【Xシリーズユーザーインタビュー】文月ふみと『GFX 50R』 クラシックカメラ愛好家がデジタルで写す“私が見たい世界”
北海道を拠点に、静寂を纏った夜明けの空や、移ろいゆく風景の断片をSNSで発信している文月ふみさん(@ fumitsuki_fumi)。その表現の根底にあるのは、長年愛用してきたクラシックフィルムカメラへの深い愛と、熱狂的ともいえるカメラへの探究心です。中判フィルムカメラの描写に魅せられ、アナログな手法で“理想の世界”を追い求めてきた彼女が、本格的なパートナーとして手にしたのが『GFX 50R』。冬の厳しい自然環境やフィルムの高騰という現実と向き合うなか、デジタルという新たな選択肢に彼女が求めたものとは? 今回は、フィルムでの表現を熟知する文月さんが『GFX 50R』に寄せる納得感と信頼、そして“いま”を記録し続ける写真表現の哲学についてお話を伺いました。
Interview:文月ふみ
夜明けの空に魅せられて。
手のひらから始まったカメラとの歩み
──今回はまず、カメラとの出会いや活動について教えてください。
最初に写真っていいなと思ったのは15年ほど前、きっかけは、当時雑貨屋さんで売っていた110(ワンテン)フィルムのキーホルダーみたいなトイカメラ。すごく可愛くて、手頃な値段だったので「本当に写るのかな」と軽い気持ちで買ってみたんです。撮影して現像に出したら意外とちゃんと写っていまして、「フィルムで写真撮るのって楽しいな」って。そこから、現像に出した写真屋さんを通じてつながりが広がって、北海道の風景を撮影しに行くようになり……ズブズブと写真の沼にハマっていったという感じです。
──手のひらサイズのトイカメラから、今に続く活動が始まったのですね。北海道を拠点に活動していらっしゃいますが、地元も北海道なんですか?
生まれは関東ですが、育ちはずっと札幌です。ただ、いわゆる北海道らしい壮大な風景が生活圏内にあるかというと、そういうことでもなく。カメラを始めた当時は車にも乗っていなかったので、近所の公園でお花なんかを撮ることが多かったんですけど、写真屋さんと出会っていろいろなところへ連れていってもらえるようになってから、北海道の自然の魅力を知りました。写真を本格的に撮るようになってからは、自分でもあちこち行くことが増えましたね。
──被写体の機微を静かに切り取る文月さんの世界観は、さまざまな景色との出会いのなかで確立されていったのですね。
最初のころは、友達と遊びがてら撮影に行ってキラキラとしたカラフルな写真を楽しく撮る、という今とは真逆の撮影スタイルでした。だけど、なんだかしっくりこないと感じることも増えていて。「本当に自分が撮りたいものってなんだろう」と考えていたときに、たまたま夜明けに撮影に行く機会があったんです。薄明かりの空に細い月と金星が並んでいる光景を見て、人々が動き出す前の静かな時間帯にこんなにも美しい風景が広がっているんだということに、とても感動しました。そのときの体験をきっかけに、夜明けや夕暮れの静かな時間をメインで撮るようになってから、自分の中でもすごくしっくりくる感覚を掴めたように思います。そうして撮影した写真をSNSで発信するようになってからは、「世界観が好きです」と言ってもらう機会も次第に増えて、お仕事の依頼をいただくことも少しずつ増えました。撮るものの幅も少しずつ広がってきたように思います。
『GFX 50R』に重ねる、クラシックカメラへの愛
──撮影スタイルや幅の変化と並行して、さまざまなカメラを手にしてこられたとのこと。トイカメラ以降の変遷についても教えてください。
トイカメラの110フィルムを現像に出したカメラ屋さんに、古いフィルムカメラも売っていたんです。店長に相談して、1968年に発売されたハーフのコンパクトカメラを購入しました。その後、自分でピントを合わせてみたいと思い、コンパクトなフィルム一眼カメラをメインで使っていたのですが、そこからさらに中判カメラに興味が湧いて、スウェーデンのメーカーのカメラを購入しました。今メインで使っているのは、国内メーカーの中判フィルム一眼カメラ。これは夫のお父さんから譲り受けたカメラなのですが、使ってみる前は「どうしてこんなに大きくて重いカメラを使うんだろう」とあまり魅力を理解できなかったんです。だけど、実際に使ってみるとブローニーフィルムに写し出される描写が圧倒的に美しくて。それまで撮ってきた写真とは違う、より自分が撮りたいものを残せるような感覚があって、今もメイン機として使い続けています。
──さまざまなフィルムカメラに触れるなか、『GFX 50R』に出会ったということですね。長年フィルム一筋の文月さんがデジタル一眼を手にした理由や、そこに求めたものとはなんだったのでしょう?
まず、最近フィルムの価格がすごく高くなったこと。そして、冬の撮影時にカメラの調子が悪く思うように撮れなくなってきたことが、デジタルでも撮れるようになりたいと考えるようになった大きな理由ですね。中判デジタルで検討していたのですが、もともと『NATURA CLASSICA』と『FUJIFILM KLASSE S』を使っていたこと、本格的にカメラをやっている友人たちが最終的にGFXシリーズにたどり着いていることから、あまり悩むことなく『GFX 50R』に決めました。繊細な表現をしてくれるので、自然を撮るときにもすごくマッチしている感じがします。
──『GFX 50R』は、防塵防滴・耐低温構造のフィールドワークに適したモデル。そういった点でも、文月さんの撮影スタイルにぴったりですね。
冬の北海道の撮影はカメラにとって過酷なので、そこはとても頼もしいですね。持ち歩きもしやすいですね。「GFXシリーズは重い」という意見もネットで見かけますけど、普段すごく重い中判フィルムカメラを持ち歩いている私にしてみれば、まったく苦にならないサイズ感です(笑)。デザイン面も、自分が持っていて嬉しいと感じられるところが気に入っています。真四角でクラシカルなデザインには馴染みがありますし、他のフィルム一眼と同じような感覚で撮れるというところがすごくしっくりきています。
──夜明け前や星空の撮影は、どのくらいの頻度で実施されるのでしょう?
1週間に1回ぐらいは行っていると思います。天気予報を見て「明日の朝は天気がいい」と思ったら、撮影に行きたくなっちゃうんです。天気はもちろん、風が穏やかなときは水辺に行きますし、月の満ち欠けもチェックしています。自然のことなので、なかなか条件が揃うことが難しいので、タイミングさえ合えば積極的に撮影に行くようにしています。
──常に持ち歩くというよりは、条件が揃ったときにしっかり撮りに行くスタイルなんですね。『GFX 50R』を手にしたことによる変化などはありますか?
フィルムカメラだと、どうしても枚数が限られてしまうので、依頼というかたちでの撮影はあまり受けてこなかったんです。でも『GFX 50R』であれば、枚数も撮れますし、ボケ感も納得いく感じで撮れているので、人物撮影もできるという感覚があります。これまでは自分が表現したい世界観のためにカメラを使ってきましたが、今後は誰かが残したいと思う瞬間に寄り添うような撮影ができるんじゃないかなと『GFX 50R』を持って感じるようになりましたね。
カメラ越しに見つめる、移ろいへの愛おしさ。
──フィルムカメラの描写力や質感に長年触れてこられた視点をふまえ、GFXシリーズの表現にはどんな印象をお持ちですか?
これまで他メーカーのデジタルカメラを使う機会もあったのですが、デジタルのパキッとした色味やコントラストの強さが気になったり、レタッチにも難しさを感じていました。その点、『GFX 50R』は違和感がないというか、自分好みのしっとりした写真になるので、すごく気に入っています。
──レンズは、基本的にオールドレンズを使っていらっしゃるそうですね。GFXでオールドレンズを使用することで生まれる表現の魅力とはどんなところにあるのでしょう?
『GFX 50R』での撮影を自分のものにしていくなか、ずっと愛用してきたオールドレンズを使うことでスムーズに移行できた感覚があります。もちろん純正レンズを使ってみたい気持ちはあるのですが、今は手にあるもので自分の撮りたいものが撮れないかなといったところ。長年親しんできたフィルムの質感をデジタルで表現することに重きを置く上で、オールドレンズによって納得のいく表現ができることが多いなと思っています。
──描写力と併せて、フィルムシミュレーションによる独自の色表現も富士フイルムの強みのひとつ。『GFX 50R』で撮影する写真の色味や質感には、どのような印象をお持ちですか?
写真を撮る上で、私がとくに大事にしたいと考えているのは質感。派手で強い表現より、しっとりした空気感や柔らかさが感じられるものを撮りたいなと思っています。『GFX 50R』はそうした意識に応えてくれる感覚があります。色味に関しては、とくに空のグラデーションがすごく自然で美しいなと感じます。どこか懐かしく、感情が残るようなフィルムに通じる表現もフィルムシミュレーションを使うことで違和感なくできている実感があります。
──お気に入りのフィルムシミュレーションはありますか?
『クラシッククローム』や『クラシックネガ』をよく使っています。落ち着いた色味が好きで、主張しすぎない表現がこれまで撮ってきたフィルムフォトに通じるものがあります。普段は、ホワイトバランスを風景に合うように調整するくらいで、他のトーンカーブなどはあまりいじっていないですね。撮って出しでも自分の中で納得感のある写真になっているなと感じています。
──文月さんの作品は、静けさと光の美しい表現に目を惹きつけられます。ご自身の世界観を表現するために不可欠な要素とはなんでしょうか?
撮影する時間帯はとても大事だと思っています。夕暮れや夜明けの光には、日中にはない透明感がありますし、時間帯によって同じ場所でも表情が変わるので。それと、これは感覚的なものですが、「今だ」と思った時を見逃さないこと。枚数に限りのあるフィルムカメラと違って、デジタルは枚数を気にする必要がないので、感覚で絶対に残したいと感じたときは、スルーせずに納得できるまで撮るようにしています。そこも『GFX 50R』を手にしたことによる変化のひとつですね。
──それは、カメラを通して自分の直感を肯定する作業とも言えるかもしれませんね。X/GFXシリーズのブランドタグライン『愛おしさという哲学。』という言葉にも繋がりますが、文月さんは「残したい」という気持ちを写真にどう紐付けていますか?
私は、これからも在り続けてほしいものを残したくて写真を撮っているのかもしれません。これまで撮り続けてきた風景も周りの人も自分自身も、気持ちや思いも少しずつ変わっていくなと感じるので。だからこそ、今目の前にある時間や、そのとき大切にしている自分の想いが写真に残ったらいいなと。好きで通っていた場所が撮れなくなってしまうこともあったので、撮れるときに残すことは大事にしたいです。
──カメラを通して、世界を丁寧に見つめているからこその感覚ですね。
私の写真は「こんな世界が見てみたいな」という理想を写真に残していることも多いので、現実とはちょっと違う部分もあるんです。だけど、実際に目の前にあった時間なので、後から見返して「こんなに美しい時間が流れていたんだな」と見られるのはカメラのすごいところだなと。もうすぐ、道北の小さな町に移住するので、風景の中で暮らす感じになると思いますが、その街の季節ごとの風景や移り変わっていく時間を写真に残していけたらいいなと思っています。
text by 野中ミサキ/NaNo.works

























