フォトグラファー・Arataさんの“自分らしい写真”を見つけるまで
カメラが手に馴染むようになってくるころ、おそらく多くの人が考えるのは“自分らしさをどう表現するか”ということではないでしょうか。現在プロとして活躍されているフォトグラファーの方々も、きっと「これだ!」というかたちに出会うまでは紆余曲折があったはず。そこで、IRODORIではXシリーズを愛用しているフォトグラファーの方々の“自分らしい写真”に出会うまでのストーリーやそれを叶える機材・設定などを詳しく綴っていただきます。第6回目は“日常を映画に”をテーマに撮影した、田舎の風景を切り取った写真がTwitterで人気を集めるフォトグラファーのArataさんです。
Vol.6: Arata
平日は仕事をしている傍ら、休日に趣味で写真を撮っているArata(@arata_kid)と申します。現在は、主にTwitterなどのSNSを中心に活動しており、”日常を映画に”をテーマに、歩きながら出会った何気ない日常の一コマを撮影し、映画のような世界に仕上げてSNSで発信しています。
小さい頃から絵を描くことや写真を撮ることが好きで、旅行などにいく時はよく『写ルンです』を片手に持っていました。また、思い出として写真を残し、アルバムにしてあとで見返して懐かしむことが好きで、そこから写真好きが始まったのだと思います。
本格的に写真活動を始めたのは去年の8月くらいから。それまでは何気なく撮った写真を載せるだけでしたが、あるとき平塚で撮った写真が、平塚市が企画した『#hiratsukagood写真展』に選ばれたことがありました。そこで、「私たちの街をこんなに綺麗に切り取ってくれてありがとう」とSNSのフォロワーさんに言われたことがきっかけで、写真を通して地域の魅力を発信することに魅力を感じ、本格的に写真活動を始めました。
写真の上手い方々と自分の写真を見比べていた初期
写真を始めたての頃は本当に紆余曲折、葛藤の連続でした。SNSで活躍されている写真の上手い方々と、自分の写真を見比べては、「どうしてこんなに上手く撮れるんだろう」と落ち込む日々でした。機材沼にハマったのもこの頃です。「あの人と同じカメラなら、あの人と同じレンズなら」と結構、手当たり次第にカメラやレンズを買ったり売ったりを繰り返していました。
また、私の周りにはカメラをやっている人がほとんどいなかったので、カメラの知識は完全に独学で学びました。東京で開催されている大きな写真展などに足を運んでみたり、書店でカメラに関する本を読みあさったりもしました。『CP +』というカメラの展示会の無料講演を聞きに行くなど、自ら足を運び勉強しました。
ある程度学んだあとは、ただひたすらシャッターを切りまくっていました。1日に1回は必ずいいなと思った瞬間を撮るようにし、また自分がいいなと思った人の写真と同じ場所、同じ構図で写真をとり、どうしてこの場所・構図で撮ったのかを考察して自分の写真に活かしました。
“日常の中の幻想的なシーン”をテーマとした作品作り
今のスタイルに落ち着くようになるまで色々なジャンルを撮っていました。最初はガチガチに三脚を使った風景写真が多かったです。撮影の名所に足を運んでは、たくさんの知らないおじさんがドでかい機材で撮影している横で、ひっそりと撮影していました。現像もどちらかと言えば彩度・明瞭度高めのシャープネスガンガンみたいな仕上がりにしていました。SNS映えを狙ってですね(笑)。
しかし、そのうちに毎回三脚を立てて、たくさんの撮影者がいるところで撮影するのが億劫になってきて、また同じような写真を量産している自分にも嫌気がさし始めました。そんなときにふと、「誰のために写真を撮っているんだろう……。」と思ったんです。SNSの反応に縛られて、いつしか自分の“好き”を見失っているのではないかと。
そう思っていた矢先、冒頭でお話しした平塚写真展の出来事があり、いろんなところを旅して、その地域その街の暮らしや何気ない風景の魅力を伝えられたら素敵だなと感じたことで今のスタイルが出来上がったのだと思います。
SNSはその特性上、やっぱり小さいサムネイルでも目につきやすいインパクトのある、見栄えのする写真の方が人気も出やすいし、反応も多くもらえます。でも、それだけじゃないこと、みんなが日々歩いている日常とか、そこら辺の景色とかにも美しさや良さってたくさん潜んでいることに気づいてもらいたくて、そうした“SNS映え”へのちょっとしたアンチテーゼ的な気持ちもあります(笑)。
動画にも強い点も選んだ理由の一つ
本格的にカメラを始めるようになったときに初めて手にしたのはフルサイズのカメラでした。フルサイズがやはり一番良いという認識があり、どうせ始めるなら一番良いものからという考えで一番手頃に手に入りそうなフルサイズ機を選びました。その後、色々な機種を転々としました。しかし、日に日に大きさと重さに少し扱いづらさを感じるようになりました。特に日常を切り取るスタイルにしてからは、歩きながらスナップ的に使っていたため、フルサイズの被写界深度の浅さやレンズの重さへの不満が大きかったです。そんなある時、富士フイルムのカメラを使っている友人にカメラを触らせてもらう機会がありました。APS-Cのセンサーサイズでもフルサイズと遜色ない画作りと、フィルムシミュレーションの優秀さに驚いたことを覚えています。
私は普段、ETERNAを使用しているのですが、このフィルムシミュレーションにするだけでコントラストが低く、彩度は控えめになるので、手軽に映画のような雰囲気を作り出してくれるので愛用しています。
また、ボディサイズもレンズサイズも私の用途にピッタリでした。そしてなんといっても、操作系統がとても合理的で洗練されている点が最も気に入った理由です。X-T1桁の機種はISO・シャッタースピード・F値全てにダイヤルがあり、直感的に設定することができます。また、動画にも強い点も選んだ理由の一つです。良いところをあげればキリがないですが、富士フイルムにしか撮れない画というものが確かにあると思います。最初に手にしたXシリーズのカメラは『X-T3』でしたが、今は『X-T4』と『XF16-55mm F2.8 R LM WR』を主に使用しています。
X-T3も本当に優秀でまだまだ最前線で活躍できるカメラですが、X-T4に替えた一番大きなポイントは、バリアングル液晶が採用された点と、ムービーとスチールがワンタッチで切り替えでき、それぞれの設定を保存できることでした。また、強力な手振れ補正が搭載されたことも魅力です。X-T3でかゆいところに手の届かなかった部分が一気に改善されていて、ユーザーの意見がすごく反映されているなと富士フイルムのものづくりへのこだわりも感じられて、よりXシリーズに愛着が湧いています。
“自分が写真を始めた原点”を思い出すことが大切
私もまだまだ道半ばですし、偉そうなことは言えませんが、一つ言えることといえば、やはり“自分が写真を始めた原点”を思い出すことが大切だと思います。最初は誰かの真似から入ってみても良いかもしれません。私が映画のように上下に黒帯を入れて投稿するようになったのも、ある時SNS上で黒帯を入れている投稿を見て、これは面白いなと感じたのが始まりでした。
元々、映画が好きだったこともあってその色作りなどをよく学んでいたこともあり、すぐに映画のような表現を取り入れました。そこに自分の好きな“旅”という要素をプラスして、写真4枚で短編映画を見ているようなストーリー仕立てで表現することを思いついたのです。そうして、自分が旅した先の風景を切り取りながら、ストーリー仕立てでその魅力を伝えていくスタイルが出来上がりました。
真鶴のいいとこ、映画仕立てで。
【道中編】 pic.twitter.com/X7xvU0gjlC— Arata (@arata_kid) June 1, 2020
自分らしさを発見するまでの葛藤は長く苦しいと思いますが、何か自分の原点となった“好き”を思い出して、ただひたすら撮り続けることで、いつしか自分らしさというものが手に入れられるのだと思います。私もまだまだ理想には程遠いです。一緒に楽しんでいきましょう!