秋の名月を風情たっぷりに撮る・前篇〜Xシリーズで四季を撮るテクニック〜
春・夏・秋・冬、日本の四季にはその季節にしか撮れない、素敵な瞬間がたくさんあります。この企画はそれぞれの季節における様々なシーンをXシリーズで印象的に撮影するテクニックやアイデアをお届けします。
今回のテーマは、美しい月。月は身近な存在で通年楽しめますが、“中秋の名月”などからもわかるように、秋は月が美しく見える季節として知られています。空気が冷たくなりはじめ、どこか感傷的な雰囲気をまとう秋の月を撮影するコツを、フォトグラファーの鈴木文彦さんに教えていただきました。今回はPoint1〜3までの前編です。
Point 1. 秋の静けさと月の明るさをやさしく表現する色味に設定する
秋の月と少しセンチメンタルな夜を表現するために、コントラストが低く、シネマチックで淡い表現に向くフィルムシミュレーション『ETERNA』を使用していきます。映画用の同名フィルムを元にしており、軟調で広いダイナミックレンジを誇るモードとして人気があります。想像以上に明るい月のディテール表現、周囲の空への光の拡がり、しっとりと落ち着いた雰囲気の夜景などが期待できるモードです。
Point 2. 月の動きを知る
月の写真をいざ撮ろうとすると、月の出の時刻、月の入りの時刻、軌道の方角は太陽と比べて日々刻一刻と変化していくということに気付きます。そして、月の出直後、高く昇った月、月の入り直前などで月の明るさは変わり、また太陽との関係で表情も大きく変わることを知っておきましょう。月の動きの情報はWebサイトなどで入手可能。まず、月の高さや時間帯による描写の違いの例を挙げていきますので、どのような月を撮りたいかを吟味してみましょう。
月の出から30分頃
日没前後のマジックアワーと月の出時間が重なると、淡い色の空に浮かぶ月が撮れます。また、月の高さは低いため、風景の一部として月を使うことができますし、月がさほど明るくないため、月以外の風景との明暗差が少なく撮りやすいです。“月の出から30分”。これがまず月写真を撮る上でのゴールデンタイムです!
月の出から120分頃
月の出から120分ほど経過した夜20時過ぎに東京駅に降り立ちました。すぐに月の位置をWebサイトで確認し、丸の内口へ向かい撮影。月の位置を把握できるようになると、ランドマークを起点にどのように動けば月がフレームに収まるかがわかってきます。
月の出から4時間頃
月が高く昇ると、月の色は白く強烈になります。超望遠レンズを使い、月を大きく精緻に撮ることが目的ならば月が高く昇った時間帯での撮影が最適です。
明け方
明け方の月。うっすらとピンクがかった朝のマジックアワーとともに撮影することができました。月の出と朝のマジックアワーが重なることももちろんあります。
日の出から1時間後ぐらい
月の入りが日の出後だと、明るい空の中、白くかわいらしい月を撮ることができます。この1枚は、日の出から1時間後くらい、朝陽がさんさんと差しているような状況で撮影しています。
Point 3. 撮りたい月の大きさに合わせてレンズを選ぶ
月をどのような大きさで写したいかによって選ぶレンズは変わってきます。クレーターは35mm判換算で200mm程度から写ると言われています。今回は『XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS』と『XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS』の2本を使い撮影しており、望遠端は約305mm相当(35mm判換算)でしたが、かなり大きく月を写すことができました。
姿を現した中秋の名月。XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISの望遠端で撮影しています。建造物を大きく入れることで、望遠ならではの圧縮効果を存分に味わうことができます。月の異様なまでの存在感を楽しむのは、月の出、月の入りの時間帯の醍醐味でしょう。月は明るいためAFで問題なく撮影できることがほとんど。MFを使用する際は、きちんと拡大表示をして確認するのが鉄則です。レンズにある『フォーカスリング』を回すことでフォーカシングをおこないます。
こちらは35mm(35mm判換算)相当の画角で撮影しています。街並みを構図に入れようとすると、月はかなり小さくなります。ただ、月が写真に写っていることで時間帯などの情報を伝える効果があったり、写真の中のワンポイントになったりもします。
同じ場所から望遠で切り取ってみました。月がグッと目立つようになりました。今回使ったX-T4は手ブレ補正機能を搭載していますが、望遠撮影時はセルフタイマーや連写モードを使い、シャッターボタンを押す際の手ブレを防ぐとさらに上手く撮れる可能性が上がります。
後編では、明るさの調節やホワイトバランスの変更での写りの違い、月を使ったユニークな撮影方法などをご紹介します。
text&photo by 鈴木文彦