氷という現象。池や水たまりなどでできる薄い氷に太陽の光が約45°で斜めに入ることで、氷が虹色に輝く現象です。CPLフィルターをくるくると回すと虹色が浮かび上がってきてとても幻想的です。薄い氷があったら是非試してみてください!
このように冬は気候現象も含めて、非常に多くのアートを撮影することができます。今回のコラムで挙げた現象の他にもたくさんあるので、是非皆さんも冬ならではの現象に出会ってみてください!
プリントの魅力 “無形から有形へ”
最後に少しだけ真面目に、プリントの魅力についてお話したいと思います。皆さんは自分が撮影した写真をプリントしたことはありますか?最近はInstagramなどのSNSが主流となり、Web上に投稿して終わりという方が多いかと思います。しかし撮影した写真はプリントして初めて、”作品”として命が吹き込まれると僕は思っています。
昨今のSNS流行によって、多くの人の作品がタイムラインに投稿されては、数秒でスクロールされていくことに少し違和感を感じていた僕は、2021年と2022年に2度個展を開き、森の作品を集めたフォトブックも自費出版しました。その時に感じた”じっくりと作品を観ていただく”という経験から、写真とは形にしてこそなんだと思うようになり、それ以降“無形から有形へ”というテーマを掲げ写真家活動をしてきました。SNSは手軽に作品を発表できるツールとして、非常に革命的だと思いますが、プリントするということもまた、作品を作り出す一人のクリエイターとして、切っても切り離せないことだと思っています。
こんな大それた話をしましたが、最終到達点を”SNS投稿”から”プリントする”ということに意識を持っていくことで、撮影する時にも設定や構図など細かい部分まで気をつけるようになります。白飛び黒潰れしていないか、画角内に不要な要素はないか、葉っぱや枝がブレていないかなど、大きな紙にプリントした時に気づきそうな要素も、カメラの小さいモニターでは中々気づかないこともあります。小さなことでもそれらが積もり積もってしまえば作品としてのレベルが落ちてしまうので、なるべくそれらを見落とさないように撮影時から注意していくことが大切だと思っています。
またプリントすることは作品にするだけでなく、良い写真と良くない写真の取捨選択にも使うことができます。
僕が普段からやっている方法を一つ、ご紹介したいと思います。よく2L判などの小さいプリント用紙が100枚セットなどで販売されていますよね。まずは自分の作品を50枚でも100枚でもざっくりと選びプリントし、100均などで売っているようなアルバムに入れます。これだけで自分の簡易的なポートフォリオが完成します。それを客観的に眺めてみたり知り合いや家族などに見てもらい感想を聞いたりして、「なんか微妙だな…」という写真を抜きます。そうするとポートフォリオには良い写真だけ残りますよね。さらに数ヶ月後に同じことをして、良いと思う写真を抜かれたスペースに新たに差し込み、さらに取捨選択していき……とトーナメント戦のように繰り返していくと、いつまで経っても未完成のままのポートフォリオが実質出来上がっていきます。方法はこれだけです。
これは自分の悪い癖だったりを客観的に見直す上達方法だと僕は思っていて、この未完成ポートフォリオ作戦を実行してからは、撮影する時に無駄なショットを格段に減らせたり、良い癖・悪い癖を見直すことで直接的に撮影技術も向上したなと実感しています。もちろん省いた写真も無駄にはならず、自分だけの反省材料として残すことで全く無駄にはなりません。時間はかかりますが今プリンターをお持ちの方や、これからプリンターを購入してみようと思っている方は是非やってみてください!プリンターは本体も高いし、用紙代やインク代も嵩むし、色々と維持費はかかってしまいますが、もし撮影技術をもっと向上させたいという方がいれば、本当におすすめしたい機材の一つです!
第2回のコラムはいかがだったでしょうか?今回は写真に対して深く踏み入って話してみました。冬の撮影やプリントについて興味が湧いた!という方がいたら嬉しいです。
次回は”あのGFXシリーズ最新機種”についてです!お楽しみに!