フォトグラファー・飯田聡子の“自分らしい写真”を見つけるまで
カメラが⼿に馴染むようになってくるころ、おそらく多くの⼈が考えるのは“⾃分らしさをどう表現するか”ということではないでしょうか。現在プロとして活躍されているフォトグラファーの⽅々も、きっと「これだ!」という形に出会うまでは紆余曲折があったはず。そこでIRODORI では、Xシリーズを愛用しているフォトグラファーの皆さんに“⾃分らしい写真”を見つけるまでのストーリーやそれを叶える機材・設定などを詳しく綴っていただきます。第11回はフォトグラファーの飯田聡子(@fotopia)さんです。
Vol.11:飯田聡子
ニューボーンフォトを専門に撮影しているフォトグラファー飯田聡子です。東京を拠点に、お客様のご自宅に伺う出張撮影スタイルで、新生児の赤ちゃんを撮影しています。
“ニューボーンフォト(Newborn Photography)”とは、生後数週間以内の赤ちゃんを撮る写真のジャンルで、米国やオーストラリアで広がった分野です。ニューボーンフォトの一番の特徴は、胎内にいたときと同様の丸みを帯びた独特な身体の形状を再現している点にあります。新生児は、お母さんのお腹の中にいたときの胎内姿勢を記憶しているため、その限定された時期にしか撮れない神秘的な姿を撮ることができます。
私は学生時代から写真を撮ることを趣味としていました。大学卒業後外資系金融機関に就職をして、娘が生まれたのをきっかけにベビーキッズを撮るフォトグラファーに転身しました。その後、ニューボーンフォトと出会い、ニューボーンフォト活動を始めて今年で10年目に入ります。
お客様の撮影に加え、5年前からプロカメラマンやスタジオ向けのワークショップや勉強会、セミナー講演なども行い、少しでも日本のニューボーンフォト業界に貢献できたらという思いのもと、活動しています。
海外で学んだニューボーンフォト
フォトグラファーになった当初は、ベビー・キッズのロケーションフォトを中心に撮影していましたが、活動を続けていくうちに、「よりアート性の高いポートレートフォトを撮りたい」と思うようになりました。
しかし、お客様から撮影のご依頼をいただく中では、撮影する場所や時間、衣装なども限定され、思い描くアートフォトを撮影するのは難しいと感じていました。例えば、ロケーションが限定されたり、理想の光の中で撮影するためには早朝や夕方の限られた時間にしか撮ることができなかったりなど、なかなか理想の条件のなかで撮ることができませんでした。
そのようなことを悩んでいる中で、ニューボーンフォトに出会い、生まれたばかりの赤ちゃんの神々しい姿そのものが芸術だと感じました。また室内のたった3、4畳のスペースで、小道具や小物を使って自分の世界観を作って表現できることにもとても惹かれました。まさに私が求めていた写真のジャンルだと感じました。
当時日本では、ニューボーンフォトを撮っているフォトグラファーさんが数人しかいなかったため、学べる所がなく、海外でニューボーンフォトを教えている写真家さんを必死で探しました。娘もまだ小さかったため、海外に渡って学ぶことが難しく、最初は、当初珍しかった海外のオンライン講座を受講して、ポージング技術や安全の取り組み方の基礎を学びました。その後、オーストラリアで本格的に学び、現在に至ります。
生まれたばかりの赤ちゃんを預かっての撮影は、安全性の徹底化が最も大切で、長く活動してきた現在でも撮影するときは緊張を伴いますが、出会う赤ちゃんひとりひとりの純粋無垢な姿に心が震え、撮影できる喜びを毎回感じています。こんなに素敵な仕事に出会えたことをとても幸運に思っています。
インテリアアートとして飾る写真を目指して
私は現在、“ニューボーンフォトをご自宅にインテリアアートとして飾る”というコンセプトをもとに活動しています。
娘が生まれたときから毎日のように撮影して、写真と向き合うなかで写真はカタチにしてこそ、完成するのではないかと思うようになりました。
写真は、撮る人の被写体に対する想いを投影するものであると同時に、カタチにしてその想いを届けることも重要な役割だと思っています。
我が家では、娘が赤ちゃんの頃からお気に入りの写真を丁寧に額装してリビングや廊下、遊びスペースなど、色々な場所に飾っています。娘も毎日視界に入る写真から、無意識でも何かを感じ取っているように思います。
現在思春期真っ盛りの娘ですが、「小さい頃からママが写真を飾っていることをとても嬉しく思う」と素直に伝えてくれて驚きました!親である私も、毎日慌ただしく過ごす生活の中で、ふとしたときに小さかった頃の我が子の写真が目に入ると、心が穏やかになり、今日も一日頑張ろうという気持ちになることがあります。
このような個人的な経験を通して、ポートレート写真を自宅に飾る素晴らしさを広めたいという思いが活動の根底にあります。
インテリアアートとして飾ることを前提にしているので、私のニューボーンフォトはとてもシンプルなものばかりです。ニューボーンフォトには様々なスタイルがあり、流行もありますが、トレンドに流されず世代を超えて残せる写真を意識して、色味やスタイリングもポーズもシンプルに、赤ちゃん本来の尊さ・美しさが引き立つ写真を意識して撮影しています。
Xシリーズは思い描く色を表現できるカメラ
ニューボーンフォト撮影では全てXシリーズのカメラとフジノンレンズを使用しています。
<カメラ>
X-T4 / X-T3
<レンズ>
XF35mmF1.4 R / XF16-55mmF2.8 R LM WR / XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
正直に申し上げますと、仕事で使用するカメラがAPS-Cサイズセンサーのカメラで良いのか、とても悩みました。しかし、2019年に企画写真展で撮影した写真を全紙サイズなどの大きいサイズでプリントして展示した際、プリントされた写真がフルサイズカメラに劣らないクオリティで画質も綺麗だったため、Xシリーズのカメラを選んで良かったと心から思いました。
Xシリーズのカメラの一番の魅力は、富士フイルムにしか出せない色味にあると思います。
私は、学生時代からカメラが趣味で、富士フイルムのフィルムを愛用していました。そのため、Xシリーズに搭載されているフィルムシミュレーションのProviaやVelviaなどは、とても馴染みがあります。
ニューボーンフォトでは、赤ちゃんの肌の色も含め、色から雰囲気を伝えることを大切にしていて、思い描く色を表現できるところがとても気に入っています。
ただ、新生児の場合、黄疸の色味が強かったり湿疹が出たり、新生児落屑という皮が剥けたりして、まだ肌が安定していないので、レタッチすることが前提になります。そのため、基本的にはRAWデータで撮影してその後Photoshopでレタッチを施しています。
またカメラ自体のフォルムがレトロでとても可愛く、カメラを持つだけで気分が上がります!究極のポジティブなエネルギーの塊である赤ちゃんと向き合うので、自分自身も気持ちよく撮影できる環境づくりがとても大切です。お気に入りのカメラであるXシリーズでの撮影は、私自身とても心地いいと感じています。
人生の振り返りが“自分らしさ”に繋がるヒントに
他の写真家さんたちの写真を沢山観ることでインスピレーションを得ることも大切ですが、自分らしさを見つけるためには、“自分と対話”をする時間を作ることをお勧めします。写真は撮る人の心を投影するもの。“自分らしさ”は、自分の人生を丁寧に振り返ってみると、意外とそこにヒントが隠されていることがあります。
例えば、子どもの頃に夢中になったものや感動した出来事、衝撃的だった思い出、ほろ苦い思い出など振り返ってみる。写真とは全く関係のないと思える出来事も、描きたい世界観と繋がることがあるかもしれません。
私は、毎年紙に書きだすことをしていますが、毎回新しい発見があり面白いです。
すっかり忘れていた自分の記憶を辿っていくと、点と点の出来事が結ばれて線となり、自分が表現したいことの発見につながっているのだと感じています。
皆さんもぜひお気に入りのノートとペンを持って、静かなカフェでお茶を飲みながら色々なことを書き出してみてください。自分の歩んできた道を辿ってみると“自分らしさ”のヒントがそこにあり、ファインダーを覗いたときに世界が変わって見えるかもしれません!